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映画「ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐(1960)」雑感|エメリッヒ版「ミッドウェイ」の予習を兼ねて

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ちょっとお久しぶりの戦争映画です。この週末からローランド・エメリッヒ監督の『ミッドウェイ』が公開ということで、いちばん関連性が高そうな作品『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』を観ました。シリーズではないのでしょうが『太平洋の翼(1963)』『太平洋の鷲(1953)』と似たようなタイトルを観てきてついに制覇、みたいな感じがあります(笑)

様々な描き方をされてきた太平洋戦争ものですが、本作では真珠湾攻撃ミッドウェイ海戦の前線にスポットが当てられ、なんと山本五十六が出てきません(厳密には出ているようだけど、思い出せないレベル)。ミッドウェイの場面においては空母「飛龍」とその艦載機パイロットたちがクローズアップされ、司令部のある赤城すらほとんど映されません。

真珠湾攻撃のパートで印象的なのは「明るい」ことです。なにせ圧倒的快勝。夏木陽介さん演じる語り部パイロットも「ワレ奇襲ニ成功セリ、ワレ奇襲ニ成功セリ!」と満足げに連呼し、空の上で上官に結婚の相談なんか持ち出しちゃうくらいの余裕です。

ちなみにこの場面でお目見えするのが、円谷特撮による巨大な真珠湾セット。『ハワイ・マレー沖海戦(1942)』の際に作ったモノクロの特撮映像(GHQも本物と思い込んだ力作。以降『太平洋の鷲』などに流用されている)を、今度はカラーでセルフリメイクしたかたちになるようです。こちらもやはり『連合艦隊(1981)』などに流用されており、わたしはそっちのほうで先に見ていましたね。しかしいくらよく出来ているとはいえ、真珠湾視点から描かれた『トラ・トラ・トラ!(1970)』を観たあとだと人気(ひとけ)のなさに複雑な気持ちが生じます。

さて、この快勝から今度はミッドウェイへと進んでいくのですが、戦況がいいので結婚式を挟んだりして時間の流れもゆったりしています。いざ出陣となっても「真珠湾があんなだったし、大丈夫っしょ!」てな感じで余裕しゃくしゃく。これまで観てきた映画だと第一次攻撃隊のミッドウェイ基地攻撃シーンって省かれてたように思うので、そこが真珠湾同様に映像化されているのは新鮮でした。「あれ、思ったより、苦戦するかも今回」という、日本側が形勢不利になる最前線での瞬間が描かれています。

そこから先はもうお馴染み、魚雷から陸用爆弾へ、いやしかし魚雷へ、そして惨敗。最後まで戦った空母飛龍は、日本軍自ら魚雷によって処分していたのですね……。魚雷を発射した瞬間の「あっ」という表情が印象的でした(あれはまるで切腹における介錯のよう)。かつては「ワレ奇襲ニ成功セリ!」と満足げに連呼していた主人公も「これが戦争だ、これが戦争だ」と曇った顔で繰り返し、『海ゆかば』が流れる。海底の飛龍では、艦長らが幽霊となってシニカルに語り合う。他の映画では「次」へと流れていってしまう場面が、この映画ではゆっくりと批判的に映し出されます。

さらに衝撃的なのは、生還した英雄たちが病院に閉じ込められ、回復すれば遠い戦地へ駆り出され、ミッドウェイ惨敗の隠蔽に使われていること。ひどすぎる。主人公の帰りを待つ実家のラジオから『軍艦マーチ』と共に勇ましく鳴り響く大本営発表も、これを境にひたすら捏造と隠蔽の報道へと転落していくようです。

(2020年159本目/PrimeVideo)

ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
日本の戦争映画 (文春新書)

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