2022年「自分の世界に食い込んできた映画」トップ5
テレビでは紅白が始まってしまいました。まだ感想を書いていない映画が何本もあります。納まらない。納まらなさがすごい。どうにかシネマランキング的なものだけ書いて2022年を終えたいと思います。
今年観た映画は、重複も含めて230本くらい。うち半分ほどが劇場鑑賞です。なのでそこそこ新作は観ているはずですが、その中でも「今年はこれだったな」というのが以下の5本です。
- 『春原さんのうた』1月公開
- 『まっぱだか』5月公開
- 『マイスモールランド』5月公開
- 『こころの通訳者たち』10月公開
- 『すずめの戸締まり』11月公開
何がどう「今年はこれだったな」だったのかと考えてみると、単に「面白かった!」「よかった!」ではない、映画という枠を超えて「自分の世界に食い込んできた映画」なのかなと。なので映画そのものの評価とはまたちょっと別かもしれません。ざっくり言えば「思い入れのある映画」ですね。はい。
テレビの紅白を消して、ひとつずつ書いてゆきます。
『春原さんのうた(2021)』
杉田協士監督作品。ポレポレ東中野を皮切りに、ミニシアター系で上映。ソフト化はされていません。シネマ・チュプキ・タバタとポレポレ東中野にて鑑賞。
本作は、【転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー】という東直子さんの「短歌」を原作とした作品でして、そう、つまり今みなさん、本作の原作を「読み終えた」ことになります。この31文字の宇宙を広げたのが『春原さんのうた』です。行間たっぷりの静かな映画です。スクリーンの奥で開け放されたドアから風が入ってくるような映画です。
これ、もうなんだろう、この映画を好きな自分が好き!みたいな映画で。どんな大作話題作よりも『春原さんのうた』を年間ベストに挙げてやるんだ!!と心に決めていた、そして実際年末になってもその気持ちは変わらなかったのでした。
さらに本作を特別にしたのが、聖蹟桜ヶ丘にあるカフェバー「キノコヤ」さん。
キノコヤさんは劇中で主人公の女性がバイトをしている店なのですが、もう、全くそのままの佇まいで実在しています。駅からお店までのルートも全くそのままに映されます。店主も同じです。京王線聖蹟桜ヶ丘駅まで行って、映画のとおりに歩けば、映画のとおりの店があって、映画のとおりの店主が出迎えてくれる。なんかもう、すごいんです。
以降わたしはキノコヤさんへ通い詰める、というほどではないものの時々訪れてはカウンター席でいろいろな出会いをして、ほくほくと帰る。そんな「現実」が生まれました。先日もクリスマスイブの夜はキノコヤさんでおでんつついていました。幸せでした。幸せです。
他にも「ギタレレ」の話とかあるんですが、それは当時の感想に書いているので省略します。まあとにかく、映画と現実の境目が完全になくなった作品、それが『春原さんのうた』でした。
『まっぱだか(2021)』
安楽涼監督と片山享監督の共同作品。神戸のミニシアター元町映画館が製作・配給をした映画です。シネマ・チュプキ・タバタにて鑑賞。こちらもソフト化はされていません。
本作は、わたしがシネマ・チュプキ・タバタの非常勤スタッフとして勤め出してすぐの頃に上映した作品でした。作業用の動画データで観たのが最初で、そのときはあまりピンときてなかったんですね。ただ、監督・キャストの皆さんの舞台挨拶があった際にあらためてスクリーンで観てみたところ、印象が全く変わってきて。あ、すごく好きかもこれ、と思って。
で、さらにです。これはもう完全に映画を飛び出てるんですけど、監督・キャストの皆さんの現実世界でのお人柄が、ものすごくよかったんです(映画の中ではものすごくめんどくせえ人たちであることも大きかったかもしれません。なんてことは言わないほうがいいのか)。
なんか、「映画業界」でこんなふうに「いい感じ」な人たちっているんだあと、片足踏み入れたばかりのわたしはふわふわしてしまいまして。しかも、この舞台挨拶は2daysだったんですよね。2日間、同じようなふわふわを味わえて。『まっぱだか』は愛するほかない作品となってしまったのでした。
それからしばらく経ち、チュプキ関連の「出張」として元町映画館さんへ伺う機会がありました。元町映画館さん製作の映画ですから、当然いろいろと裏話など教えていただけるわけです。うわーここがあの屋上ですか!!とか、他にもロケ地をできる限り回ったりとか。やっぱり特別だなあとしみじみ。この出張の話はいつかちゃんと書きたいです。
『マイスモールランド(2022)』
川和田恵真監督作品。新宿ピカデリーにて、あ、そういえば評判いいし観たいんだった〜、と軽い気持ちで観たものがズドンと一発。
本作、ざっくりの内容は「難民申請の不認定により在留資格がいきなり失効となってしまった在日クルド人の家族を描くフィクションの劇映画」です。『海辺の彼女たち(2021)』などと同様、実質ノンフィクションなのだけど、ドキュメンタリーにしてしまうと当人たちが被害を被りかねないのでフィクションとする、そういう作品です。
ということは、まあなんか題材的にも重い話なのかなと思うかもしれないのですけど、そこが本作のすごいところで、めっちゃ青春映画なんですよ。主演の嵐莉菜さんがもうとにかく魅力的なヒロインで、だからこそ、だからこそ、彼女とその家族の身に降りかかる不条理が、どうしようもなく自分ごとのように耐えがたい。どうにか、どうにか彼女を救えないのか。
こういった作品を観るとつい出てしまう言葉が「無力感」です。何もできない自分に、無力感を覚えた。——否!! 俺たちは無力じゃねえぞ!! そう喝を入れたのが、お馴染みライムスター宇多丸さんでございます。つまり、これは日本の話であるし、われわれは参政権を持っているし、直接的に寄付などで支援することもできる。はなから「無力感」などと思考停止しちゃいかんぞ、と(詳細は『FLEE フリー』のほうに書きました)。
で、これ、自分で何度も何度も書くのはいやらしいかとも思いつつ、でも書くことで続いてくれる人がいればいいし宇多丸さんに倣ってアピールするのですけど、自動引き落としの定額制寄付をすることにしたのです。6月に始めて、もう半年間寄付しているわけです。別にそんな、きわめて少額ではあります。ただ、これを、同じようなことを、この映画を観た人が何人、何十人、何百人と行動に起こしているとすれば、それは、この映画は確実に世界を動かしたことになると思うのです。
ちなみにわたし普段こういう慈善寄りな行為には消極的なほうで、ここまでの行動に移したのは今回が初めてでした。何がそこまでわたしを揺り動かしたのかは分かりませんが、尋常でなく特別な映画であることは確かです。なお同じ内容のメールが28日のアトロクで読まれました。
『こころの通訳者たち(2021)』
山田礼於監督作品。シネマ・チュプキ・タバタが製作・配給を手がけたドキュメンタリー作品です。試写、チュプキ、新宿K'sシネマ、藤沢シネコヤなどさまざまな場所で観ました。全国順次公開中、ソフト化は未定です。
今年は結果的にこの映画の年だったとも言えます。初めて観たのが昨年12月末のお披露目試写で、その頃はまだボランティアとしてチュプキに関わっていた程度。そこから1年が経ち、……こんなにも状況が変わるか、というくらい、この映画に関わってしまっています。人生何がどう転ぶか分からないものですね、本当に。
『春原さんのうた』も大概「映画と現実の境目がない」映画でしたが、本作はそれ以上。映画の続きに合流させてもらっているかたちで、とても客観的には見れません。が、何度観ても毎回新たな発見と大きな感動がある傑作、だと思います。1年前からその気持ちは変わってないので、きっとそう。間違いない。
この一週間ほどでじつはSixTONESのメンバーさんにご紹介いただいたり、アトロクでも各方面からプッシュいただいたりと信じられないような波が来ている本作。なのにちょうど上映館がぽっかり少ないタイミングで、なかなかうまくいかないものですね〜。山口県は萩市、萩ツインシネマさんでのみ、現在上映いただいております! お近くの方はぜひ!
シネマ・チュプキ・タバタでは1/19(木)から上映を再開します。こちらもぜひ!
『すずめの戸締まり(2022)』
いきなりスケールが変わりまして、新海誠監督作品。最寄りTOHOシネマズ等で3回観ました。「新海誠本」1・2コンプ、小説版も読みました。
これは厳密に言うと「自分の世界に食い込んできた」とはちょっと違って、個人的趣味として観る以上に観た(けど個人的趣味としても超のめり込んだ)、という感じ。つまり、まっぷるトラベルガイドさんで書かせていただいている記事の12月分は『すずめの戸締まり』の、いわゆる聖地巡礼ガイド的なものだったのでした、の巻。です。
『すずめの戸締まり』聖地巡礼!九州~東北までおすすめのスポットをご紹介|まっぷるトラベルガイド
以前にも『天気の子』までの7作品を紹介する記事を書いておりまして、元々さほど新海誠スキーではなかったわたしですが、その際だいぶ思い入れができていたのですよね。なので今回もありがたく書かせていただくことにしたのですけども、これが予想を遥かに超えて「本気で好きな作品」だったのです、『すずめの戸締まり』。
ということで、確かに「おしごと記事を書くため」という理由はありつつ、しかしそれ以上に、単に好きだから、無性に好きでたまらないから3回も観に行ったし小説も読んだ、そんな感じでした。よって今回のまっぷるさんの記事はかなりわたし自身の思いが強く入っています。お読みいただけたら幸いです。
で、この映画のどのへんにそこまで惚れ込んでいるのか、については初見後の感想記事に大体書いてあるので割愛しつつ、何度でも言っておくならば「新海誠というネームバリューのもと、よくぞこれを」。それに尽きるのです。『マイスモールランド』同様、日本に大きな影響を(それは「良い影響」だと願いたい)与え得る作品だと思うのです。
絶対に賛否はある。少なからず暴力的な映画であり、拒絶する人がいても全くおかしくない。そんなの重々承知の上でこの映画を世に出した新海監督と製作チームの覚悟に、わたしは胸打たれました。
以上5作品を、わたくし353の【2022年「自分の世界に食い込んできた映画」トップ5】とさせていただきます。
もちろん、もちろんですよ、めっちゃ良かった映画、めっちゃ面白かった映画、山ほどありますよ。今年は超弩級の豊作イヤーでしたからね。スパイダーマンもウエストサイドもトップガンもRRRもあれもこれもブチ上がりましたよ。でもこの1年間、ふるいにかけてみると意外にそのへんの作品は残らなくて。なんかまた別なんでしょうね、そういうのって。
来年は、おそらく確実にぐんと鑑賞本数は減ると思うのですけども、どんな映画に食い込んで来られるのか、楽しみにしております。2023年もどうぞよろしくお願いいたします。