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主に映画の感想文を書いています

映画「明日の食卓(2021)」感想|感想を書くのが難しい

現在公開中の映画『明日の食卓』を観てきました。椰月美智子さんによる同名小説を、菅野美穂さん、尾野真知子さん、高畑充希さんのトリプルヒロインで映画化した作品です。

石橋ユウ、10歳。
同じ名前の息子を持つ3人の母親たち。
だがある日、ひとりの「ユウ」君が母親に殺されたー

INTRODUCTION|映画『明日の食卓』公式サイト


住む場所も環境も違い接点もない、しいて言うなら同じ名前の息子を持った3人の母親たちの日々が並行して描かれていきます。児童虐待をテーマにした作品ということである程度覚悟はしていましたが、思っていた以上にしんどい映画でした。そして感想を書くのも難しい……。

わたしは映画を観るとき「自分に重なる部分があったか」「感情移入できたか」といったあたりが主な評価軸となっています。その意味では幸運にもと言うべきか重なる部分がないに等しく、つまり子供目線でも見れないし親目線でも見れない、フィクションとして見るしかないためただの地獄を見せられていただけ、という状態に。

とはいえよかったのは、わたしとは逆に、この映画を自分に重ねている方の感想を先に見ていたことです。単にわたしが知らない世界なだけで、この話は荒唐無稽なフィクションなんかじゃない。少なくともそう意識したうえで観ることができたのは大きかったと思います。

本作では印象的に「飛行機雲」が登場します。そのシーンを観て、これは『この世界の片隅に(2016)』なんだなと。事細かに描写された市井の人すずさんは、しかし遥か上空のB29から見れば小さな丸に過ぎない。本作の該当シーンでも、地上では複雑かつ壮絶なことが起きていたとしても空からはそんなもの何も見えない。きっと目には入っているのに、知らない世界。

自分と重ねられない映画でも、感情移入できない映画でも、そういう考え方は持っていないといけないなと思わされた一件でした。

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映画「明日の食卓」ポスター


それはそれとした雑感

菅野美穂、尾野真知子、高畑充希」。この連なりを見るとわたし的には「朝ドラ」の3文字が浮かんできます。でもちなみに菅野美穂さんは朝ドラヒロインをやったことはないっぽいですね。意外。

朝ドラでの菅野美穂さんというと、やはり『ちゅらさん』でしょうか。尾野真知子さんは言うまでもなく、かの傑作『カーネーション』。高畑充希さんは『とと姉ちゃん』……と言いたいところですが印象で言えば『ごちそうさん』一択やむなしです。

そんなわけでお三方とも思い入れのある女優さんですけども、なかでも本作では高畑充希さんが素晴らしかった。シングルマザー役の彼女、そのヒロインっぽさが癪に障るのよ!なんて劇中では当てつけ言われたりしてましたが、いやむしろヒロインっぽさの薄い、サバッとした大阪のおばちゃん候補生を見事に演じておられました。惚れなおしてしまいました。

役どころ的にも、この親子関係が唯一の救いだったんですよね。この母子、ずっと見ていたかったなあ。含みのある演技が印象的な「ユウ君」を演じていた子役さん、最近どこかで……と思ったら最近も最近、現在の朝ドラ『おかえりモネ』でほんの数回の出演ながら強い印象を残していた「竹とんぼ少年」でした。彼か!(なんて言ってたらちょうど6/15の放送に再登場!) また、藤原季節さん演じるアイツも良かったですねえ。全然良くないんだけど、憎めない。タンクトップと乳首が頭から離れない。

菅野美穂さんは、演技面では最も強烈な役どころでした。ガラスの割れそうな金切絶叫。まあそりゃそうもなるでしょうという納得のカオス展開。よその家含め、亭主の描写がステレオタイプすぎないかと思わないでもありませんでしたが、ああなる背景にはあの亭主ありということなのかもしれません。なお3人のなかで最も感情移入できたのは菅野美穂さんです(ブチ切れたい願望があるので)。

尾野真知子さんちは、完全なる悪夢。マタニティホラー*1。記憶に新しい『哀愁しんでれら(2021)』は同じハイソなマタニティホラーでもエンタメ化されていたので『悪い種子(1956)』的に楽しむことができたけど、こちらは全く楽しめない。恐ろしすぎる。ていうかラストも全く希望と捉えられない。何も信じられない。それから山口紗弥加さん、そっちか! わたしはすっかり百合方面を期待していたよ! 現実逃避として!

大島優子さんにはびっくり。全然気付きませんでした。知ってからスチルを見ても、なお分からない。あとそもそも、大きな声では言えないのですが、本作の大前提(あらすじ三行目)をわたし把握し損ねていて。見事に置いていかれました。もう一回観ればだいぶ理解深まるんだろうな。もう一回観るのは、しんどいんで遠慮したいですけど……。

といったところで、まとまった感想は書きづらいけれど細かい感想は無限に出てくるような映画でございました。WOWOWオンデマンド等で早くも配信が始まっているようですが、家で観たら再生停止してしまいそうな地獄なので劇場鑑賞をおすすめいたします。

(2021年88本目/劇場鑑賞)

*1:わたしが思うマタニティホラーの定義は、妊婦さんに見せたくない映画。