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映画「日本のいちばん長い日」「連合艦隊司令長官 山本五十六」雑感|東宝8.15シリーズを観る①

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春日太一さんの新著『日本の戦争映画』を読んでいて、「東宝8.15シリーズ」と呼ばれる作品群があることを知りました。その第一弾となったのが1967年の岡本喜八監督作品『日本のいちばん長い日』。2016年に『シン・ゴジラ』が大ヒットした際、岡本喜八監督の名とともに最重要オマージュ元として挙げられていた作品で、わたしもその時に鑑賞、強く印象に残っています。

日本のいちばん長い日(1967/岡本喜八監督)

日本のいちばん長い日

日本のいちばん長い日

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video

この作品で扱われるのは、1945年8月14日の正午から翌15日の正午までの「24時間」。昭和天皇が国民にラジオを通じ太平洋戦争の終わりを告げた「玉音放送」の内幕を描いた作品です。14日正午、混沌の閣議を経てポツダム宣言受諾が決定。放送に向けて天皇のお言葉を録音したものの、終戦したくない陸軍士官たちのクーデターでそのレコードが奪われそうになる! 翌日正午の放送までどうにか「玉音盤」を死守せよ! という、結構エンタメ性の高い内容になっています。

この映画、おすすめポイントはやはり玉音放送の背景を知れる」ことだと思います。映画やドラマでは「玉音放送のシーン」が終戦をあらわすものとして頻繁に登場しますよね。その多くはワンカットのみの挿入で過ぎていきますが、本作を観ておくとそのワンカットだけで、背景にどれだけのことがあったのか瞬時に呼び起こせるようになるのです。ちょっとしたプラグインのようなものと考えてもいいかもしれません。このプラグインは入れておいたほうがいいです。

日本の戦争映画 (文春新書)

日本の戦争映画 (文春新書)

春日太一さんの『日本の戦争映画』には岡本喜八監督をピックアップした章があり、本作しか観たことのなかったわたしは、監督が喜劇的作風を持つ「フマジメ」な映画作家であるという記述を読んで驚きました。4年前の記憶では「硬派」な印象しかなかったからです。しかし今回久しぶりに鑑賞してみて、後半こそシリアスになっていくものの、なるほど確かに前半はコメディ要素も強かったのだなと気付きました。

前半は首相官邸宮内庁などが舞台となる「会議室もの」。まさに『シン・ゴジラ』の原型と言えます。緊迫した状況でありながらクスッと笑えるニュアンスは、『シン・ゴジラ』的に言えば「えっ、蒲田に?」を思わせるものです。8月14日の正午から始まり、時計が一周して8月15日の0時。閣議が一段落し、抜け殻のようになった官僚たちをバックにわざとらしく「長い一日だった」とナレーションが流れます。ですが観客は知っています、まだ終わりじゃないはず、と。するとすかさず声が続きます、「まだ半分だよ〜〜ん(意訳)」と。ここで映画は見事、折り返すわけです。面白い。うまい。

冒頭もまた秀逸で、太平洋戦争開戦から末期までをものすごい勢いで見せて食い付かせ、天皇が決断を下される──というところで満を持したナレーション「かくして日本には、そのいちばん長い日がやってきた」、続けて正午を指した時計とタイトルが大写し。アバンタイトルだったのか!!と我に返るのであります(開始からタイトルまでじつに20分。そりゃ驚きもします)。ここでうわー!と興奮してふと思い出しました、4年前にもここで声出たわ。

そんなわけで非常に没入しやすく、160分弱の大作ですがそれほどの長さは感じさせない作りになっていますので、この時期に何か戦争映画を一本、という向きには非常におすすめできる作品です。三船敏郎をはじめとした超オールスターキャストも見どころです。そして三船敏郎は8.15シリーズの第二弾連合艦隊司令長官 山本五十六にも主演しています。

連合艦隊司令長官 山本五十六(1968/丸山誠治監督)

連合艦隊司令長官 山本五十六 

連合艦隊司令長官 山本五十六 

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
じつは今回、こちらを先に観ました。この8月はWOWOW東宝8/15シリーズを連日放送してくれており、せっかくなので何本か録画したうちのひとつです。本作で三船敏郎が演じるのは、主役の山本五十六連合艦隊司令長官として真珠湾攻撃を指揮した、事実上「戦争を始めた」ことから国内でも世界的にも複雑な立ち位置にある彼ですが、そんな山本五十六人間性にスポットを当てたドラマ作品となっています。

『日本のいちばん長い日』では陸軍のトップを演じていた三船敏郎、続く本作は海軍のトップ。太平洋戦争の知識が全くなかったわたしでも、ここ最近いくつか関連作を観ていくなかで「陸軍は感情的、海軍は理性的」というイメージが植えつけられてしまっているため、対照的な役柄を続けて観るとやや混乱します(笑) まあどちらにせよ三船敏郎の持つ「理想の上司」感は拭えないので、最終的には同じような印象になるのですが。

山本五十六に関してはもうちょっと多角的に見てみたいなという気持ちがあって、あからさまに「美談」な本作を基準にしてしまうのは戦争初心者として尚早かなと思っています。三船敏郎山本五十六なんて、どうやっても好きになってしまうわけで。よって本作の感想は三船敏郎山本五十六が理想の上司すぎて惚れるしかない」です。男を惚れさすミフネを見たい向きには超おすすめの一本と言えます。

(2020年127・130本目/WOWOW・PrimeVideo)

このあとは『激動の昭和史 軍閥』『激動の昭和史 沖縄決戦』を観る予定です(WOWOWにて15〜16日に放送されます)。