353log

主に映画の感想文を書いています

韓国映画「1987、ある闘いの真実(2017)」雑感

f:id:threefivethree:20200713213331j:plain

タクシー運転手 約束は海を越えて(2017)』鑑賞からの流れで、同じく1980年代韓国の民主化運動を描いた映画1987、ある闘いの真実を観ました。

あらすじ

1987年1月14日、学生運動をしていた大学生パク・ジョンチョルが警察の拷問により死亡する。警察は拷問の事実を隠蔽するため早急に遺体を火葬させようとするが、不審に思った検事の手により阻止され、事態が世間に漏れていく。この事件を機に民主化運動は勢いを増していくのだが、同年6月に行われた集会のさなかにまたしても大学生イ・ハンニョルが警察の攻撃を受け後日死亡。この二つの起爆剤による運動の高まりが、6月29日の民主化宣言へと繋がっていく。

雑感

すごいなと、それぐらいしかまず感想の出てこない映画でした。韓国の人たちは偉いなと思いました。似たような顔をしていても、この映画の内容を日本人に置き換えて想像することはなかなか難しいのではないでしょうか。本作のラストは非常に感動的ですが、あの行動が現実味を帯びて見えるのは韓国の人たちの国民性をわたしたちが実際にそう認識しているからであって、日本であれをやったらただのファンタジーになりそうです。日本人あんなことしないですもん。でも、しなきゃいけない時もあるってことなんですよね。

劇中には、『タクシー運転手』で描かれた光州事件の映像が出てきます(1980年の映像が87年時点でまだ衝撃映像扱いなのが怖い)。あれって同じ国の人の殺し合い映像を見せられてることになるわけで、日本人が韓国近代史の資料映像として見るのとは全く違う感情をあの大学生たちは抱いているんですよね。なかなか想像が難しいです。

80年代の韓国はまだ漢字も多く使われていた時代だそうで、日本と見まごうようなシーンもちょくちょくあります。それだけに、なにかと日本と比べながら見てしまう映画でした。

映画の振り幅

ハードボイルドな質感でヤクザ映画のように始まったかと思えば、後半では学園ラブコメ風の胸キュン展開があったりもする、重い題材を扱いつつもじつはかなり振り幅の広い、エンタメ性の強い映画でもありました。

把握しきれないほど大勢の人物が登場しますが、なんといっても最初の掴みはハ・ジョンウさん演じるチェ検事でしょう。めちゃスレた感じで正義を貫く姿、かっこよすぎ。彼が大活躍するのかと思いきやカメラは違う視点に移っていくのがまた演出的におもしろいところです。あれっ、気付けばチェ検事出てないじゃん!っていう。

後半ではヨニという女子大生がいつの間にかヒロイン的ポジションに。演じてるキム・テリさんがまあ可愛くてですね、彼女を一瞬で胸キュン展開に連れ込むカン・ドンウォンさんもまたいかにもな韓国美男子で、なんでこの映画でときめかされてんの?! 今なに観てんだっけ?! と混乱させられました。彼女は「無関心な若者」として登場しますが、どんどん現実に巻き込まれ、最後にはついにその中心へ。多くの観客にとって自分を投影できるキャラクターなのではないでしょうか(なお彼女だけは創作のキャラクターだそう)。

監督が映画的演出の欲を出したという教会でのシーンも印象的です。ステンドグラスでそんな染まり方するかい!ってな美しい色彩のライティングを受けたキム・ユンソクさんがよかったですね(ちょっと笑っちゃうけど)。教会がクライマックスに来るというところでは『ハイドリヒを撃て!(2016)』が頭に浮かびました。というか、第二次世界大戦中とかでもおかしくないような内容なんですよね……。87年のこととはなかなか思えません。

壮大なラストシーンからは大林宣彦監督作品『この空の花 長岡花火物語(2012)』のやはりクライマックス「まだ戦争には間に合いますか」のシーンを連想しました。この強烈なメッセージ性に対抗できるのが日本だと大林作品ぐらいだとしたら、それはなかなか、日本ハードル高いですね。

(2020年106本目/PrimeVideo)

1987、ある闘いの真実 (字幕版)

1987、ある闘いの真実 (字幕版)

  • 発売日: 2019/02/06
  • メディア: Prime Video
1987、ある闘いの真実 [Blu-ray]

1987、ある闘いの真実 [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/02/06
  • メディア: Blu-ray
こちら、監督のインタビューも含めたとてもためになる記事でした。社会派な映画を観るたび自分が無知すぎてまったく嫌になりますが、ここからということで……。