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大林宣彦監督作品「はるか、ノスタルジィ(1993)」雑感|中年ロリコンおじさんの話、少なくとも表面上は。

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大林監督の名作?迷作?として名高い『はるか、ノスタルジィ』をようやく観ることができました。特集上映を組んでくださった新文芸坐さんに感謝。本作では『ふたり(1991)』に引き続き石田ひかりさんがヒロインを演じています、が、主役は勝野洋さん演じる「中年ロリコンおじさん」なのかな。一応あらすじを書いておきましょう。

あらすじ

小樽を舞台にした恋物語で人気の小説家・綾瀬慎介勝野洋は、取材を兼ねて久しぶりに訪れた故郷・小樽でふいに少女石田ひかりと知り合う。綾瀬作品のファンだという彼女は、もし私を主人公に小説を書くとしたらなんて名前にしますか?と無邪気に尋ねた。綾瀬はすぐに「三好遥子」という名を思いつくが、封印していた過去の記憶も同時に蘇る。三好遥子とは誰なのか。綾瀬はなぜ小樽を舞台に小説を書き続けていたのか。そして、奇しくも「はるか=遥」と名乗った少女と綾瀬の関係とは。

※みたいな話だったと思う(ややうろ覚え)

雑感

これはなんとも形容しがたい、じつに大林宣彦でした!以上! って感じの映画だったんですが、それじゃあいかんですよね。ええと、まず表面上はこの映画、勝野洋さん演じる中年の小説家と石田ひかりさん演じる天真爛漫な少女が毎朝9時に待ち合わせてデートするお話なんですよ。冒頭に書いた「中年ロリコンおじさん」とは劇中に何度も登場するワードで、よって俯瞰的に中年ロリコンおじさんの話と言っても間違いではないでしょう。

ただ本作のおもしろいところは、中年ロリコンおじさんたる主人公の「青年期」がもうひとりのキャラクターとして登場松田洋治するんです。んでなにやら、少女はるかのことを「遥子」と呼び、中年の主人公をやたらと叱責する。つまり主人公は若かりし日に「遥子」と何かがあったらしい、そして「遥子」は「はるか(と名乗る少女)」とよく似ているらしい。そんな話になっていくのですね。

この構造は、監督自身も自覚しているようですが『さびしんぼう(1985)』によく似ています。といっても、尾美としのりさんや富田靖子さんのほうではなく、藤田弓子さん演じる「お母さん」を主人公にした場合の『さびしんぼう』です。ある日突然、若かりし日の自分が登場して自分を叱るんです。彼女はかつて「別れの曲」の君と恋をしたが実ることはなく、平凡に見合い結婚をする。ただし息子には思い出の「別れの曲」を練習させる。いやキモいなお前! って自分に叱られるんです。本作のほうがもういくぶんかビターではあるものの、大体の構造は通じると思います。まあそもそも原作者が同じ山中恒さんなので通じて当然、でもあります。

さびしんぼう』の製作時だったか山中恒さんが「尾道は小樽によく似ている」と言っていたという話を読んで、小樽といえば運河のイメージしかなかったわたしはピンとこなかったのですが、この映画を観てみると納得でした。確かにすごく似ている。また、今の姿の小樽運河は1986年に再開発されて出来たものであることも知りませんでした。もっと昔からあの姿だとばかり。

黄色い花の咲く丘が『野のなななのか(2014)』を思わせるのは同じ北海道だからでしょうか。純文学的なモチーフの使い方や、誰かに誰かを投影することのそこはかとない気持ち悪さ、行進する楽隊なども通じるところです。あの楽隊が出てくる円形の学校(小樽市立石山中学校というところだと思われます)を見てアニメ版の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(2017)』を連想しましたが、ああいった「円形校舎」と呼ばれる様式の校舎は一時期たくさん建設されていたのだそう。ロマンがあって好きです。

本作の好きなところをひとつ挙げるなら、そのわずかなファンタジーみですかね。過去からやってきた「自分」が、物理的にそこにいる。『ドラえもん』程度のスコシ・フシギなSF感がわたしの好みです。あと細かいところでもうひとつ、石田ひかりさんの親友役で柴山智加さんが出ているところ。『ふたり』でも同じ役どころだった柴山さん、こっちの世界線でも親友か!と思うと嬉しくなります。

対して、好きじゃないところは石田ひかりさんのいわゆる濡れ場。あれはちょっと、みなまで描きすぎで(肩と脚ぐらいまでならいいのよ!)わたしの美学に反します。そして何より「中年ロリコンおじさん」が冗談で済まなくなってしまう。いや、それがたとえ象徴的なものであったとしてもですよ。あれを視覚的に見させられるのは趣味じゃないなあ。もっとも大林映画の場合、「プロデューサー大林恭子」の名前があるので根本的な部分で安心ではあるんですけどね。

まとまらないけれど、とりあえずそんな感じで。じっくり繰り返し観てみたいのでBlu-ray出してください。初見だと表面上の部分だけ見て終わってしまったような気がする。

(2020年193本目/劇場鑑賞)

さびしんぼう [Blu-ray]

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  • 発売日: 2021/01/20
  • メディア: Blu-ray
A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る (立東舎)

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『はるか、ノスタルジィ』のソフトは高騰しちゃってるので、似て非なる作品『さびしんぼう』を貼っておきます(Blu-ray版がリリースされました)。それから本作についての裏話もたくさん語られているインタビュー本『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』、こちらもおすすめしつつ貼っておきます。