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映画「あのこは貴族(2021)」感想|異なる階層に生きる女性ふたりが東京の空の下で巡り合う物語

映画「あのこは貴族」ポスター山内マリコさんの同名小説を原作とした映画『あのこは貴族』を観ました。

出演は門脇麦水原希子高良健吾ほか。監督の岨手由貴子(そで ゆきこ)さんは存じ上げなかったのですがこれが長編2作目のようです。

門脇麦さん演じる良家の箱入り娘と、水原希子さん演じる地方出身の女。同じ東京に暮らしながら異なる「階層」で生きるふたりが、高良健吾さん演じる良家の子息を介して知り合うこととなり──。あらすじはそんなところ。

原作同様に章立てされたスタイリッシュな構成*1が印象的で、まず「東京(とりわけその中心の、とある階層)」と題された第1章から掴みは抜群。時系列がわりかし自由に前後するのですが、第2章は地方都市で第3章は邂逅と、ヒロインふたりを個別に描いてから巡り合わせる作りであろうことは予想できるので初見でも混乱することなく観れました。

第1章ではとにかく門脇麦さんの箱入り娘っぷりが強烈です。外の世界のことなど知る由もない本物のお嬢様、日本にこういう人って本当にいるのかしらと疑わしく思うレベルですが、違う階層の人間とは出会わないよう世界は回っているらしいのでいるんでしょうね。なにせわたし「松濤」っていう地名知りませんでしたし(ただ地理に弱いだけともいう)。

男運のないお見合いを重ねた末、彼女はようやく同じ世界線高良健吾さんと結ばれます。高良健吾さんってつくづく嫌味のない超イケメン好青年役がぴったりで稀有な役者だなあと。ただ個人的には飲み屋で出会った「ラテでしょ、ラテ」男も結構好きだったんですが。そこが階層の違いってやつか。

第2章では水原希子さんが、A1012Kシルバーを使ってる!!!……っていうのはケータイの話ですけども。回想シーンに出てきたやつで、かつてわたしも使ってました。色はライム。機種名を覚えてるくらい思い入れがあります。アルミなんですよ。冬めっちゃ冷たいの。

さておき、同じケータイを使ってるくらいなんで同じ階層の人間として親近感を覚えるこちらのヒロイン。水原希子さんってすごく儚い魅力のある女優さんで、言い方はよろしくないですがプツっと死んじゃうんじゃないかと心配になるような笑顔を見せる方だと思ってたりします(本作では強く生きていくのでご安心を)。

第3章では、じつはこのヒロインふたりが高良健吾さんとそれぞれ繋がっていたと判明。余計なお世話とも言える友人の引き合わせにより対面することとなります。ここでは門脇麦さんの上流階級オーラがすごくて。水原希子さんがスプーンか何か落としたときの即座に無言で手を挙げ店員を呼ぶ慣れた仕草、うわ、拾うという選択肢はそもそもない世界の人なんだと、あそこ見事な演出でした。

彼女は言葉遣いも全てが上品で、そもそも庶民的な言い回しがインプットされていないからちょっとしたお喋りでもボロが全く出ない、出ようがない、そんな感じなんですよね。このあいだ電車で隣の見知らぬ女性ふたりの会話を聞いていて、このひと育ちよさそうだなあと感じたのを思い出しました。「買い物」を「お買い物」と言うだけでも全然違う。

とまあいろいろ書けるは書けるんですけど、全体的には非常に息苦しい映画でした。階層のところは『パラサイト 半地下の家族(2019)』を観たときに抱いた感情と近くて、さらにこれは日本の映画なもんで肌感覚で味わえてしまうのがきつくて。もっと言うと、フェミニズム映画でありシスターフッド映画でもあるわけなので日本人男性(=わたし)にとってはなかなか肩身が狭くて*2。感想の落とし所に困った挙句、そことは関係ないことを書いた次第です。

肌感覚といえばこの映画すごく、いわゆる「ニューヨーク映画」的な「東京映画」なのが好みでした。水原希子さんが親友の子(山下リオさん。彼女もいい役どころ!)と自転車の「ニケツ」で東京の街を走るときの、背後のビルに映る東京タワーのオレンジと、彼女たちの上向きの視線。今更だけどあたしたち東京にいるんだよっていう顔。やはり同じふたりが終盤見おろす東京駅の、整然と美しく撮られた駅舎。後世まで残したい東京の姿でした。

捉え方が難しかったとはいえ良質の映画だったのは間違いありませんが、一点、どうしてもこれは苦言を呈したい。バイオリンのアテフリが気になって仕方なかった。どうか最後のロングトーン以外もビブラートをかけてください。ラストシーンがノイズなのはもったいなさ過ぎます。というか彼女の存在で話がぼやけちゃったような気もする、というのは言い過ぎでしょうか(アテフリのことを除けば石橋静河さんの演技自体は良かったです、と念の為)。

(2021年43本目/劇場鑑賞)

そういえば、門脇麦さん演じる華子(ここにきて初めて役名を書く)が好きだという「目が覚めたらカンザスで」みたいな映画は多分『オズの魔法使(1939)』だと思うのですが、そんなに空の向こう虹の彼方を夢見ていたようには見えなかったな……。

*1:原作を読んだような口ですが、試し読みで冒頭数ページ読んだだけです。すみません。

*2:シスターフッド映画の傑作『ハスラーズ(2019)』なんかは大好物だったので、舞台が日本かどうかというのはだいぶ大きいのでしょうね。自分がいち観客ではいられなくなるのが日本映画のいいところでありエグいところでもある。