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映画「激動の昭和史 軍閥」「激動の昭和史 沖縄決戦」雑感|東宝8.15シリーズを観る②

春日太一さんの新著『日本の戦争映画』から「東宝8.15シリーズ」と呼ばれる作品群のことを知った&ちょうどWOWOWが一挙放送してくれていた、ということで8.15シリーズ鑑賞記の第2回です。第1回はこちら。

今回は、似たようなタイトルですが『激動の昭和史 軍閥および激動の昭和史 沖縄決戦の2本を鑑賞しました。

「激動の昭和史 軍閥(1970/堀川弘通監督)」

激動の昭和史 軍閥

激動の昭和史 軍閥

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
太平洋戦争を題材にした映画で「戦局の悪化」と一言にまとめられてしまいがちな、その「戦局の悪化」って実際どういう状態だったの? というのを描いた作品。開戦時に首相だった東條英機を中心として、主に前線以外の部分から「悪化」を見せていきます。ジャーナリズム精神が問われる内容になっているのも、これまで観てきた他の戦争映画と違うところです。

映画は1936年の二・二六事件から始まります。首謀者たちが白い覆面をつけられ、十字架のようなものに架けられ、「天皇陛下、万歳!」と叫んだのち淡々と射殺されていく。なんだかKKKを連想するような光景で、これが日本か??と大変ショッキングな幕開けです。ひときわ不穏に作られた劇伴がさらにその印象を強めます。

首相の東條英機は、はじめこそ山本五十六(本作でも三船敏郎が演じています。ただし出番はほんの少し)を思わせるような慎重な態度で戦況を見つめていますが、真珠湾攻撃の成功を境にたがが外れ、本来の好戦的な性格が前面に。あれよあれよと泥沼にはまっていきます。民間人を巻き込んだ凄惨なサイパン戦などがクローズアップされることで泥沼感はより浮き彫りにされ、極め付けのラストは衝撃的すぎて思わず声が出ました。

なお東條英機ひとりを批判しているわけではなく、様々な要因が絡み合って太平洋戦争はあんなことになってしまったのですよ、という映画です。大林宣彦監督の『花筐/HANAGATAMI(2017)』に「きっとああいう賢い人が戦争を始めるんだろうなあ」みたいな台詞があるのですが、山本五十六や開戦時の東條英機などを見ていると少なからずそうなんだろうなあと感じます。

激動の昭和史 沖縄決戦(1971/岡本喜八監督)」

激動の昭和史 沖縄決戦

激動の昭和史 沖縄決戦

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
これは『日本のいちばん長い日(1967)』と同じく、『シン・ゴジラ(2016)』が公開された頃から観てみたいなと思っていた作品でした。庵野秀明監督がいちばん好きな映画らしいですよ。

本作で描かれているのは太平洋戦争末期の沖縄戦琉球音階の使われた劇伴とともに“沖縄っぽいのどかな雰囲気”で始まりながら、後半の米軍上陸以降はただひたすら悲惨・凄惨なことになっていきます。正直あんまり具体的な感想が出てこないというか、言葉もない、という感じでした。春日太一さんの著書『日本の戦争映画』によれば岡本喜八監督はこの映画について「最低限、戦争はいやだなという感じが伝えられればそれでいいと思っている(p226)と述べていたようですが、その意味では間違いありません。非常に疲れる映画でした。

内容とは対照的に、映画製作の内幕はなかなか面白そうだったりします。『日本の戦争映画』によれば当時の東宝は経営的に厳しく、日米合わせて15人しかいないエキストラで沖縄決戦を描かなければならないなど大変な制約があったそう。そのため様々な工夫が凝らされていて、たとえば「海の色が見えない!」という台詞で視界いっぱいの米艦隊を表現したり、双眼鏡を覗きながら「あの煙の下で一体何が起きているのか」と呟くことで激戦を想像させたり。塚本晋也監督の『野火(2015)』でも煌々と輝く3つの光源だけで敵機襲来を表現しているようなシーンがありましたが、舞台演劇的とも言える「想像力に委ねた演出」というのはとても好きです。

また大林監督の話になってしまいますが、本作でタイトルが出る瞬間、ラムネのような瓶がカランと転がってきます。大林監督の『海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)』では中国戦線のくだり(岡本作品へのパロディが多いと思われる)で何度もラムネの瓶が転がってくるんですけど、もしかして元ネタこれなのかなって。近いうち『独立愚連隊(1959)』あたりも観て、さらに確認してみようと思います。

(2020年134・135本目/WOWOW