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映画「ひらいて(2021)」感想|綿矢りさ文学の新世代実写化作品。分かりみは少ないが、いいものである。

綿矢りささんの同名小説を原作とした映画『ひらいて』を観てきました。綿矢作品の実写化といえば大九​明子監督とのタッグで作られた『勝手にふるえてろ(2017)』『私をくいとめて(2020)』の印象が非常に強いですが、今作は若手監督の首藤凜(しゅとう・りん)さんが手掛けています。


首藤監督のインタビュー等を見ると、どの媒体でも真っ先に飛び込んでくるのは「この映画を撮るために生きてきた」というパワーワード *1。と同時に、既視感。そう、大九​監督も綿矢作品には同じような執念を抱いておられたんですよね。

一読者として楽しもうというつもりで読んだのですが、読み終わる頃には、「(他の人によって)映画化されちゃったらいやだな」って気持ちになるほど。綿矢文学は、いろいろ映像化のお話があると思うんですけど、『勝手にふるえてろ』をやった責任上、『私をくいとめて』まで私がやらせていただきます、という図々しい気持ちになってしまいました(笑)。

綿矢りさ×大九明子にインタビュー、こじらせ“おひとり様女子”の恋を映画『私をくいとめて』でどう描く? - ファッションプレス

綿矢作品の実写化においてはこれぐらいの執念とこじらせが必要不可欠なのだなあと納得させられたエピソードでした。本編ラストの台詞が自作タイトル引用なのも、大九​監督が『勝手にふるえてろ』に『意外と死なない(1999)』を忍ばせているところへのリスペクトだったりするのかなあとか(※下に追記)。どこかに言及ないかしらと調べていたら、「ユリイカ」の綿矢りささん特集号に首藤監督×大九​監督×綿矢さんの鼎談が載ってるらしいです、読まなきゃ! ポチッとしました!(鼎談タイトルも案の定「意外と死なない」だし!)

(追記:早速買って読んだのですけども、上に書いた「本編ラストの台詞が自作タイトル引用」は間違いでした! あの台詞は『ひらいて』の原作にあるものだそうで。つまり首藤監督は前作の時点で『ひらいて』への想いをフライングさせていたというわけか。それもそれでおもしろい!)


さて本作、大九​監督による2作品とはまた違い、高校生という思春期ど真ん中の人物たちが主役です。主役の「愛」を演じるのは『ミスミソウ(2018)』での怪演がなんといっても印象的な山田杏奈さん。今回はいわゆるカースト上位の女子高生役なのですが、まあとにかく計算高くてあざとくて、コケティッシュなほうの「女子高生」という生き物の、一つの完璧な完成形でした。ぱっと連想したのは『桐島、部活やめるってよ(2012)』の松岡茉優さん(やっぱり怪優は引きつけ合うのか)。ちなみに首藤監督は同じく吉田大八監督の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(2007)』に思い入れがあるようです *2

もう一人の主要な女性キャラクター「美雪」を演じるのは芋生悠(いもう・はるか)さん。この方すごい見たことあるけど思い出せない……みたいな感じでずっと見ていたのですが、あとから調べても結局分からず。似た雰囲気の誰かと混ざってるのでしょうね、韓国の女優さんかなあ。さておき彼女のどこか浮世離れした空気感がとても良くて、きわめつけに理科室なんか入っちゃうもんだから時をかける少女の可能性も最後まで捨ててませんでしたよわたしは。

そんな二人が開始早々おっと、これはいい百合の予感です。そして思いのほか濃厚な百合でした。百合の一言で片付けちゃうのも適切じゃないのかもしれないけど、字面と響きが好きなので百合とします。お好きな方はマストでご覧ください。なおわたし鑑賞中は「とてもいいものだけど、ちゃんと諸々配慮されてる? 大丈夫?」という心配が先に立ってしまっていたのですが、首藤監督が女性だと観賞後に知って一気にほっとしました(……と一言で片付けるのもやはり考えが浅いかな、とは思いつつ男性監督よりは安心でしょ、とどうしても思ってしまう)(たまに書いておきますけどわたしは男です)。

映画「ひらいて」より 愛と美雪のシーン
映画「ひらいて」より

三角関係の話なので男性キャラクターも出てきます。「たとえ君」という変わった名前の男子を演じるのは作間龍斗(さくま・りゅうと)さん。ジャニーズグループHiHi Jetsの方らしいのですが、この方すごく良かった。舞台挨拶の写真などを見るとただの美青年(褒めてる)なんですけど、劇中に関して言えば窪田正孝さんとコン・ユを足して割ったような薄さと暗さがかなり魅力的で。今期の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』に出演している松村北斗さんしかり、前期の朝ドラ『おかえりモネ』の永瀬廉さんしかり、ジャニーズ所属の若手俳優さんたち、今めちゃくちゃ芸達者な方ばかりで驚かされます。

物語のことを全然書いてないな。うん、面白いのは間違いなく面白いんですけど、やっぱり思春期の物語なので『勝手にふるえてろ』や『私をくいとめて』のようなアラサーこじらせ話よりはどうしても「分かりみ」は少ないですよね。というか最終的な感想は「分からん」だった。でも山田杏奈さんはじめ演者の方々すらも「分からん」との闘いだったようですし「分からん」でいいのでしょうね。主人公「愛」が好きか嫌いかという点では、ああいうキャラクターわたしは安全圏から見ているぶんには好きです。

あと『ひらいて』というタイトルに関する話で、この鼎談がとても興味深かったです。中程「身体の関係が先でも、愚かではないはず。」って見出しのところですね。

一般的には、心をひらいてから身体をひらくことが良しとされる。でも、それって何故? 逆はどうして良しとされないの? 確かになあ、と思わされる話でした。劇中終盤で「セフレ」にまつわるエピソードが出てきますが、それはこの問題提起になっていたんだなと。

といったところで、分からないなりに書きたいことはいろいろ出てくる映画でした。最後にひとつだけ言いたいことがある。愛ちゃん、なんつう音で起きてんねん。怖いわ。あともうひとつ、「指だけになっても分かる」って娘に言う母親めっちゃ怖いわ。多分あの母親もだいぶこじらせてる。

(2021年193本目/劇場鑑賞)