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主に映画の感想文を書いています

映画「まっぱだか(2021)」感想|2回観ると見えてくる、「めんどくさっ」の先にあるもの。

安楽涼監督と片山享監督が神戸・元町映画館とタッグを組んで完成させた映画『まっぱだか』を、シネマ・チュプキで観ました。6〜7月のチュプキは「映画館が作った映画」をセレクトしていますが、本作もその一環です。


映画「まっぱだか」ポスター
映画「まっぱだか」ポスター


こちら、チュプキで舞台挨拶の撮影&レポートを担当することが決まっていたのと、音声ガイド制作の舞台裏動画を作ったりなどもしていた関係で事前に一度観ておりまして、そのときの感想は正直「めんどくさっ」だったんです。ってかなり誤解を招きますね、これ劇中に頻発するセリフなんですけど、それはそれとして超めんどくさい映画だなというのが第一印象でした。


▲ちなみにこれが音声ガイド制作の舞台裏動画です。
チュプキの音声ガイドはこのようなかたちで、細かく検討しながら作られています。


ただ、初見時から思っていたのは『春原さんのうた(2021)』系の映画だなと。全体的に説明は控えめで、はっきりとは明かされない何らかの喪失を主人公が抱えていて、周囲のサポートがけっこう手厚い(ていうかしつこい)。数ヶ月前にどっぷり『春原さんのうた』にずぶずぶしたわたしとしては、気になるなと。「めんどくさっ」の1回で終わりにするのは後ろ髪引かれるなと。

そんなわけで、監督&キャストの方々による舞台挨拶のあった日、もう一度鑑賞することにしました。そしたらば見え方が全然違って。「めんどくさっ」を乗り越えた先には、感情の機微的な気付きや映画的表現の気付きがいろいろあって。チュプキの日本語字幕と音声ガイドが理解度を上げてくれた部分もあったと思いますが、とにかく「2回観てよかったーーー」と命拾いした気持ちです。


この映画では全編通して「ボール」が印象的に使われているのですが、特にはっとしたのが中盤、俊とナツコの「戻ってこーへん」「取りに行きましょ!」という会話を生むきっかけのボール。ああ、こういう話なんだなあと、2回目はここですごく納得したのを覚えています。他にもボールは新たな気づきが多く、2回以上観ないと誤解されやすい映画かもと思いました。

また、2回目で見え方が変わった際たるものは「吉田」ですね。安楽涼監督ご自身が演じる「赤い上着の男」という非常にキャラクター化された人物で、はっきり言ってわたしはこの吉田がいちばん好かなかったんですよ。友達思いと粘着質は紙一重。現実にこんな友達いたらいやだ。彼の口癖「めんどくさっ」をそのままお返ししたいマジで。終始苛々してました。

でも不思議と、2回目の吉田は妙に愛おしくて。「おっ、きたきた」って思えるし、しまいには妖精みたいに見えてきちゃって。終盤で「あの坂道」の石垣んとこにちょこんと座ってるシーンとか、背中にティンカーベルさながら羽が見えてしまう始末。やおらモノローグみたいな妄想語り出す俊と、すかさず背後から突っ込む吉田もよかったな。俺がなァお前といつまでもおると思うなよって何度言うねん、いつまでおんねん。

オチも、「なんやかんや映画って笑えるほうがええと思うねんな」がそこに掛かるか!ってのもそうだし、なんでもいいから描けって言った因果応報やんな?って可笑しくて。本作は「当たり前」に抗う映画なのですが、その意味でもすごくいいラストシーンですよね。脱ぐのかなと思わせた人が脱がなくて、脱ぐなんて思いもしなかった人が脱ぐ。バーカバーカ、当たり前のバーカ!って感じで好きです。

ちなみに安楽涼さん、後から知ってびっくりしたんですけど、ずばり『春原さんのうた』に出ておられて。通夜帰りかなんかで奥さんとキノコヤへ入ってくる、岩塩かけられた上に謎書道パフォーマンスを見せられるはめになる、つい風林火山を持ち帰ってしまうあの「喪服の男」です。さらに本作の重要な「喪失」たる大須みづほさんも、まさにあの「奥さん」なんですよ。姉妹作だなあ、これは。


そんな調子でいろいろこまごまと愛着が湧いてしまった映画『まっぱだか』。でもじつは映画の中だけじゃなくて、出演されていたご本人たちの魅力がそれを決定づけてしまったといいますか。俄然、応援したい映画になっちゃったというのもありました。

2日連続でチュプキに来てくださった監督・出演の片山享さん(横山役)、主演の津田晴香さん(ナツコ役)と柳谷一成さん(俊役)、こちらのお三方って劇中ではかなりヒリついた三角関係のような役をそれぞれ演じておられるんですけど、びっっくりするほど実際は違うんですよ(笑) そりゃそうか、でも「役者さんってすごい…!!」をここまで感じたの初めてかもってくらい皆さん、鬱屈した映画の中とは全く別の魅力に溢れていて。


▲ここに私はいません。写ってなどいません(カメラマンなので)。


チュプキはとにかくお客さんとの距離が近い劇場なので、舞台挨拶やその後のサイン会なども皆さんおそらく新鮮に楽しんでくださっていて、ああなんか、すごくいいなあ嬉しいなあっていう、もうトータルですごくいいなあっていう。そういう思い出込みの映画になっちゃったんですよね。

これも『春原さんのうた』と共通してて、あちらもやはり、そもそもは「ギタレレ」が出てきたことだったり、劇中に登場する聖蹟桜ヶ丘のカフェ・キノコヤさんに実際に行けたことだったり、ポレポレ東中野さんの最終上映舞台挨拶で「さっちゃんの歌」フルバージョンを生で聴けたことだったり(これブログに書けてないですね……)、そういう「映画から飛び出した映画体験」込みで特別な作品になったので、ちょっと反則かもだけど、そういうのってあるよなあと思います。

いきなり思い入れができてしまったため感想書くのもずるずる後回しにしていたのですが、6月いっぱいで東京上映が終わってしまう……!ので、もっともっと書きたいことあるけど、週末の朝にひとまずアップです。シネマ・チュプキ・タバタにて毎日14:50から、6/30(木)までの上映となります(水曜休)。日本語字幕付きなので言葉の解像度が上がるかも? 音声ガイドは、ナツコ役の津田さんも聴かれていました。お試しくださいませ。

(2022年107本目/劇場鑑賞)

現実を受け入れられない俊(柳谷一成)と現実の自分ではなく他人から求められる自分に翻弄されているナツコ(津田晴香)。

ある日そんな2人が出会い、そして同じ時を刻んでいく…

葛藤と葛藤のぶつかり合いは、いつか笑いへと昇華されていくのだろうか。


映画「まっぱだか」公式サイト

チュプキでの舞台挨拶の模様は、こちら(6/18)こちら(6/19)で少しご紹介しています。初日には安楽涼監督もお越しくださいました(お会いしたかった…!) とにもかくにも、ぜひ、ご覧ください! そしてわたしは神戸に行きたい。