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待望の劇場公開新作「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2019)」はしゃいだ雑感

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珍しくノミネート作の多くが日本公開済だった今年のアカデミー賞。しかし新型コロナウイルスの影響により不運にも未公開側にほぼ唯一取り残されるかたちとなってしまったのが本作です。3月27日公開予定改め6月12日公開『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語、ついに観てきました!

数えてみたところ映画館で新作を観るのは97日ぶり。最後に観た『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(2020)』がそんなに前とも感じないのですが、100日程度の日数は案外あっさり流れていくものなのですね。ともあれ、一番よく利用していた最寄りの映画館と感動の再会です。

作品概要

ルイーザ・メイ・オルコットによる小説『若草物語』の何度目かになる実写映画化。原題は小説と同じく『Little Women』。グレタ・ガーウィグが監督をつとめ、シアーシャ・ローナンティモシー・シャラメエマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、ローラ・ダーンメリル・ストリープ等々オールスターが集った。物語は2つのタイムラインが並行して進んでいく。

雑感

ぐちゃぐちゃにいろいろ書いていきましょう。

原作を知らなかった

多くの人が幼少期から馴染んでいると聞く『若草物語』ですが、わたしは読んだことがなく、過去の映画版も未見。どんなお話なのかすら知りませんでした。久々の劇場公開新作ということでなるべくしっかり楽しみたいですし、これは事前に読んでおくべきなのか……? 観ておくべきか……? 少し悩んだものの、原作や過去作と比較せず純粋に物語を味わえるのはまたひとつの特権かと思い、予習なしで鑑賞することに。結論としては全く問題なく楽しめたと思います。

それよりもこの作品、原作が多くの女性にとってバイブル的な存在であるらしいというところからしてまず、女性による女性のための映画なのではないか、男であるわたしが観たら疎外感を抱いてしまうのではないかという不安がありました。なので前評判が非常に高いとはいえ期待値は下げて行ったのです。ところがどっこい、開始数分でぼろぼろ涙している自分がいました。絵に描いたような杞憂でした。

美村里江さん(かつてはミムラさん)がパンフレットに寄せていたレビュー、そうそう!と膝打ちしました。「『良い作品』の前評判を耳にし過ぎるとつい、フムフムどんなかなと批評家めいてしまうが、穿った目線の観客VS作品の試合は、1RでKO負け、心地よく吹っ飛ばされた」。美村さんのトークスキルは最近ラジオでよく拝聴、感服していたものの、文章まで素敵とは完全に敵なし…!

とにかく泣いていた

というわけで、杞憂どころか目から鼻からわけもわからず体液が出てましたね……。四姉妹の幸せそうな姿を見ているだけで泣けたし、なぜこんなところで、みたいな箇所でも涙してて謎でした。マスクしてる&ソーシャルディスタンシングでお客さんが少ないのをいいことに、涙腺は緩むままにしておきました。すっきりしました。

泣き具合でいうと、ちょうど一年前くらいに映画館で観た『風と共に去りぬ(1939)』でも同じような涙腺大崩壊をやらかしてたかも。南北戦争あたりの女性ものに弱いんでしょうか。

まあそもそもこの日は待ちに待った映画館体験にセンチメンタル感じすぎて、映画が始まる前から「滑り込みで入ってきた前の二人組、うるさい客じゃないといいけど」「いやむしろ、この懸念自体が久しぶりで得難いじゃん……」なんて全ての事象に好き放題グッときてたりして、もう際限なしでした。

シャラメに敗北

じつはこれまで「ティモシー・シャラメ、好かん!」と思っていたんですが、うっかり好いてしまいました。だって綺麗なんだもの。本作とにかく四姉妹はじめ「映るものすべてが眼福」だったのですけど、その美しい画面を1mmも汚さない、むしろ悔しいかな美しさを足すほどのシャラメ、ニャロメ。ついに彼を認めることにします。

ちなみに前述した「二人組」はどうやらシャラメ狂だったようで、上映終了後「動悸が止まらない……」「姉妹たち以上にシャラメが美しいという事件……」とかおっしゃってました。確かに、否定はできません。

果たしてシャラメはどんなふうに年齢を重ねていくのでしょうね。新作映画を観るときに、数十年後の若者がこれを観たらどう感じるだろう、と想像するのが最近の癖になっています。単に「若い頃のシャラメ、絶世の美少年!」なのか、「えっ、これが“あの”シャラメ……???」なのか。前者であってほしい。

勘違いしていた四姉妹のこと

原作未読で唯一、理解を妨げたといえば妨げたということになるのかもしれない案件がありまして、それは「年齢の順を間違えて認識」してしまったことでした。つまりですね、わたしは最初から最後まで何の疑いもなく【長女ジョー/次女メグ/三女エイミー/四女ベス】だと思って観ていたのですよね。パンフレット見てびっくりしました。えっジョー次女だったの?! メグ長女だったの?! エイミー末っ子だったの?! ベス末っ子じゃなかったの?!

これは原作を読んでいる人であれば絶対にない勘違いだと思うんですが、まあこんな間違え方をできたのも未読ならではということで……。進行上そこまで問題ではなさそうでしたし……(気付かないだけで、問題大ありだったのかもしれないけど)。

推し娘はエイミー

ジョーもメグも素敵! メグのエマ・ワトソン様に至っては舞踏会でドレス召したところとか可愛すぎて死ぬかと思った! ベスの素朴さも好き! でも今回軍配が上がったのはエイミー! フローレンス・ピューさんが受賞されました、何かを。

わたし、『ゲーム・オブ・スローンズ』スターク家の末娘アリアことメイジー・ウイリアムズさんみたいな(似てますよね)、ああいう不敵な笑みのいたずらっ子が好きなようで。途中で推し変するかな〜と思いながら観てましたが結局最後までエイミー推しでした。ただし一点、このタイミングでフローレンス・ピューに花かんむりはだめだ! 不穏すぎる!(ちなみにパンフレットによれば『ミッドサマー』撮了後すぐこっちの撮影だったんですって)

エイミーの魅力が際立つのはやはり少女時代でしょうか。妖精さんみたいな服でわがまま放題騒ぎ立ててるあたりが最高に可愛く見れるのは、フローレンス・ピュー本人の魅力によるものに違いありません。上記の理由でリハーサルすら満足に参加できなかったそうなのにここまで溶け込んでいるのはすごい! 四姉妹とシャラメの屋根裏劇場シーンとかもうめちゃくちゃ最高です。

残りの姉妹たちをフォロー、ほか

ジョーの一番印象的なシーンは、エイミーがヨーロッパへ行けることになったと聞いて笑顔で「おめでとう」を言うところです。母親から教わったとおり「怒りのコントロール」ができるようになってしまっている、ちょっと寂しさも含むシーン。さらにジョーとエイミーは最後の最後までこの構図が続きますからね。終盤、今更後悔してきちゃった、手紙書いちゃった、お母さんに打ち明けちゃった、一足遅かった、嗚呼!っていうあのへんの流れが人間らしくて好きだし、それを肩越しのアイコンタクトひとつで「了解」とする母娘の関係性もすごく好きでした。

メグは少女時代の圧倒的な可憐さ、私は堅実に幸せな道を歩む!という強いオーラが印象的なだけに、落差のショックが大きいキャラクター。またエマ・ワトソンがああいう健気な役も似合いますからね……。

落差のショックというところでは、階段を降りてきたら……というベスのくだりが劇中いちばん悲しいところでしょうか。『若草物語』、ああいう展開もある物語なんですね。「ご意志よ」と達観するベスに対して「神よりも私の意志のほうが強い」みたいなことを言うジョーや、執筆のモチベーションを失っているジョーに「私のために書いて」と激励するベス。四姉妹の真ん中ふたりには何か特別な絆があったのでしょうね(長女と四女だと思って見てましたけど)。

あとはラストのメタ展開、巧かった……! 「結婚」と「経済」のテーマが最後にああいう展開を見せるのか!と唸りました。ああいう“ひとひねり”があると名作度が増しますね。

アレクサンドル・デスプラ

音楽を担当しているのはアレクサンドル・デスプラさん。この方、最近では『シェイプ・オブ・ウォーター(2017)』でアカデミー賞を獲っています。『シェイプ〜』は大好きな映画なのですが、「好き」を決定付けたのはデスプラさんの音楽だと思っています。どこかふんわり浮遊感のある優しさが特徴的な作曲家さんです。

で。じつは今回、開始数分でわたしこれ「アレクサンドル・デスプラじゃね……??」という気がしたのです。過去何度かの経験から、直感的にこうピーン!ときた場合はだいたい読みが当たっているのです。今回も期待しつつどきどきのエンドロール、「Alexandre Desplat」キターーーッ!!! 静かにガッツポーズいたしました。デスプラさんもわたしもすごい。

シェイプ・オブ・ウォーター』の音楽がお好きな方はぜひそのあたりも注目してみてくださいませ。今回のは特に『シェイプ〜』っぽさがわりと強めに感じられる曲、あると思います。これとか。


そんなわけで、仕切り直しの劇場新作初めとして最高の作品でした。これを選んで良かったです。さらに奇しくも、本作が今年の鑑賞映画100本目! 6月末、折り返し地点で大変キリのいいことにございます。あと100本観れたらいいな!

(2020年100本目/劇場鑑賞)