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津軽三味線映画「いとみち」「津軽のカマリ」感想|物語も演奏も、思っていたのと違った

気になりつつも観るタイミングを逃していた映画『いとみち(2021)、ようやく観てきました。越谷オサムさんによる同名小説を原作としています。まずはポスターをご覧いただきましょうか。


水色基調。飛び跳ねるヒロインと「わぁ、三味線弾ぐ」の文字。赤基調。仁王立ちするヒロインと筆文字タイトル。
映画「いとみち」ポスター2種


印象に残っていたのは1枚目(左)のポスター。多分『スウィングガールズ(2004)』的なコンセプトなのだと思います。

スウィングガールズ』は山形の女子高生たちがビッグバンドをやるお話、対する本作は青森の女子高生が何やらメイド姿で三味線を弾くお話。キャッチコピーも、あちらは「ジャズやるべ」でこちらは「わぁ、三味線弾ぐ」。当然、同じような作品を連想しました。ただ実際観てみると想像していたのとはかなり違って、思いのほかシビアで繊細な物語でした。2枚目(右)のポスターがしっくりきます。

ストーリーを説明しようとすると、これといって掴みどころのない映画です。同年代の子達より津軽弁が数段強い(そのせいもあるのか地味で内弁慶気味な)主人公「いと」が、心機一転メイド喫茶でバイトを始め、なんかいろいろあって昔やってた三味線を再び手に取る、それぐらいのお話。でもそのぶんディティールが丁寧に描かれていて、例えばメイド喫茶という舞台ひとつとってもステレオタイプな描写にならないよう苦心されたことが各種インタビューで語られています。

女子高生×メイド喫茶か〜、と本作を敬遠している方もいるかもしれませんが、そこは劇中いちばん「そういうふう」にならないよう調整されている部分だと思いますので安心して観ていただきたいです。

それにしても本作、主人公いとを演じる駒井蓮(こまい・れん)さんがとにかく素晴らしい。差別主義のインチキ教授こと父親(演じるのは“カルト教団の教祖こと父親”の記憶も新しい豊川悦司)と口論するシーンでの、父親に背中を向け溜め込んで溜め込んで……振り返った「あの表情」。これまで見たことないです、人間のあんな表情。うわ、このひとはすごい、と思わされた最初のシーンでした。

(追記:駒井さん、超タイムリーなことに大河ドラマ『青天を衝け』11/14放送回から追加キャストとして出演されてます。見つけられるかな?なんてのは完全なる杞憂で、視聴者全員の記憶に残るような華やかな初登場っぷりにクラクラ。これは朝ドラヒロイン大抜擢コース十分に有り得ますね……!)

また終盤、メイド喫茶の同僚に髪を梳かしてもらうシーン。ここでの注目ポイントは「瞳」です。というか、注目せずともそこに目がいきます。気のせいかな?と思うほど少しずつ瞳の表面が潤んでいく、なんでしょうこのコントロール。物凄いものを見た気がしました。多くは語らない、もしくはそもそも自覚してもいない彼女が、深層の何かを自覚した瞬間。最も印象的なシーンです。

駒井蓮さん、三味線の演奏を全て自分でこなしていることも非常にポイントが高いです。これは『スウィングガールズ』にも共通するところですが、上手い下手ではなく本当に本人が演奏しているか、というのはこういった物語に感情移入する上でかなり重要。ラストのライブシーンで興醒めしてしまってはそこまでの繊細な物語も台無しですからね。演奏を駒井さんに丸投…託した横浜監督、そしてきっと「いとみち」が出来るほど猛練習したであろう駒井さん、おふたりに拍手です。

――監督は津軽三味線を弾けるのですか。

監督:弾けません。映画を撮るにあたって弾けた方がいい気がしたので“やろっかな”と思ったのですが、触りもせずに撮影は終わりました(笑)

駒井:確か三味線を借りるところまでは、されていましたよね。

監督:一時期、お借りしてはいました。蓋を開けて三味線を見て“これは無理だ。駒井蓮さんに託そう”と思って、すぐに閉めちゃいました(笑)

駒井:託されました(笑)

vol.70 映画『いとみち』駒井蓮さん×横浜聡子監督インタビュー|伊藤さとりのシネマの世界|シネマクエスト

ちなみに「いとみち」とは指にできる「弦の痕」のことだそう。三味線、弾いたことないんですが張力どれくらいあるんでしょう。沖縄の三線(は持ってる)よりも強そうに見える。

さて今回、毎度お馴染みシネマ・チュプキ・タバタの11月前半ラインナップとして本作を観たわけですが、その前に津軽のカマリ(2018)という作品も観ました。「津軽三味線の巨星」と呼ばれる初代・高橋竹山(たかはし・ちくざん)さんのドキュメンタリー映画。なおカマリとは津軽弁で「におい」を意味するそうです。


映画「津軽のカマリ」ポスター
映画「津軽のカマリ」ポスター


こちら、ただ三味線繋がりのラインナップではなくてですね、映画『いとみち』にて三味線の名手である祖母ハツエ役を演じておられる西川洋子さんという方。じつは高橋竹山の一番弟子さんでして、『津軽のカマリ』にも度々登場するんですね。っていうのを鑑賞後に知りました。いや、だって、ベテラン女優と信じて疑わない佇まいでしたわよ……。おらおらでひとりいぐもだったじゃん……。

それはそうと、津軽三味線の演奏をこんなにしっかり観たのは初めてだったので、思っていたよりも型にはまらない、エモーション、パッション、インプロヴィゼーション!みたいなパフォーマンスに驚きました。調弦がパフォーマンスの一部であることもかっこいいし、際限なくトリップしていく様はクラブミュージック的にも見えました。生で体感したらすごいだろうなあ。あんなに打音がバチバチいうんだなあ。あれ四つ打ちのキックだよな。絶対フロア沸くよ。

そんなわけで、ギター弾き的には今とても三味線が欲しいです。ずっしり重そうなのもいい。あと、皮の張り替え作業がめちゃくちゃ過剰に格好良かった。何あれ。たまんないです。

(2021年187・188本目/劇場鑑賞)

チュプキにて11/16(火)まで、2作品ともまだ観れるチャンスありますのでお近くの方はぜひどうぞ。ちなみに『いとみち』はとにかく津軽弁が強すぎて全然意味わかんないレベルの映画なんですけど、チュプキの日本語字幕(標準語訳ではなく津軽弁そのままの字幕)があっても意味わかりませんでした(笑) だがそれがいい