韓国映画『チスル』を観ました。「済州島四・三事件」という負の歴史を描いた作品で、この事件は第二次世界大戦終結後の分断された朝鮮半島において1948年4月から長期にわたり続いた「アカ狩り(と称した無差別な大量虐殺)」のことを指します。
済州島は南朝鮮の島ですが、虐殺は「済州島を共産主義者の島とみなした」南朝鮮(韓国)側の軍や警察によって実行されました。そのため韓国においては長年タブー視されてきた事件なのだそうです。
本作を知ったのはユリイカの「韓国映画の最前線」特集号内「韓国映画作品ガイド(p251〜)」でした。韓国映画を観ていると「済州島」の三文字で全てを語るような場面に度々出会います。が、その省略されている内容を全然知らないのでは意味がない。ガイドによれば「『済州島四・三事件』という負の歴史に真正面から向き合った数少ない作品」とのことだったのでぜひ観たいと思っていました。
本作、意外なことに印象としてはアート映画です。白黒なんですけども、極端なまでに美しい白黒といいますか、階調豊かなグレースケール。アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ(2018)』あたりが近いかもしれません。映像だけでなく全体の雰囲気としてもヨーロッパ映画的な静かさがあり、まあ言ってしまえば「眠い」系の映画ではあります。
真正面に描くとはいえ映像まで真正面に作ったらあまりに凄惨だからアート寄りにしたのでしょうか、そんなうっとりする映像美のなかに時々ギョッとしてしまうような状況が映り込んでいるのも特徴的です。まずは冒頭のくだりから二度見してしまうこと必至ですし、その後もうつらうつらしているところに「えっ?!」みたいなことが幾度も。
また、洞窟に隠れた島民たちを兵士が追い詰めていくシーンなどは、岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦(1971)』で描かれた太平洋戦争末期の沖縄戦を連想させるものでした。済州島の場合は同じ民族同士の争いなのでもっと無残ですが。沖縄にしろ済州島にしろ、ハワイやグアムやサイパン等々にしろ、今はリゾート地としてしか知られていないようなところには決まって負の歴史がありますね。知っていかないといけませんね。
(2020年215本目/TSUTAYA DISCAS)
ちなみに「チスル」とは「じゃがいも」を意味する方言。劇中でも印象的にじゃがいもが登場しますが、なんか……「アトロク」の山本匠晃アナウンサーが好きそうな映画だなと思いました。わかる人だけわかってください(笑)