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主に映画の感想文を書いています

映画「黒い雨(1989)」をシネマ・チュプキのウクライナ難民支援上映で観た

今村昌平監督作品『黒い雨』を、シネマ・チュプキ・タバタウクライナ難民支援上映で観ました。

この支援上映については『ピアノ -ウクライナの尊厳を守る闘い-(2015)』の感想記事などでも触れましたが、そもそもの発端は、今村昌平監督のご子息・今村広介さんがチュプキに『黒い雨』を持ち込まれたことから始まったのだそうです。

詳しくはこちら。チュプキ代表・平塚さんが経緯を綴っています。


わたし今村昌平監督の作品は観たことがなくて、まあおよそGWらしからぬヘヴィな映画っぽいわよねと思っていたのですけど、先日のアトロク宇多丸さんがかなり本作を推していたことからだいぶ興味が出まして、せっかくなので初日に観てきました。で、これは本当に観てよかった。今村広介さん、よくぞチュプキにこれを!と感謝しました。


映画「黒い雨」ジャケット画像
映画「黒い雨」ジャケット画像


どんな映画かというと、タイトルでおおよそ察せる通り、原爆投下による被爆の話です。心の準備をする間もなく昭和20年8月6日の朝から始まって、閃光とともに広島は消滅します。本作は白黒映画ですが、じつは1989年の作品、ぎりぎり平成です。黒焦げの死体に溢れた市街を見て、ああこれはカラーじゃしんどいなと納得したり。

とはいえ、広島の地獄絵図を見せる映画ではないのでした。わりとすぐに5年が経つのです。戦争は終わり、のどかな日々が戻ってきている。田中好子さん演じる25歳の矢須子をいいとこに嫁がせにゃ、という小津映画的なことが全編通しておこなわれている。しかしその裏では多くの人が、いつか我が身に表れるであろう二次被爆健康被害に怯えながら生きている。直接の被爆者ではないものの「黒い雨」を浴びていた矢須子は、健康状態への懸念を理由に縁談をいくつも断られる--。

ちょうど同時期・近似題材の作品で、新藤兼人監督の『さくら隊散る(1988)』を以前観ましたけども、あれはもう直接被爆した人たちの、8月中に亡くなってしまった方たちの話で、とにかく壮絶で。じゃあ本作はまだソフトなのかというとそれも違って、敗戦から5年、早くも風化してきてしまった世の中で、人知れず決定的に人生を変えられてしまった人たちの姿はやはり痛切で。

問題の種類はまたちょっと違うのかもしれませんが、観ていて何度も頭をよぎったのは『RENT/レント(2005)』でした。HIVや薬物に蝕まれていく若者たち。セラピー会場の椅子から一人また一人とフェードアウトしていく患者たち。束の間の愛し合いと、あっけない終わり。なんかすごく、ああこれは1940年代広島版『RENT』だ、って思いましたね。

田中好子さんは、わたしキャンディーズ世代ではないものの、朝ドラ『ちゅらさん』のお母さん役ですごく馴染みがありまして。2011年に亡くなられたときは、その生々しい報道も相まって非常にショックだった覚えがあります。終盤の矢須子にはそんなことも少し重ねてしまいました。巨大な鯉のシーンがまた、痛ましいのに美しいんだ。つい身を乗り出して、唖然としてしまった。PTSDの彼がトラックに乗り込む場面も忘れられない。

あとは重なるところといえば、朝鮮戦争中にトルーマンが原爆使うかもと言ってるくだり。なんかね、2022年に同じこと言ってるんですからね……。お願いだからこの映画を観てくれ。

(2022年83本目/劇場鑑賞) シネマ・チュプキでは5/17(火)まで上映しています。ウクライナ支援につながるのはもちろん、それはそれとしてこれは映画館で観るべき映画だとすごく思いました。お近くの方はぜひ田端、行かれてみてください。