353log

主に映画の感想文を書いています

「映画:フィッシュマンズ(2021)」感想|知らなかったバンドを好きになったり、自分に重ねたり。

シネマ・チュプキ・タバタにて11月前半ラインナップの津軽三味線映画『津軽のカマリ(2018)』『いとみち(2021)』を観て帰ろうとしたら「観たほうがいいと思う」と代表・平塚さんから引き止められ、全く観る予定のなかったドキュメンタリー『映画:フィッシュマンズも観ることになりました。

先日「コロナ禍映画3本立て」のときに「映画館の『箱推し』」なんて言葉を使いましたが、本作も箱推しから出会えた作品です。もう一本観ていきなよ、なんて引き止めてくれる映画館、なかなかありません。

その日は非常に悶々鬱々としていて、特に音楽映画なんていちばん観たくない心境でした(あ、後で説明しますけどこれは音楽映画です)。でも日頃からわたしは音楽に対する面倒くさい気持ちをチュプキで時折こぼしていたので、平塚さんは「そんな君にこそ、この映画はフィットするよ」と映画カウンセリングをしてくれたわけですね。そして流石、的確な処方でした。

「映画:フィッシュマンズ」ポスター
「映画:フィッシュマンズ」ポスター


フィッシュマンズは1987年に結成された日本のバンド。メンバーの脱退・加入を繰り返しながらコンスタントに活動を続けていましたが、作詞作曲ボーカルを担う佐藤伸治さんが1999年に33歳の若さで逝去。カリスマ的フロントマンを失います。しかしドラムの茂木欣一さん(東京スカパラダイスオーケストラ)はじめ残されたメンバーたちはフィッシュマンズの音楽を絶やさないよう現在でも活動を継続し、今年デビュー30周年を迎えました。

わたしフィッシュマンズというバンドに関しては全く何も知らなくて、せいぜいうっすらと「欣ちゃんことスカパラ茂木欣一さんが昔やってたバンド」みたいな認識があるかないか。ボーカルの方が亡くなっていたことすら存じ上げませんでした。おまけに172分と、ドキュメンタリーとしては非常に長尺な本作。いきなりそんなディープな、とたじろぎましたが、逆に言えば尺があるぶん最初からしっかり順を追って見せてくれるので、結果的にとても間口の広いドキュメンタリーになっていたと思います。

何よりまずその音楽性に意外な驚きがありました。最初に流れる曲『なんてったの』で早くも引き込まれてしまったのです。

なんだこの浮遊感。こんなジャンルの音楽をやっている人たちだったのか。オザケンとかフリッパーズみたいな渋谷系の空気もありつつ明らかな独自路線で、欣ちゃんのドラムが、タムだけシンセドラムなのが、幸宏さんっぽくてめっちゃおしゃれ……!! スカパラの欣ちゃんしか知らなかったからすごく意外……!!(後半タイコ叩き的感想)

他にも刺さる曲は多かったですが特にこの曲はドンピシャ好みだったので、最初にこの曲を持ってきてくれた編集に感謝です。他の曲だったらこんなにすんなり入っていけなかったかもしれない。


フィッシュマンズは1991年のメジャーデビューに向けてオーストラリアでレコーディングやライブをします。メルボルンと聞いて一気に懐かしみが湧いてきました。というのも、わたしの音楽的ルーツであるフュージョンバンドのカシオペア*1も全く同時期にメルボルンでレコーディングやライブをしていて、フィッシュマンズのそれとすごく似た「はしゃぎっぷり」が映像で残っていたりもするんですね。なんていうか「猫も杓子もメルボルンな時代」がより強調されてしまって可笑しくて。面白いなあ、時代。


デビュー以降、着実にキャリアを重ねていくフィッシュマンズ。しかしある時期からメンバーの入れ替わりが激しくなっていき、本作においてもその部分が詳細に扱われます。カリスマ的なフロントマン。惹かれて集まるメンバーたち。辞めていくメンバーたち。新たに入ってくるメンバーたち。突然に逝ってしまうフロントマン。ずっとそこにいた欣ちゃん。戻ってきてフィッシュマンズの音楽を鳴らし続けるメンバーたち。彼らほぼ全員の新録インタビュー映像も見ることができます。

抜けていったメンバーたちも、たぶん別に嫌いだったとかではないんでしょう。ただその時はもう無理だったというだけで。人間たちが集まって音楽や何かをし続けることの難しさを感じます。個人的には、ずっと留まった側の欣ちゃんこと茂木欣一さんにすごく重なるものがありました。留まるのも絶対楽じゃないです。90年代の終わり、テレビ出演時に前を向けなくなっている茂木さんがすごく見ていて辛かった。あんなにニコニコしていた欣ちゃんが、あの時ずっと俯いてた。気のせいじゃないと思う。

音楽映画なんていちばん観たくない心境だったと冒頭に書きましたけど、わたしも一応アマチュアながら17年続けている大きなバンド、吹奏楽団があるんです。カリスマ性のある同い年のリーダーに引き寄せられてずっとここまでやってきました。打楽器奏者なのでドラムをずっと叩いてます。17年の中では、精神的支柱だったメンバーの急逝もありました。仕事、結婚、出産、さまざまな事情でメンバーは入れ替わっていきます。わたしも悶々とすることは多く、解放されたかった。でも結局、最長で1ヶ月しか自主的には休団したことがありません。一度手放してしまったらアイデンティティを全て失う気がして。

そんな悶々鬱々の、17年目にしてピークみたいな日でした。この日は。だけどなんか、救われたなあ。欣ちゃんほど明るくはしていられないけど(明るくしていられる人はすごく努力している人なので心から尊敬する)、自分たちの歴史をもうちょっと見続けていようかなという気持ちにはなった。チュプキ平塚さん、強引な映画カウンセリングありがとうございました。コーヒーもごちそうさまでした。

11/15,16(月,火)でチュプキでの上映は終了。まだ残席あるようですのでお近くの方はぜひ。上のツイートは茂木欣一さんご登壇回のレポートです。そうそう、欣ちゃん町田に住んでたんですって。『狂猿(2021)』に引き続きの「じつは地元」シリーズ(笑) ドキュメンタリーは楽しいですね。

(2021年189本目/劇場鑑賞)

サブスクのおかげで最近はちょいちょいフィッシュマンズ聴いてます。こないだも『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。(2021)』の前に桜木町の夜景眺めながらずっと聴いてました(なかなかの食べ合わせ)。