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主に映画の感想文を書いています

コロナ禍映画3本立て「東京自転車節」「茜色に焼かれる」「狂猿」感想|ウーバー、地獄、デスマッチ。

東京・田端のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」にて、それぞれ全く毛色の違う、しかしいずれも【コロナ禍映画】という共通点を持つ3本の作品をハシゴしてきました(※2週間くらい前のことなので現在は上映終了。書くの遅くなってごめんなさい)

ウーバー配達員のセルフドキュメンタリー『東京自転車節』。コロナ禍の地獄、そうでなくとも地獄、尾野真千子主演『茜色に焼かれる』。プロレスラー葛西純のデスマッチドキュメンタリー『狂猿』。こんなラインナップ、映画館を「箱推し」してなければそうそう出会えません。

手短にですが3本分まとめて感想書いていきます。

映画「東京自転車節」「茜色に焼かれる」「狂猿」ポスター
映画「東京自転車節」「茜色に焼かれる」「狂猿」ポスター

「東京自転車節(2021)」

コロナ禍で失職した山梨の青年がウーバーイーツの配達員として東京へ出稼ぎに来る話。全編スマホとGoProで撮影されたセルフドキュメンタリーでして、これがもう大傑作。めちゃめちゃおもしろかったです。

失うものは何もない!とチャリを漕ぎ漕ぎ東京へやって来た青年の「その日暮らし」はまさに喜劇。なにかと爆笑させられたり、あまりの現実に言葉を失ったり、デリヘルのエピソードでボロボロ泣かされたり。ウーバー配達員の背中を見る目が(いい意味で)確実に変わりました。いや、あんなんじゃねえよ?と思う同業者の方もいるのでしょうけど。

なおセルフドキュメンタリーということでつまりこの出稼ぎ青年こそが「監督」であり、じつは日本映画学校を出てキャリアも積んでいる方なのですが、そうと知らず見ているとただ本当に田舎暮らしの青年が見様見真似の上京YouTuber的なことをしているようにしか最初は見えません。そのぶん『パラサイト 半地下の家族(2019)』をも思わせるような後半の映画的飛躍であるとか、編集の妙技であるとか(これは撮影編集・辻井潔さんのお仕事)、そもそも人脈であるとか、えっ一体なんなのこの凄まじく面白い映画は、と驚愕することに。「作り物としてのドキュメンタリー」として超絶よくできています。もちろん「初期コロナ禍の記録」としても。

まだ各地で劇場公開は続いているようですので、お近くで上映の際はぜひ。数フェーズ前のコロナ禍にちょっと懐かしさのようなものを覚えるのも興味深いです。


「茜色に焼かれる(2021)」

こちらは一転、コロナ禍の劇映画。ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故で夫を亡くした妻とその一人息子が主人公。てっきりこの事故を中心に進んでいく物語かと思いきやあくまでそれは発端にすぎず、次々と襲い来る不条理な地獄に耐え続けなければいけない、なかなかしんどい映画でした。「寓話化されていない『きまじめ楽隊のぼんやり戦争(2020)』」みたいな印象を受けました。

おもしろいのは、とにかく「コロナ禍」を記号的に描いているところ。マスクであったり(マスクが視界下部に入っている主観映像なんてのまで)、アクリルやビニールのパーテーションであったり、リモートなんちゃらであったり。さらには尾野真千子さん演じる主人公が働く風俗店での、滑稽ですらある濃厚接触の様であったり。いつかコロナ禍を知らない世代がこの奇妙なあれこれをどう見るのか、楽しみです。

ただまあ、しんどさは別として、好きかと言えばあまり好きではない映画でした。特に終盤で唯一カタルシスとなる反撃の叶う相手ってのが、個人的にはいやもっと極刑食らうべき人間いただろと思ってしまったり。片山友希さん演じるケイという素晴らしいキャラクターの使い方も残酷で趣味じゃないと思ったり。尾野真千子劇場としては見応えありましたけど、ちょっと掴みにくい作品でした。


「狂猿(2021)」

きょうえん、と読みます。デスマッチファイターとして活躍するプロレスラー葛西純さんのドキュメンタリー。プロレスなんて興味あったのか、否、まるで門外漢っていうかどちらかといえば興味なかったです。格闘技を楽しいと思える感覚がわからなくて。でもそんな映画もつい観てしまうのが「箱推し」のいいところ。観終わったときには蛍光灯を割りたくて仕方なくなっていました(悪影響)。

プロレスのデスマッチって本当にもう全身が血で染まるような、カミソリに蛍光灯で立ち向かうようなトンデモ試合なんですけど、あくまでエンタメとして「致命傷は負わせないように配慮して」魅せているのだということを知れて、全く印象が変わりました。スタントマンみたいなパフォーマーだったんですね。ってまあ当然なのかもしれないですけど、知らないとただの野蛮にしか見えないので。この映画、観れてよかった。

で、これもコロナ禍映画です。コロナ禍におけるエンタメ興行の実録になってます。歓声を上げて熱狂できない、そんな不完全燃焼な初期の興行から、選手側も客側も少しずつ今できうる限りの新たな熱狂を掴んでいく。わたしもこの2年、所属する吹奏楽団で演奏会が中止になったり、無観客配信公演をやったり、そして先週ついに2年3ヶ月ぶりの有観客公演をやったり。そんなさなかに観たので感情移入もひとしおでした。

※レポート書いてます。

あとそうそう、葛西選手の生活圏がわたしと被っていたのも運命感じちゃったんですよね。いきなり長津田(いっつも乗り換えてるよ)、次に鴨居(いっつも映画観に行ってるよ)、そして町田(住んでるよ)。こないだも「箱推し」で何気なく観たドキュメンタリーが本籍地の話だったしね。こういう巡り合わせがあるから面白いんですよね。

以上、手短にならなかったな。コロナ禍映画3本立てでした。今生きているこの時代が映画になっているというのは、コロナ禍に関して言うと語弊はあるかもしれないけれど興奮してしまいます。歴史の中に生きてるんだなって。

(2021年180〜182本目/劇場鑑賞)