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大林宣彦監督作品「瞳の中の訪問者(1977)」雑感

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配信されている大林作品は見尽くしてしまいましたが、宅配レンタルのTSUTAYA DISCASにてDVDの在庫が復活してきたので一気に何本か借りました。まずは、1977年公開の2作目『瞳の中の訪問者』から。これ観れると思ってなかったので嬉しい!

原作はなんと、手塚治虫の『ブラックジャック』。「春一番」というエピソードをベースに、独自の視点で掘り下げた作品です。アッチョンプリケ。

あらすじ

テニスでインターハイを目指す小森千晶片平なぎさは、練習中の事故で片目を失明してしまう。回復は絶望的と思われたが、凄腕の無免許医ブラックジャック宍戸錠により角膜の移植手術が成功。千晶は元どおりの生活を送れるようになった。

しかし手術後の彼女は見知らぬ男の幻を見るようになり、その男峰岸徹に恋い焦がれていく。じつは千晶に移植された角膜は、ある「殺された女性」のものだったのだが──

雑感

この作品、失笑ものな前半を耐え抜くのはかなり困難じゃないかと思います。この数ヶ月で大林ワールドを散々観てきたわたしでさえ「うわ、これに100分も割くのか」とげんなりしちゃいました。とにかく、宍戸錠さん演じる下膨れのブラックジャックがひどい(笑) わたし子供の頃にブラックジャックすごく好きだったので、ちょいと許せる範囲を超えてましたね。

ただ、「この数ヶ月で大林ワールドを散々観てきたわたし」が学んできたのは、「失笑ものな前半」の後に必ずなにか息を呑むようなものが待っているはずだ、それが大林ワールドだ、ということでした。なので頑張って耐え抜いてみました。すると、大林作品屈指の映像美がそこに待っていたのです……。

じつは本作におけるブラックジャックは脇役で、主役となるのはその患者である千晶と、千晶の瞳に映った謎の男。ストーリーが進むにつれ、学芸会レベルの噴飯ブラックジャック物語は一転、大林監督お得意の死生観と幻想的な雰囲気に溢れた映像世界になっていくのでした。

これがほんっとうに恍惚とさせられてしまう美しさなんです。「水」がひとつキーワードともなっているお話ということもありあの美しい名作『廃市(1983)』をも連想したのですが、特典映像のインタビューを見ていたら監督曰くこれは「プライベート映画」なのだそうで、なんだ本当に『廃市』なんじゃん、と(『廃市』は大林組が夏休みを利用して撮ったプライベート映画)

「大実験映画」とも呼んでいて、魚眼レベルの超広角レンズで歪みまくったパンを頻用したり(もしかしたら「瞳」にかけているのかも)、ステディカム的にカメラが自由自在に動き回っていたりと、内容以外でも確かにいろいろ実験的だなというのは感じました。

これが初の主演作になった片平なぎささんのシックなヒロインっぷり、片平さんが撮影現場で実際に「恋してた」というのも納得な峰岸徹さんの恰好良さ、大林監督の「初代さびしんぼう」だというハニー・レーヌさんの怪演など、キャスティングも良かったです。さびしんぼう遍歴どんだけあるんだって感じですよね。さびしんぼうといえば、情熱的すぎるピアノ曲がこれでもかこれでもかと執拗に流れ続けるのもじつに大林イズム。

そんな感じで、『金田一耕助の冒険(1979)』あたりと同様、決して初心者向けではないものの、大林ワールドに心酔してしまっている人なら観て損はない一本でした(あくまで前半を耐え抜けば)。DVDには特典映像として大林監督や片平なぎささんのインタビューが収録されており、こちらもおすすめです。Wikipediaに書かれているエピソードは多分このインタビューがソースと思われるのですが、文章では伝わってこないニュアンスのエピソードがいろいろありました。

(2020年107本目/TSUTAYA DISCAS 困った時のTSUTAYA DISCAS。気軽に使える単品レンタルも便利です。