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映画「異端の鳥(2019)」雑感|第二次大戦下東欧の市井を舞台にした「1917」的“地獄めぐりライド”映画

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映画『異端の鳥』をTOHOシネマズ日比谷シャンテで観てきました。以前シャンテで予告を目にし、おもしろそうだなと思っていた作品。とはいえ3時間弱の長尺だし重そうだし、「途中退場者続出!」なんていう触れ込みにも怖気付いていたのですが、ライムスター宇多丸さんの「ムービーウォッチメン」課題作品になっていたのでえいやっと行ってきました。結果、行って良かった! 面白かったと言うのはやや躊躇われる内容ながら、いやしかし面白かったです。

あらすじ

戦争孤児の少年が行く先々でひたすら地獄を見る。

雑感

超シンプルかつ救いのないあらすじにしてみましたが。まあ実質、ほぼそういう映画です。公式なあらすじにはもう少し詳細な背景が書いてあるんですけども、それを知らずに観たほうが最後にハッとできると思います(観終わってからムービーウォッチメンを聴いたら宇多丸さんも同じことを言っていた。ですよねー)。なのでこれから観る方は何も調べずとりあえず観ちゃうのがおすすめです。この記事でもそこには触れないようにします。

観ながら連想した映画は『1917 命をかけた伝令(2019)』でした。あちらは第一次大戦下の最前線に放り込まれるタイプの地獄めぐりライド映画でしたが、本作は第二次大戦中、ドイツ占領下の東欧の「戦場ではなく市井」を舞台にした地獄めぐりライドです(なお厳密に言えば、具体的な時代や土地は設定されていません)。

主人公は、どうやら身寄りのないらしいひとりの少年。いきなり衝撃的なバーベキューから始まり、彼の身の上にはとにかく災難が絶えず降りかかります。「あ、ここだめだ」「ここもだめだ」と、身を寄せては逃げ、身を寄せては逃げ、を繰り返す少年。その都度「生き地獄の見本市」とでも言うべきショッキングな展開のオンパレードを見せられ、観客としても「どうせここもだめなんでしょ!」「今度は何が起きるの!」と気が休まりません。その感じがじつに『1917』的エンタメ感とも言えて、映画体験という意味では、取りようによってはドン引きしつつもかなり楽しめるでしょう(そして取りようによっては途中退場となるでしょう)。

3時間弱の長尺、白黒の映像、絶え間なく降り注ぐ(オールジャンルの)ショッキング描写、そのくせ台詞も音楽もほとんどない一見地味げな映画。なのですが、細かくチャプター分けされた構成によって単調には感じないし(終わりの見えなさはある)、シネスコサイズの白黒はすごく綺麗だし、愚行のバリエーションには感心すらしてしまうし、説明はなくとも状況把握のしやすい巧みな作りになっているし、といった感じで、いやはや、よくできてますこの映画。

さらに一応その地獄めぐりの出口として、ほんの一瞬映るとある象徴的なものが「希望」を見せ、続く少年のとある行動がなんかわけわからんけどものすごく「いい後味」をもたらすわけです。九割九分「地獄めぐり」だったはずなのに「いい映画だったわ。面白かったわ」という感想を持ってしまう不思議な映画でした(ただ、そうは思わない方も一定数いるでしょう、と念押ししておきます)。

思い返すなかでああ面白いなと感じたのは、一番最初に彼「エリーゼのために」を弾いてたんですよね。いわゆる敵性音楽ですよね。彼の心の変化は見どころのひとつですが、そんな無垢なところから悲しいかなあんなことに巻き込まれて行くんだなあと。

そんなわけで、確実に人は選びますが鑑賞後も長く楽しめる面白い(と言うのは躊躇われるけれど──しつこいようだけど──、でも敢えて「おもしろい」ではなく「面白い」と書く…!)作品でした。ご興味ある方はぜひお試しください。『1917』が好きだった方なら比較的いけると思います。

(2020年180本目/劇場鑑賞)

ちなみに、キービジュアルになっている「首まで埋まっている少年」の画、どうやったらこの状況になるん、と思っていたらただただ普通に首まで埋められてました。しかも序盤で。びっくりした。