映画「チェイサー(2008)」雑感|デリヘル店長と猟奇殺人犯の絶望的追撃戦
『哭声/コクソン(2016)』に引き続き、同じくナ・ホンジン監督のこちらはデビュー作『チェイサー』を観ました。韓国映画のなかでも特にメジャーなあたりではないかという印象がある本作ですが、主演のキム・ユンソクさんが出演している『あなた、そこにいてくれますか(2016)』を観た流れで遅ればせながらの鑑賞となりました(ちなみに『哭声』は同じ監督だと知らずに偶然観たのであります)。
ざっくりのお話としては「元警官とシリアルキラーの追いかけっこ」ってなところでしょうか。キム・ユンソク演じる「元」警官は、じゃあ「今」がなんなのかというとデリヘルの元締めです。だいぶ変わりましたね。そして彼に追われるシリアルキラーを演じるのが、みんな大好きハ・ジョンウ。本作におけるブリーフ一枚の猟奇殺人犯ハ・ジョンウを観たあとだと『1987、ある闘いの真実(2017)』で腐敗した警察の拷問殺人隠蔽に毅然と立ち向かう姿が「嘘こけえ〜〜」と思えてしまうこと必至。(追記:『1987』もキム・ユンソク出てたんですね……。っていうかむしろキム・ユンソクvsハ・ジョンウの構図だった……)
『哭声』がとにかくジャンルの定まらない映画だったのに対し、本作は一応「サスペンス」や「刑事もの」で最後まで通るかなという感じです。主人公が被疑者相手に殴る蹴るの手荒な捜査をしようとして「今はそういう時代じゃない」と逆に怒られてしまうあたりからは『殺人の追憶(2003)』で描かれた軍事政権下のずさんな捜査なども連想させられますが、どちらも実際に起きた韓国の連続殺人事件がモデルになっている作品です。
救いはある。まだ、かろうじて。
『哭声』に比べれば……。
というわけで先に書いておきましょう、これは絶望的な映画です。未見の方は先に観ていっちょ絶望してこられたほうがいいんでないかと思いますよ。希望が打ち砕かれるあの感じをぜひ体験していただきたい。
ではネタバレしますね。ソ・ヨンヒさんが演じるデリヘル嬢ミジンさん。そこそこ重要なキャラクターになってくるであろうと思われたこの方は、あっけなく序盤でハ・ジョンウの餌食となってしまいます。代わりに彼女の幼い一人娘が劇中では大きな存在になっていく。いい話、っぽくなっていく。しかし忘れた頃に「ミジンさんじつはまだ息があった」展開、そして痛快大逆転の機運が高まります。よっしゃ!
──からの「逃げた先が悪かった」展開。悪意なき絶望展開。希望の光を一回挟んだ「再びの絶望」ほどエグいものはありません。超ド級にいじわるです、この展開。でもこういう、うーーわーーってドン引きしてるときが映画体験としては至福だったりもするんですよね。
で、「まだ救いはある」というのは、単純に主人公もあの娘も死んでないからです。『哭声』を思い出してごらんなさいよ!!って気持ちになります。どんだけ『哭声』が絶望的だったのかって話ですが。でもほんと、あのふたりが生きていれば、少なくとも『レオン』ぐらいのハッピーエンドにはなり得る。
さながら『レオン』のマチルダか
本作に途中から参加してくる7歳の少女ウンジ。彼女の母親を奪ってしまった罪悪感から主人公ジュンホは少女の保護者になり、子連れで捜査に奔走します。この「二人組」の雰囲気は、今しがた書いたばかりの『レオン(1994)』が近いんじゃないかなと。ジャン・レノ演じるレオンと、キム・ユンソク演じるジュンホ。幼いナタリー・ポートマン演じるマチルダと、幼いキム・ユジョン演じるウンジ。
そう、で、このキム・ユジョンさんって実際に当時7歳くらいで、初登場時こそ『サマーウォーズ』のカズマみたいで性別不詳なんですが、後半ではしっかり女の子の顔をしていて、この子は将来美人になるぞ〜〜なんて思いながら見ていたわけです。『哭声』しかり、ナ・ホンジン監督は子役のキャスティングおよび父娘の構図がうまい。
ではこの子が10年分くらい成長するとどうなるか。画像検索してたまげました。どうぞ。
かわいーーーー。ていうか、この成長したお顔を拝見して気付きましたよ、この子知ってる。『親切なクムジャさん(2005)』でもチェ・ミンシク演じるシリアルキラーの被害に遭ってた子だ。その時もやっぱり画像検索したら超絶可愛い子がいてびっくりして、なんならインスタフォローまでしてたんだった。名前ぐらい覚えてなさいよ失礼な。
何が言いたいかっていうと子役時代から今に至るまで見目麗しい、そんなところまでナタリー・ポートマンじゃないのというこじつけです。キム・ユジョンさん、きっとまたどこかでばったり再会できるでしょう。
そんなわけで、美少女インパクトが強すぎて他の感想が飛んでしまいました。猟奇殺人ものではありますが直接的描写は抑えられているため(思い返してみると「そうか〜??」とも思うが、鑑賞中は「だいぶ配慮してるな」と感じていたので記憶を優先)、絶望系にしてはそこそこバランスのいい作品かもしれません。急坂だらけなソウルの地形も息絶え絶えに堪能できます。
あとこれ今ちょっと見返していて思い出したのですが、最低限の描写で「今起きたこと」「これから追うべき対象」が一目瞭然なアバンタイトル、かっこいいです。名作の予感しかない、スマートで秀逸なオープニングです。
(2020年205本目/U-NEXT)
チェイサー ディレクターズ・エディション【初回限定生産2枚組】 [DVD]
- 発売日: 2009/10/02
- メディア: DVD