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主に映画の感想文を書いています

尾道探訪記【1日目① はじめての尾道に降り立つ】

大林宣彦監督の映画世界に惹き込まれて2年。広島県尾道へようやく行くことができました。大林監督の故郷であり、「尾道三部作」と呼ばれる『転校生(1982)』『時をかける少女(1983)』『さびしんぼう(1985)』などを筆頭に、数多くの作品でその姿を見ることができる土地です。

もちろん前々から行きたい場所ではありましたが、今回はだいぶ突発的なプランでした。金曜の夜に大阪へ行く用事ができたから、土日でどこか足を伸ばそう。どこへ行こうか。どうせなら関西圏じゃないほうがいい。久しぶりにピーチで福岡に飛ぶか。いっそ沖縄でも行ってみるか。

そんなことを考えていた頃、TBSラジオが贈る人気ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』5/13更新のEp.84を聴いておりましたらば、堀井さんが尾道へ行った話を唐突にし始めました(33分ぐらいから)。

どうやらすごく良かったみたいで、ここに住んだら優しい人間になれるだろうなと思った……みたいなことを言ってて。これにより尾道という盲点を思い出したわたし。即座に旅先が確定したのでした。よくぞ。


滞在は土曜の昼過ぎから日曜の夕方まで。空き家を再生したゲストハウスに宿泊し、2日間ひたすら尾道を歩き回りました。何回かに記事を分け、久しぶりにみっちり写真多めな旅行記を書いていきたいと思います。例によって日記文体にチェンジ。大林映画と接点のない方も、尾道の風景を楽しんでいただけたら幸いです。

大阪から尾道

2022年5月26日、金曜日。仕事を終えてから新横浜でのぞみに飛び乗り、宅飲みのためだけに大阪の友人宅へ。フッ軽すぎるので詳細は割愛。なお宅飲みと言いつつ酒は一切飲んでいない。

ホームから撮った電車の写真。
スタート地点、南海電鉄某駅。
泉佐野から特急サザンの指定席も初体験。

翌日、11時ぐらいに友人宅をチェックアウトして、いよいよ旅が始まる。南海電鉄御堂筋線を乗り継いで新大阪へ戻り、山陽新幹線で福山へ。岡山や倉敷を通過しながら、このあたりもいつか来たいと思いを馳せる。

新幹線先頭車両をホームから撮った写真。新幹線車内。電光掲示板に福山の文字。
新幹線、たまにしか乗らないのでわくわくする。
今回のように3日連続で乗るなんてのは初めてかもしれない。

1時間ほどで福山に到着。はやる気持ちを抑えられず、ダッシュ山陽本線に飛び乗る。新尾道ではなく、福山から在来線で尾道へ」--これは大林監督の推奨ルートである。海が見える風景から入ってほしい、ということらしい(わたし的ソースが思い出せないため、監督と親しかった椹木野衣さんのツイートを貼っておく)。



車窓から初めてお目にかかる尾道をすこぶる楽しみにしていたわたしは、入念に窓際をキープした。しかしうっかり山側をキープしており、海は反対側だった。わたしのやりそうなことだ。

とはいえ、反対側の窓の向こうに尾道水道と造船所のクレーンが見えてきたときは十分すぎるほど感動した。第一印象は「想像してたよりクレーンが巨大」。じつはこれ、尾道のクレーンってほとんどが向かいの島々にあるのだけど、最初に見えるクレーンだけは本州側(線路のすぐ近く)にあるのである。思いのほか大きく見えたのはそのため。

この巨大なクレーンを目の当たりにしたときの興奮は、かつてNYひとり旅をした際、マンハッタンの摩天楼たちが飛行機の窓(やはり通路を挟んで反対側だった)にフレームインしてきたときの興奮*1に匹敵すると言ってもいい。「来ちゃった」というやつだ。

尾道駅。味わいのない新型車両が去っていく。
尾道駅。味わいのない新型車両が去っていく。

尾道駅でいよいよ電車を降り、改札を抜けると、わたしはますます平常心を失った。これもやはり、初めてマンハッタン中心部の喧騒に放り出されたときの感覚*2と近い。マンハッタンがあらゆる映画の舞台であるように、尾道もまたあらゆる大林映画の舞台だからである。目の向くところ全てがロケ地。さあどこから見る? どう動く? 混乱して逆に何もできない。

尾道駅、改札口のポップな駅名看板。青色の文字。
ひとまず駅舎を撮ることに専念する。

とりあえず、改札を出てすぐの観光案内所で「大林監督のマップはありますか?」と訊いて2種類のマップをもらう。このマップ、わかりやすく置いているところは案外少ない。観光案内所でも表には出ていなかった。早めに欲しい場合はこの案内所でもらうのが吉。ICカードを使えるタイプのコインロッカーもすぐそばにあるので、一旦身軽になってから動くのもあり。

もらったマップ。2種類あり、新旧の尾道三部作に分かれている。
新旧の尾道三部作に分かれた2種類のマップ。


商店街を抜け、宿へ

わたしは、まず宿を目指すことにした。荷物だけ預けてしまいたい。本物の『海辺の映画館』なシネマ尾道さんを横目に、尾道本通り商店街へと入る。右を見れば海、左を見れば山。どちらもザ・尾道な景色が隙間隙間から見えるのだが、惑わされず進む。慌てるな。落ち着け。宿だ。まずは宿だ。

アーケードの中。アーケードの入り口。商店街が大きく口を開けている。アーケードの中。
尾道本通り商店街。
3枚目の上方でうっすら光る看板たちは『転校生』などにもそのまま登場する。

惑わされるのが人間だ。ちょっと歩いては撮り、ちょっと歩いては撮り。いっこうに宿へは着かない。だって、こんな景色ばっかりなんだもの。

尾道の特徴、お寺などへと続く長〜い階段が商店街の隙間から見える。
商店街の隙間から見えるザ・尾道な景色一例。
山側はとにかく階段だらけ。

『転校生』『ふたり』などに登場する、長い長いスロープが印象的な歩道橋。
商店街の隙間から見えるザ・尾道な景色一例。
というかこれはザ・大林映画、か。さてはお前「あの歩道橋」だな?!

ようやく宿へ辿り着いた。今回選んだ宿は、商店街の空き家を再生させたゲストハウス「あなごのねどこ」。普段ならゲストハウス的な宿は選ばないのだが、尾道という土地がどうもやはり「味気なさ」とは対極のものを選ばせる模様。ここだな、と即決した。

「あなごのねどこ」外観。全てにおいて遊び心に溢れた外装。
シャッターも目立つ商店街に突如現れる、魅惑の宿「あなごのねどこ」。

こちらの宿については後程あらためて紹介したい。

まだチェックイン時間には早いため手前のカフェで荷物のみ預かってもらい、身軽(ただしカメラ2台持ち)になっていざ尾道を散策す。次回、まずは『転校生』のあそこから。