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映画「犬王(2022)」感想|大規模コンサートの興奮が見事に表現された、でも室町時代のお話。

湯浅政明監督の最新作『犬王』を観てきました。昔「謎王」っていうゲームありましたよね(CMだけ覚えている)。


映画「犬王」ポスター
映画「犬王」ポスター


湯浅監督といえば、わたしが一人旅に目覚めたきっかけは『四畳半神話大系』だったり、最近では『映像研には手を出すな!』も素晴らしい出来でしたが、長編アニメーション映画を観るのは初めて(森見登美彦好きなのになぜか『夜は短し歩けよ乙女』は未見)。いやはや、全部観なきゃな!と今更ながら思わされる作品でした。


舞台は室町時代。平家の呪いで視力を失った琵琶法師の青年・友魚(声:森山未來)と、疎まれて育った異形の能楽師犬王(声:アヴちゃんfrom女王蜂)、二人の若きアーティストが京の都を熱狂させていく物語です。

今回タイムリー?なのは時代設定。なんたって幕開け早々の場面が、壇ノ浦の戦いにおける「水の底にも都があります入水with安徳天皇&神器」ですよ。アニメ平家物語大河ドラマ『鎌倉殿の13人』と、今年のわたしがやたらと見てきた壇ノ浦。一体何度目の平家滅亡だ。帝かわいそう。

……と知ったような口を叩いてはおりますが、超絶歴史オンチなわたしが「壇ノ浦」とあのビジュアルイメージを結びつけたのは、恥ずかしながらやはり今年のことでした。あの時代、全く興味がなくて。昨年『青天を衝け』で久々に大河ドラマを完走していなければ、三谷幸喜脚本ということ以外とっかかりのない『鎌倉殿の13人』を観ることはなかったでしょうし、でなければ山田尚子監督であろうとも『平家物語』も観なかっただろうし、でなければ本作もきっと、なんですよね。何か強い力を感じますね。

そんな経緯で、まずは時代に対する解像度が(自分比)高かったこと、それが本作を楽しめた大きな理由のひとつ。それからもうひとつは、音楽映画としての腕っぷしの強さです。『あまちゃん』でお馴染み(というかそのイメージが強すぎる)大友良英さんによるQUEEN的な骨太ロックと古の日本とのマリアージュが存外良くて、産みの苦しみはすごかったらしいですが、めちゃくちゃいい仕事されているなと。

ここでもタイムリー案件は発生しておりまして、今年の元日に大阪へ行ったとき、泊めてくれた友人(じんわり更新中「尾道探訪記①」に一瞬登場する友人)になぜか女王蜂(とUNISON SQUARE GARDEN)のライブを見せられたんですよね。そこでアヴちゃんを初めて見て。奇抜だけどすごく魅せられるものがあって。突然2オクターブくらい跳躍する歌唱とか、すっげえなと思って。そしたら今回、主役たる「犬王」にアヴちゃんですよ。また来た、この偶然。

アヴちゃんの犬王は、勝手に「アヴちゃん印」と思っている「突然2オクターブくらい跳躍する歌唱」もたっぷり盛り込まれた、期待通り、期待以上のエキセントリックな美しさでした。どんな歌い方しようともキーが高くとも低くともめちゃめちゃ上手いのよ。アヴちゃんなくして『犬王』なし。室町時代のアヴちゃんライブビューイングを観てきたような感覚になりました。

で、そう、ライブ。本作で一番すごいなと思ったのがライブの描写でした。あくまで舞台は室町時代の京なのに、大規模コンサートの興奮が見事に表現されているのですよね。ライブ/コンサート/音楽フェス描写のある映画は数え切れないほど観ているはずですが、これまで観たなかでも意外やトップクラスにあの「興奮」「熱狂」がパッケージングされていました。実際、当時の人たちにとってはそれぐらいの興奮であり熱狂だったのかもしれませんね。

▲このシンガロングとか堪らない。

映像のほうもさすが湯浅作品、アニメーション芸術の最先端という感じで、映画館の大きなスクリーンで観れて本当によかった。特に記憶に残っているのが、水上の社殿で繰り広げられる終盤のパフォーマンスにて霧のなかを飛び回る龍のシルエット。うわあこんな表現がアニメでできるのかと、恍惚としてしまいました。題材も相まって、日本が誇らしくなる作品でした。これぞクールジャパンだ!(てきとう)

なかなかクセの強い作品ではございますが、ぜひぜひ劇場鑑賞をおすすめいたします。歌っている内容を追いきれなかったので字幕付きなんぞがあったらより楽しめるかもしれない。あ、それで思い出しましたけど、中途失明の友魚が脳内で描くイメージの描写、印象的でした。米俵の解像度が増していくやつとかすごいよかったです。

(2022年96本目/劇場鑑賞)

予告冒頭で使われてる歌、めっちゃ好き。

こちらは原作。映画化に際して脚本を担当したのはなんと野木亜紀子さん。