映画「独立愚連隊(1959)」雑感|岡本喜八監督の描く戦争コメディ
岡本喜八監督の初期作品『独立愚連隊』を観ました。岡本喜八監督というと『日本のいちばん長い日(1967)』のようなどっしりとした作品を主に作られる方なのかなと思っていたのですがじつは反戦思想のなかにも喜劇性を強く持つ作家だったようで、キャリア初期の本作は西部劇テイストなども盛り込んだコメディタッチの作品となっています。
物語の舞台は第二次世界大戦下の中国戦線。従軍記者を名乗る主人公の男は、危ないからやめておけと言われながらも「独立愚連隊」という最前線の部隊を目指して進んでいきます。ニカッとシパッと人懐こい流れ者、何やら気ままに特ダネ探しをしているようにしか見えないのだがじつは、というお話です。
これ、キービジュアルはこんな感じでめちゃめちゃド派手なアクション映画っぽいんですけど、実際はそこまで派手な映画ではありません。むしろまさかのミステリー展開に驚かされます。
主人公の男が序盤からやたらと興味を示している「心中事件」。しかしそれはじつのところ「殺人事件」であり、そしてその被害者は主人公の弟。彼は物好きなゴシップ記者を装いながら真相を追求し、仇討ちの機会を狙っていたのです。
本作の魅力はなんといっても主人公を演じる佐藤允(さとうまこと)さんの魅力! 佐藤允さんは先日『太平洋の翼(1963)』を観たときからすっかりお気に入りだったのですが、今回ますますファンになりました。まるでシナトラのようなニカッとした笑顔と、笑顔のなかに潜むシリアスな表情。西部劇さながらの早撃ち対決で仇討ちなぞ決められた日にゃ、ぞっこん惚れざるを得ません。とにかくかっこいい! 素敵!
舞台である日中戦争のことをよく知らないまま楽しんでしまっているなあという若干の後ろめたさがあったのでそこは後々学んでいくとして、なるほど確かに岡本喜八監督はコメディ作家だった、と納得できる作品でした。
(2020年136本目/PrimeVideo)
プライム会員特典です。ここ最近の記事では毎回のように紹介している春日太一さんの新著『日本の戦争映画』。こちらの第二部は「岡本喜八の戦争映画」と題してまさに岡本喜八監督へスポットを当てた内容となっており、監督が戦中派でありながら戦争を喜劇的に描いてきた理由など、たいへん興味深く読めます。
追記:「独立愚連隊西へ(1960)」
シリーズ作『独立愚連隊西へ』も後から観ました。佐藤允さんを主人公に据えているだけで直接的な繋がりはなく、いわゆる精神的続編というやつになるかと思います。何気に加山雄三さんの初主演作だったり、平田昭彦さん、中丸忠雄さんなどキャストも豪華で楽しいですが、アクション中心の動的な映画なのが個人的にはあまりハマらず。前作はなんだかんだ静的な物語で、多分そこが好きだったのかなと。とはいえ、八路軍との仁義ある粋な闘い(非常にほっこり)とか、のちの『沖縄決戦』を連想させるような「子供」の登場とか(監督、あれくらいの子を出すの好きなんでしょうか)、そしてもちろん相変わらずの茶化しっぷりとか、見どころは多々ありました。もう一本“精神的続編”があるのですけど、配信がないので中途半端にとりあえずここまで。
(2020年141本目/PrimeVideo)