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主に映画の感想文を書いています

映画「三姉妹(2020)」感想|近年稀に見る極上の修羅場

イ・スンウォン監督による映画『三姉妹』新宿武蔵野館にて観てきました。

そこまで大きな鑑賞動機もなかったのですが、まあなんか「いい映画」なんだろうな〜って。『チャンシルさんには福が多いね(2019)』みたいなやつが観れたらいいな〜くらいの感じで行って、いや全然チャンシルさんじゃねえわ。イ・チャンドンくらいのやつだわ。


映画「三姉妹」ポスター
映画「三姉妹」ポスター


始まってから結構しばらくは様子見っていうか、状況掴めない系の映画なんですけども、とにかく「三姉妹」ってことなんでこの3人の女性たちが姉妹であり主人公なのであろうと、最低限そこは理解した状態で進んでいきます。

ただ、すっかり離散したこの三姉妹、3人とも全くタイプが違うのですよね。まず、『ベイビー・ブローカー(2022)』でも拝見したばかりのキム・ソニョンさん(『愛の不時着』の北おばちゃん。監督のパートナーでもある)が演じる「長女」は、いっつもへらへら謝ってて、元夫らしき男性からは悪態突かれまくり、グレたマヨラーの娘がいて、薄暗い花屋を営んでて、癌らしい。不幸の特盛。

本作のプロデューサーも務めたムン・ソリさんが演じる「次女」はしかしどう見ても長女の佇まいで、いい暮らしをしてて、めちゃくちゃ熱心なキリスト教信者、だけど旦那に浮気の予感。そして本職トップモデルなことが信じられないチャン・ヨンジュさん演じる「三女」は、ものすごい不安定で自堕落な酒浸り咀嚼音モンスター、おまけに作家だとか。こいつはやべえぞ。

まあそんな感じの三者三様、少なくとも同じ世界には住んでなさそうな3人のそれぞれの生活がしばらくは描かれます。長女と三女の荒んだ生活もまあやべえのですが、何気にいちばん戦慄なのが次女。イ・チャンドンシークレット・サンシャイン(2007)』をも凌ぐような「教会」描写にひえ〜〜となり、同時に進行していく静かなる修羅場の行方に背筋が凍り。布団被せてゴッッはマジでやべえ(語彙)。チャンシルさんとは全く違うね、と確信していくゾクゾク感、最高でした。

んで結局、三者三様のやべえ三姉妹が一堂に会すのは終盤です。ここで初登場となる「お父さん」の誕生日を祝うため実家に帰省します。意外とそういうところは普通の家族なんだなーって思ってると、すげえの来ます(語彙)。いやあ、秀逸。これは近年稀に見る地獄の修羅場ですよ。すごい、ほんとにすごい。

もちろん、これ背景としては家父長制の問題だったり全く笑ってられないものが当然あるんですけど、ただ、とは言え、修羅場好きには堪らない絶品の修羅場で。それでいて後味としては、あんな究極の修羅場があった直後なのに爽やかで希望があって美しくて、涙も出てくるような感じで。エンドロール眺めながら「うわ〜、すごいの、観ちゃった」ってなる、到底『三姉妹』というタイトルからは想像のつかない、弩級の作品でございました。

そう、で、さっきもイ・チャンドンを連想したりしてたんですけど、次女役のムン・ソリさんがそもそも『ペパーミント・キャンディー(2000)』『オアシス(2002)』とイ・チャンドン作品に出演していて、なんなら本作もイ・チャンドン監督が絶賛して「非凡な映画。何を想像しても、それ以上。」なんていう秀逸なコピーまで付けてくれてて、そらそうよねーーーと超納得です。すごいの観たい方、ぜひご覧ください。

(2022年111本目/劇場鑑賞)

よくできた予告です。そっか、早くからそんな話してたんだ……。もう一度観たくなっちゃう。

あ、そうそう、我慢できなくなって観賞後すぐ新大久保へ行き韓国料理をもりもり食べてきました。スープの味が薄くてキムチぶっ込みました。あのシーンよかった。

尾道探訪記【1日目④ 大林映画の世界に迷い込む 〜千光寺公園 展望台から望む尾道水道〜】

ゆっくりじっくり尾道探訪記、4本目です。前回の記事はこちら。

憧れの尾道をひたすら歩き回り、大林宣彦監督作品の世界に迷い込んでゆきます。作品ごとに巡っているわけでも作品ごとにまとめているわけでもないのでごちゃ混ぜですが、エリア的には比較的近いあたりでまとめてあります。

今回登場するのは--

  • 電柱のある路地: 『ふたり』
  • ねこ
  • 千光寺公園 展望台から望む「尾道水道
  • 千光寺山ロープウェイ

おすすめしないルートです。っていうかペースが遅い! いつ終わるんだろう。

『ふたり』のひょい飛びポイント

しばし歩道橋と戯れたのち、次なる目的地へ向かう。なおプランは特に定めず、GoogleMap上でピンの近いところをセレクトしているだけである。

ピンを頼りに向かう次の目的地は、『ふたり(1991)』で石田ひかり演じる北尾実加がひょいとすり抜ける電柱の隙間、みたいなのがある路地。スポット名が曖昧ならば位置情報も曖昧だ。細い路地なのでGoogleMapには載っていない。先人たちの聖地巡礼写真を頼りに、ひたすら歩き回るのみ。

じつのところ一ヶ月も経ってから書いているため記憶は曖昧なのだが、かなり迷った記憶だけはある。でもこの場所はどうしてもこの目で見たかったので、迷路攻略のごとく路地という路地へ入っては出、入っては出、ついに出会えた。感動した。

幅1メートルほどの細い路地。奥には緑が鬱蒼と茂り、向かって右側に、壁に半分埋まった電柱が立っている。壁との隙間に人が通れるくらいの隙間。
廃れつつも、いい風合いなのが嬉しい。

どこに感動する要素があるんだと思われるかもしれないが聖地巡礼とはそういうものである。かわいい石田ひかりが「あたし猫だからね」と抜け道を使いこなし、電柱と壁の間をひょいとすり抜ける名シーンがあるのである。開始6分ほどで見ることができる(PrimeVideo、いつの間にか観れなくなっていた)

せっかく来たからには、ほかに人もいないことだし、35歳男性、ひょいと飛び越えてみることにした。が、思いのほか高く、あんな身軽にすり抜けるのは到底無理だった。あたし猫じゃないからね。

ひとつ前と同じアングルの、少し引いた写真。
劇中でしっかり家屋が見えていた部分には、うっそうと緑が茂る。奥まで行くと、見事な廃屋に。

かなり映画の世界そのままなので、ぜひ歩き回って見つけてもらいたいスポット。迷って迷ってやっと見つけてこその感動がある。

ねこに連れられ、千光寺

ひとしきり行ったり来たり満足したので、ノープラン散策に戻る。そろそろ宿にチェックインできる時間だがどうしようかなと思いながらとりあえず歩いていると、猫がいた。

見返り美人の猫。
ねこ。

坂道の途中で立ち止まり、振り返ってこちらを見ている。これが尾道の人馴れした猫か。嬉しくなって写真を撮りつつ追っていくと、いつしか猫は消えた。そしてわたしはひとり、山道に取り残された。

猫が去っていく。
ねこは消えた。

一応は「千光寺参道」と手書きの立て看板があった(ような気がする)道。登っていけば、尾道いち有名な展望台へ着けるだろう。遅かれ早かれ行く予定ではあったからこのまま登ってしまおう。そう決めたものの、足を進めるごとに後悔してきた。これ登山では。遭難するのでは。すげえ不安になってきた。暑いし。肌べとべとだし。

鬱蒼と茂る竹林。
こんなだし。

「一句およみください」と書かれた俳句投稿ポスト。
そんな余裕はない。

宿のチェックインすらできないまま死ぬのかと心折れそうになりながらも、結論から言えばちゃんと着いた。そして足労の対価たるザ・尾道ビューがそこにはあった。『転校生(1982)』から『海辺の映画館-キネマの玉手箱(2020)』まで多くの作品に登場する尾道水道をしばらくご覧ください。

螺旋状のスロープで登っていく、現代アートのような展望台。
超絶おしゃれな展望台が出迎えてくれる。まあこの建造物に関しては大林ワールドとは相容れない感じではあるのだが-

展望台から尾道水道を望む。
登った先のこちら尾道水道は完全に大林映画の世界である。登山の甲斐あり!

尾道水道を囲い込むように、島々のシルエット。
右側に視線を移すと、瀬戸内の島々が見える。やたら暗いのは、レンズフィルターをつけっぱなしにしていたせい。

川のようだった尾道水道が大きくひらけていく。
左側には、尾道大橋。右下の大きな建物は尾道市役所。

いちいちNYに例えると、エンパイアやロックフェラーの展望台から初めてマンハッタンの夕景・夜景を見たときのような*1、ずっと目に焼き付けていたい景色。それがこの尾道水道。なお大林映画に頻出する尾道水道は、もうひとつ別のアングルがある。それはまた別日に。

地上2階くらいの高さに迫り出した細い展望台の先っちょから、若者たちが写真を撮っている。
長く迫り出した展望台の先端は、若者たちにも格好のフォトスポット。

ところで、途中で引き返さずにどうにか登ってきたのにはひとつ理由があった。それは、この展望台には文明の利器ロープウェイがあるということである。よって帰りはこいつを使う。本当は行きから使いたかった。猫め。

鉄骨のシルエット越しに尾道水道。
ロープウェイ乗り場の鉄骨を含めたこの画は有名で、お菓子のパッケージなどにもなっている。

ロープウェイに乗り込むと、なぜかケージに入った猫も同乗してきた。さっきの、お前じゃないよな。

ガクンと落ちる急勾配がなかなか怖かったが、往路の登山が嘘かのようにあっという間に尾道地上階到着。生きた心地で宿へ向かう。商店街でいい感じの写真が撮れ、ご満悦。

うねうねした薄暗いアーケードを望遠で撮る。
大蛇のごとし。

次回、今回のお宿「あなごのねどこ」にチェックイン。魅力的な古民家再利用ゲストハウスをご紹介します。