大林宣彦監督作品「ふりむけば愛('78)」「金田一耕助の冒険('79)」雑感
大林作品集中履修(配信で観れるもの限定)もそろそろラストスパート。今回はちょっと観るのをためらいがちな70年代の2作品をまとめて鑑賞。百恵友和コンビの『ふりむけば愛』と、シリーズもの?パロディ?よくわからない『金田一耕助の冒険』です。後者に関しては特に、観るべきか悩んでいる方の背中を押す気持ちで書きました。
なお、待ちわびていた『海辺の映画館─キネマの玉手箱』の公開日が7/31に再設定! めでたい! でも遠い!
「ふりむけば愛(1978)」
山口百恵×三浦友和コンビの作品。旅先のサンフランシスコで謎多き哲夫(三浦友和)に出会い心惹かれた杏子(山口百恵)が日本での再会を約束し帰国するも彼は帰らず……というラブストーリーです。
のちに夫婦となったこの二人のことは全く詳しくないのでWikipedia情報になりますが、大林監督がまずCMで「百恵友和コンビ」を起用、それをきっかけにこのコンビで映画が多数作られ、8作目(アステア×ロジャース並!)となる本作で映画作品としては初めて大林監督がメガホンを取った。そして本作を決定打に、二人は結婚へ踏み切ることになった。そんな経緯と位置付けの作品だそうです。
お話は正直かなり安っぽく、かといって映像がハチャメチャなわけでもない、結果なかなか直視に耐えかねる作品ですが、一応これは「敢えて陳腐な話を考えた」ということなのだそう。歌手としての大人びた山口百恵しか知らなかったので、ちょっとショックでした(笑)
なお「大林臭」は皆無ではなく、ショパンがちょっとしたキーになったり、背後に海があれば船が横切ったり、パンナムがチープに合成されたり、コンサートホールに突然大雨が降ったり、なんの前触れもなく謎の文字演出が使われたり、百恵ちゃんのベッドシーンがあったり!と、そこかしこに潜んではおります。あとそうだ、杏子の机に「ポーの一族」が置いてあるのは何…? 麗しきその他本編カットと合わせてどうぞ。
(2020年86本目/PrimeVideo)
「金田一耕助の冒険(1979)」
さてもう一本、こちら、大林作品を履修しようと思った方が結構ぶち当たる壁なんじゃないでしょうか。主要動画配信サイトで大抵ラインナップされてるけど、でも「何これ」っていう。
古谷一行さんが金田一耕助を演じるシリーズの番外編・パロディ作品であり、あんまり評価は高くない、調べてもそれぐらいのことしか分からないので、世代じゃないと最低限の楽しみ方すらできないのではないか、これは観なくてもいいか……? と思っていたのですが、勢いで観てみました。感想は、なんだ意外と面白いじゃないか!
単品としてわざわざ観るほどの作品なのかは冷静に判断しかねますが、大林作品をある程度履修してきた方なら楽しめる一本だと思います。むしろぜひご覧ください。できれば、本記事前半であまりプッシュしなかった『ふりむけば愛』も観てからどうぞ。なぜかというと、本作のマクガフィンは山口百恵像だからだ!
本作の楽しみ方1、豪華キャストをただ楽しむ。金田一耕助役の古谷一行さん、バディ刑事の田中邦衛さん、以下ものすごい友情出演の数々、そして何よりこれが映画デビューとなる松田美由紀(熊谷美由紀)さんのほとばしる可愛さ! ローラースケート窃盗団での原住民みたいな肩出しファッションもいいし、富士急ハイランドで金田一とデートするシーンの可憐さったら「ああ観てよかった!」となること必至です。
楽しみ方2、パロディの類をわかるとこだけ楽しむ。Wikipediaには「日本初のパロディ映画と言われる」などと書いてありましたが、映画からCMまでとにかくパロディだらけの本作。なおその内訳はWikipediaが異常に詳細です。わかんなくてもそれなりに楽しんでしまったので、やはりわたしは大林ノリと相性がいいのだと思います。
個人的にツボだったのは『八甲田山(1977)』パロディ各種。和田誠さんの手掛けるタイトルクレジットで「撮影:木村大作」と出て、八甲田山の人じゃんと思っていたら本編中のパロディがなかなか酷くてですね(笑) 最初にこれ絶対パロディだと思ったのは「棺の前で喪に服す奥さん」のシーン(おまけに山脈繋がりの曲が流れている)だったのですが、もっとわかりやすいシーンを見逃していたことに後から気付き、観直して爆笑、しちゃいけないんだけど……。「天は我々を見放した!」のとこですね。ばったばったと倒れて服を脱いで暴れて。あまりにコミカルだったからそれと気付かなかったのです。やりすぎ!(田中邦衛さんが呆れてるのは本音だったそう)
楽しみ方3、老人ホームのシーンで「昔々の映画監督」としてカメオ登場する大林監督に注目。「どんな作品を?」「ホースです」おもむろに調子っぱずれのピアノで『HOUSE/ハウス(1977)』のテーマ曲を弾き始めるおじいさん。好き。
このシーンで注目すべきは、汽笛の音とともに監督がカタコト回しているカメラ。これってまさに、大林監督が映画というものを知るよりも前に蔵で見つけて「蒸気機関車」として遊んでいた活動写真機の再現ですよね! 興奮してしまった、すごい。
そんな感じで、大林作品や監督のバイオグラフィーをそこそこ知った上で観ると、むしろこれは必見と思えるほどの作品でした。ファンの方にはおすすめです。
(2020年87本目/U-NEXT)
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