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映画「フェアウェル(2019)」雑感|異文化に溢れたシュールなホームコメディ

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映画『フェアウェル』を劇場鑑賞しました。「実際にあったウソに基づく」という小粋な一文から始まるこの作品は、監督ルル・ワンさんの実体験をもとにしているそうで、監督自身を投影した役どころは『オーシャンズ8(2018)』『ジュマンジ/ネクスト・レベル(2019)』などのオークワフィナさんが演じています。

あらすじ

ニューヨークに住むビリー(オークワフィナ)は、中国で暮らすおばあちゃんナイナイが大好き。いつものように電話をかけたが、その日はどこか様子がおかしかった。

ナイナイは病院で検査を受けているところだった。その結果は親族にのみ知らされることとなる。肺がんステージ4、余命3ヶ月。

中国では高齢者に余命宣告をしない文化がある。ナイナイに勘付かれないよう、しかしお別れのため集まりたい。そこで、孫の結婚式を口実とすることにした。アメリカ、日本、各地からナイナイのもとへ集まった親戚一同は、果たして本人の前で秘密を貫き通せるのだろうか。

雑感

肺がんステージ4、余命3ヶ月。大林監督じゃん、などと関係のないことをいきなり考えていましたが、こんな頑なに余命宣告をよしとしない文化があるのですね。そんなところから始まって、この映画はとにかく異文化の見本市みたいな作品になっていました。

製作国はアメリカ、映画そのものもニューヨークで始まりニューヨークで終わりますが、メインの舞台は中国です。タイトルも先に中国語がどすんと出るので、映画間違えたかな?くらいの感覚がありました。どっしり中国映画でした。

近いはずのアジアの文化はじつは欧米の文化よりよっぽど知らなくて、例えばアメリカンハイスクールのプロムなんかはもはや「ああプロムね」って感じですけど、本作でいえば結婚式なんていう何でもないようなイベントすら「なにこれ?!」となったりする。とにかく異文化!異文化!という感じで面白かったです。

主人公ビリーはルックスこそ東洋人でありながら、幼くして両親とアメリカへ移住したため中国のことをあまり知りません。親族たちも普段は様々な場所で生活しており、余命宣告をしないという方針についても賛否両論のまま「結婚式プロジェクト」がスタートします(ちなみにお嫁さんは日本人で、全く中国語が話せない)。どちらかといえば欧米の価値観で育っているビリーは、おばあちゃんに本当のことを伝えたいともどかしく思っています。

わたしは根っからの日本人なので自分のなかで血が混乱するような経験はいまのところないのですが、最近観ていた韓国ドラマ『梨泰院クラス』に出てくる「外見はアフリカ系アメリカ人だけど父親が韓国人で自分のことも韓国人だと思っているキャラクター」だとか、ついさっきもテレビで陸上のサニブラウン選手(福岡出身)がまさにそういう話をしていたりして、ひとつ何か見えるものが増えたような感覚になりました。

「お別れ」と題された映画だからウェットなのかと思いきやむしろコメディ的なシュールさが強く(監督自身、インタビューで「タイトルも嘘」と言っている)、「泣き屋」という異文化から始まるお墓参りシーンなどは特に笑ってしまいます。なげえよ!っていう。泣かせにくる映画では全然ないので、泣こうと思って観ると拍子抜けするかもしれません。ちなみに好きなシーンは「オークワフィナさん首長いな〜〜と思ってたら乗せた!」と、「英語でお医者さんと病状の話」です。

また、おばあちゃんナイナイの辛辣な物言いだとか、親戚集まりにおけるお嫁さんのぎこちなさだとか、なんとなく是枝監督の『歩いても 歩いても(2008)』が頭をよぎったりしていたのですが、観終わってからWikipediaを見てびっくり、そのものずばり『歩いても 歩いても』からインスピレーションを受けたと書いてあるではないですか。なんでもルル・ワン監督は是枝監督の大ファンで、『そして父になる(2013)』を原案にした映画の計画もあるそう。これちょうどまたしても『梨泰院クラス』の監督さんも『そして父になる』をインタビューで挙げていたりして、是枝監督の世界的評価の高さをあらためて知ることとなるここ数日でした。

(2020年170本目/劇場鑑賞)