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映画「レディ・バード(2017)」雑感|グレタ・ガーヴィグ監督×シアーシャ・ローナンの第一弾作品

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グレタ・ガーヴィグ監督のレディ・バードを観ました。監督&主要キャストが共通している『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2019)』の公開タイミングで観ようと思っていたのですがずるずる後回しになっておりましたよ。あるある。

物語の舞台はカリフォルニア州サクラメント。主人公クリスティンは思春期ど真ん中ガールなので自分の名前が大嫌い。あたしのことは“レディ・バード”と呼んで!とみんなに強要しています(黒歴史ですね†)。地元の大学へ進学するよう親から勧められても、こんな町いやだ文化のあるNYとかに行きたいと猛反発。きわめつけに髪の毛はピンクです。そんな彼女の、高校最後の一年間を描きます。

主演は、この後『ストーリー・オブ・マイライフ』へと繋がっていくシアーシャ・ローナン。まずはやっぱりシアーシャ・ローナンいいなあ、っていうところに尽きますね。彼女のこの不思議な魅力はどう言い表せばいいんだろうと考えてみましたが、優等生っぽい顔立ちなのに結構その枠を飛び越えてくるギャップ、かなあと。彼女を初めて意識した『ブルックリン(2015)』でもやはりそんな印象を受けました。本作の役柄も、ピンク髪のわりには絵に描いたような反抗少女ではなくて、そこそこ成績良さそうな感じ(良くないんだけど)なのが絶妙です。ていうかあの髪色、めちゃめちゃ好き。ドレッシーな格好すると見違えるのも好き。

他のキャストでは、なんといっても『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(2019)』の愉快な主人公モリーことビーニー・フェルドスタインさんが全く同じような役でパラレルワールドのごとく出てきて混乱するという旬なポイントがあります。親友クリスティンと交わす赤裸々な話題までそのまんますぎて笑っちゃう(彼女の出てるシーンでいちばん笑ったのはアメフト風演出戦略)。映画の展開的にもところどころ似ておりますね、最後の空港とか特に。

それからもうひとり、やはり『ストーリー・オブ・マイライフ』へと繋がるティモシー・シャラメ。てっきりもうちょっといい役だと思ってたんですけど、クソ野郎でした。クソ野郎も似合うな〜〜〜。

物語的には最初から最後まで「母と娘」のお話になっております(まさしく「母と娘」というタイトルで書き進めていたのだとか)。脚本・監督のグレタ・ガーウィグさんはものすごく長大なシナリオを削って削ってこの90分尺にしたそうで、それも納得の、「行間」の豊富な映画でございました。会話の節々から読み取れる情報が、一見ぶっきらぼうなストーリーを深くしてくれています。もともと書いてあったことは、削られたあとでもしっかり読み取れるのですね。

またこれは狙ってなのかどうなのか「深イイ」言葉がやけに多い(笑) 「お金は人生の成績表じゃない」なんていうのから始まって、最後の「親がつけた名前は受け入れるのに、神は受け入れないのね」なんてのまで、トイレに飾りたい言葉が山ほど出てきてたいへんです。最後のは人に向けた何気ない悪態のようでいて、じつはエンディングへと繋がる自問自答になっていたり。あの不意打ちでストレートなラスト、ほろりとさせられます。

ところで本作、反芻していたらふと『はちどり(2018)』が脳内で横に並びました。あれも母と娘のヒリッとした関係を印象的に描いた作品でしたし、ティーンの主人公がいろんな人と出会っては遠ざかっていくような様もすごく共通してます。韓国映画特有の質感で気付きにくいですが、じつはよく似たティーン・ムービーだったのだなあと思いました(それでいうと『ブックスマート』のカラオケシーンなんかもドンピシャで『はちどり』のそれと同じシチュエーション!)。

ちょっとひとつだけ全編通して疑問だったのが、クリスティン曰く「線路むこうスラム」のおうち。そんなに“スラム”か??と。いやなんか、普通に綺麗だし広いし、なんもみすぼらしくなくない?と結構ノイズになってしまっていたのですけども、サクラメント的にはあれは貧乏人の家なんでしょうか。

あともうひとつ、これは自己解決したんですが、Thanksgivingもクリスマスも全然寒くなさそう!とか思って。でもそっか、西海岸って暖かいのか、と。なんとなくですけど映画で見るThanksgivingやクリスマスって東海岸のイメージがあります。

対して特筆したい名シーンをひとつ挙げるなら、ラストの「飛行機が離陸する瞬間」。クリスティンが旅立つシーンですが、第三者視点ではなく彼女の視点で撮られてるのがすごく良くて、どういうことかっていうと窓の外しか映ってないんですよね。地面と平行に流れていた風景がフワッと斜めになるあの瞬間は、飛行機旅のいちばん高揚するところ。あたし行くんだ、って感じでグッときます。飛行機乗りたい……。ニューヨーク行きたい……(あんな短いシーンで恋しくなってしまった)。

(2020年157本目/U-NEXT)

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