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大林宣彦監督作品「ふたり(1991)」本編と、“ウソからマコト”極まるメイキングの雑感

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4月に大林宣彦監督が亡くなり、どれか観てみようかなと思っていたところで最初におすすめいただいたのが『ふたり』でした。調べてみると確かにとても人気の高い作品、しかし配信がどこにもない! 最寄りTSUTAYAも潰れて久しいわたしは諦めて『HOUSE/ハウス(1977)』から大林映画の世界に入っていったのでした。それはそれで大正解だったんですけどね。

さてこの度なんとその『ふたり』が新たにBlu-rayとして発売されました! 買いました! ついでに言うと先月くらいから各所で配信も始まっております、ありがたや!

ふたり [Blu-ray]

ふたり [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/09/09
  • メディア: Blu-ray

おすすめしてもらったあの日から5ヶ月。その間に短編含めるとじつに40本近い大林作品を観漁ることになるのですが(まさかこんなことになるとは)、ついに念願の鑑賞です。

物語は、ざっくり言うと幽霊もの。高校生の姉を事故で亡くした中学生の実加は、あるときからお姉ちゃんの幽霊が見えるようになり、いつも傍で支えてもらいながら成長していきます。本作で映画デビューとなった石田ひかりさんがヒロインの実加を、当時若きベテランの中嶋朋子さんがWヒロインとなる姉の千津子を演じました。

大林映画は基本的に幽霊だらけですが、死者と生者がお互いを認知している幽霊ものとして真っ先に思い浮かぶのは『異人たちとの夏(1988)』でしょうか。風間杜夫さん演じる中年の男性主人公が、幼い頃に事故で亡くした両親とお盆のタイミングでうっかり再会してしまい──という物語。ヘンテコな映画が多い大林フィルモグラフィにおいて、「しみじみいい映画」度合いが高いのも『ふたり』との共通点と言えます。

異人たちとの夏』は、再会した両親と主人公が同年代になっている、という設定がミソ。母親役の秋吉久美子さんが妙に艶かしい魅力を放っていてなんだかキワドい、おまけに夏でじっとりしていて……そんな相乗効果が不思議な雰囲気を生み出している映画です。本作『ふたり』の場合は、寝癖頭で鈍臭さ満点のヒロインに対して、「お姉ちゃんのユーレイ」のほうがむしろヒロイン然とした制服姿の美少女。ふたり同じ画面内に収まっている時間も長いのに、でもこのぼやっとした妹のほうが間違いなく主役なんだよなあと思えるやはり不思議な映画でした。

さて、先ほど「しみじみいい映画」と書きましたが大林映画の場合その後味と内容は必ずしも一致しません(あんなにも胸打たれるいい映画だと思っていた『さびしんぼう(1985)』をもう一度観直したときの、後味と違いすぎる前半部の衝撃よ)。本作も例に漏れず特に前半部はなかなか心配になる場面の連続です。なぜ?!と疑問符が溢れる「第九」のシーン、いくらなんでも描いている内容に対してチープすぎる「姉の事故死」のシーン等々、これほど耐性が付いていてもまだ戸惑わせてくれるのか、と底無しの大林ワールドに脱帽しながら苦笑。しかし当然、エンドロールの頃にはそんな苦笑など忘れてどっぷり浸りきってしまっているのです。

でも正直、もうちょっと『廃市(1983)』レベルに全編しっとりしてる作品かなって、なんとなく思ってました。そんなはずはなかった。知ってた。(ずっと神格化している『廃市』もなにせまだ1回しか観ていないので観直したらたまげるかもしれない)

なんだか本作は特に感想が言語化しにくいので内容については書くのを放棄しちゃうとして(しみじみ、しみじみしとるんじゃ)、特典に収録されていたメイキング作品『千津子とその妹の物語 《ふたり》メイキング』やインタビュー等々から感じたことを少し。

前述したように、大林監督の映画って表面上はリアリティに欠けている、それが特徴なんですけども。ではリアリティを追求していないのかといえばその反対で。原作者・赤川次郎さんとの対談で監督が言うには、ヒロイン美加の通学カバンには「その日の予習が書き込まれた教科書」や、「実際にお母さん(役の富司純子さん)が作って詰めてくれたお弁当」が入っていたりするんだそうです。こういう撮影って普通はカバンの中に新聞紙の丸めたのが入っていたりする。でもこれはなんか重いな、なんだろうと思って中を見るとそんなものが入っている。そういうところからリアルが生まれる。

または、疑問符だらけの「第九」のシーン。合成と奇抜な映像効果で目が回るようなシーンなのですが、これはメイキングを観て驚きました。テキトーにサイケなエフェクトを施したわけでは全くなくて、1から10まで監督の脳内にしっかりイメージがあってそれを正確に再現した結果あのサイケになっている! すげえな?! と改めて大林宣彦という映像作家の凄さを思い知らされるワンシーンでしたので、あの卒倒するような大林ワールド的映像表現の数々がどこまで監督本人のさじ加減なのか知りたい方は是非ご覧になってみてください。

それから、とてもチープな「姉の事故死」のシーン。メイキングではこのシーンの撮影光景に密着しており、これがまたとてつもなく大掛かりなシーンなのです。狭い道で撮るため四分の一に切断したトラック、姉めがけて荷台から落ちてくる丸太への「演技」指導、まさかのスタントアクション、遠景に映るフェリーを遠隔指示で「すれ違わせる」徹底っぷり、二日がかりの大撮影──いやいやこんな大規模な撮影の成果が、あれですか?! そう思わなくもありません。しかし、あのシーンを思い出そうとしてみると印象として強く残っているのは最後、手首がカクンと力尽きる瞬間だけかもしれなくて。その手首の演技を印象付けるためにあの仰々しくもチープな導入を付けているのだとしたら。否、もはや確実にそうなのでしょう。

少々それた話もしてしまいましたが、言いたかったのは「ウソからマコトが出る映画」を実現するためには本気でウソをやらなければならない、ということ。少女のカバンには本気のウソを詰め込む。狂気のような合成シーンをいたって正気に製作する。到底リアルには見えない事故シーンに2日もかけて全力で取り組む。大林映画のラストに不本意ながらほろほろ泣かされてしまうのは、そういった「本気のウソ」の積み重ねが生んだマコトによるものなんだなあと、このメイキングを観てすごく納得した気がします。また本作に関して言えば「姉の幽霊というウソによって成長する主人公」の構図自体もウソから出たマコトなのですよね。最後には幽霊、消えるわけですしね。

で、さらになんですけど、メイキングのラストシーンが素晴らしいんです。「花束を抱え、寝台列車のデッキから涙ながらに窓越しの投げキッスを送る石田ひかり」。当然メイキングですから現実世界のワンシーンであり、彼女の視線の先に映っているのは見送りの大林恭子夫人なのですが、このシーンがもう、筆舌に尽くし難いといいますか、映画以上に映画らしいといいますか。18歳の夏休みを「ウソ」に捧げた石田ひかりさんが、本物の女優に成長して尾道をひとり去っていく。ウソからマコト、ここに極まれり……! たいへん感動いたしました。しつこいようですがこのメイキング、おすすめです。

そんなわけで、ああ書き漏らしがありすぎるけど、とりあえずここまで。

(2020年158本目/Blu-ray購入鑑賞)

ふたり [Blu-ray]

ふたり [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/09/09
  • メディア: Blu-ray
ふたり

ふたり

  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: Prime Video
本編149分に対して特典映像は173分という超お得なBlu-ray。87分のメイキング、赤川次郎さんと監督の対談、石田ひかりさん&中嶋朋子さんそれぞれのインタビュー、主題歌MV(本文から漏れましたが『草の想い』最高です)、未公開シーンなどが収録されています。未公開シーンをしっかりひとつのショートムービーに仕立てているあたりも、大林監督のフィルムへの愛が感じられます。

追記:書き漏らしをひたすら書く「2回目」の記事アップしました。