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主に映画の感想文を書いています

映画「ブリッジ・オブ・スパイ(2015)」東西ベルリンにおける主人公らの動きを整理/ついでに「プロジェクト・ブルーブック」の話

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トム・ハンクス主演、スティーヴン・スピルバーグ監督のブリッジ・オブ・スパイを観ました。東西冷戦下のアメリカとソ連の間で実際におこなわれた捕虜スパイの交換を描いたノンフィクション作品です。

最近は池上彰さんの著書「そうだったのか!」シリーズで現代史の勉強をしたりしているのですが(圧倒的に知らないので……)、映画を楽しむ上でマストになってくる知識の代表格「東西冷戦」のところをしっかり理解したいなという経緯で本作を観てみることにしました。そして案の定、頭がこんがらがって復習に数日間かかっております。舞台がベルリンに移る後半からは3回くらい観ました。

この記事では感想はさておいて、ベルリン編でトム・ハンクスがどんな動きをしているのか?みたいなところを自分用メモも兼ねて書き出してみました。他にも余計な情報もりもりでお送りします。

あらすじ

冷戦が激化する1957年、ニューヨークで諜報活動をしていたソ連のスパイが捕まる。名をアベルマーク・ライランスという彼は連邦裁判にかけられるが、公平性を演出するためアメリカ人の弁護士ドノヴァントム・ハンクスが彼を担当することになる。この裁判は形式的なものでアベルの有罪は決まっている、と暗黙の了解を告げられるも、自国の敵を弁護するというハイリスクな役割をしかし公正に行おうと決意するドノヴァンであった。

物語後半。今度はソ連においてアメリカ側の偵察機パイロットが捕まってしまう。ドノヴァンの尽力によりアダムは死刑を免れていたため、パイロットとアダムを交換できないだろうかという案が出る。その交渉人として指名されたのはまたもドノヴァンだった。冷戦中のため、政府同士の交渉はできない。ドノヴァンはあくまで民間人として、「壁」が建設されて間もないベルリンへ送り込まれる。

雑感

シンドラーのリスト(1993)』や『ペンタゴン・ペーパーズ(2017)』のような質感を持った、社会派サイドのスピルバーグ作品。じつに品質がいいなあ、という感じがします。

ドノヴァンを演じるトム・ハンクスは、こういうノンフィクション系主人公が妙にしっくりくるんですよね。ソ連の諜報員アダムを演じるマーク・ライランスも、感情表現は最低限ながら愛せるキャラクターをしっかり作り上げているのが見事です。印象に残ったシーンとしては、ドノヴァンの言う「私たちがアメリカ人でいられる理由」のくだり、またアダムの言う(あえて字幕をつけない2回目の)「ストイキー・ムジック」が、どちらも感動的でございました。

さて、本作の後半では、舞台をアメリカからドイツのベルリンへと移します。当時のドイツは第二次世界大戦後の分割統治で東西に分かれ(東がソ連、西が米英仏)、東ドイツのエリアにあった首都ベルリンだけが、さらにその内部で東西に分けられていました(東西ベルリンは東ドイツの中にぽつんと浮いている!というのが大事なポイントです)。そしてその東西ベルリンの境にこの時期建てられたのが、かの有名な「ベルリンの壁」です。……といったあたりの超初歩的な部分からまず学ばねばならなかったわたしです。

ドイツへ飛んでからの主人公ドノヴァンは交渉のため東西を頻繁に行き来するのですが、ぼーっと観ているとその動きが分かりづらかったので自分用メモも兼ねてドノヴァンと周辺の動きを整理してみました。

ベルリンにおけるドノヴァンら一行の動き

西ベルリン側(ざっくりアメリカ側)を緑東ベルリン&東ドイツ側(ざっくりソ連側)を赤で色付けしています。

  • 1日目
  • 2日目
    • 西ベルリンから電車で東ベルリンへ移動する
    • 途中、壁を越える
    • 東ベルリンのフリードリヒ通り駅で下車し、検問へ
    • この時はパスポートの通行証が効いている
    • 東ベルリンのソ連大使館へ行き、KGBのシスキンと交渉する
    • 大使館外で、東ドイツ政府側のヴォーゲルと交渉する
    • 大使館内のソ連側と大使館外の東ドイツ側とで、意見の相違がみられる。東ドイツは独立国家として認められたかったので、ソ連と同等の立場で別途アメリカと交渉を成立させることを望んだ。アメリカは東ドイツのことを「ソ連側」として認識していたため、これにより話が厄介になる。
    • 西ベルリンへ戻り、ボロ宿でCIAと打ち合わせ
  • 3日目
    • また東ベルリンへ移動し、前日と同様のハシゴをする
    • 決裂しつつも、西側に用のあったヴォーゲルに壁まで送ってもらう
    • なぜか通行証が無効、東側の留置所で一晩収監される
    • なぜ無効だったのか、なぜすぐ解放されたのか、正確に理解していない。東から西へはチェックが厳しくなるからだとしても、初日は普通に帰れてるし。常に想定外の事態が起こる環境である、というだけ?
  • 4日目
    • おそらく早朝、留置所を出て電車で西へ戻る
    • 途中、壁で射殺される人々を目撃する
    • 西ベルリンのヒルトンで勝手に朝食をとる
    • 東ドイツの司法長官から電話が来ていたらしいと知る
    • 東ベルリンへとんぼ帰りして司法長官と会う
    • 長官が離席したため、秘書に伝言を伝える
    • また西へ戻り、CIAらと電話を待つ
    • 約束の5時(多分17時)前に電話が鳴る
  • 5日目
    • 前日あたりにアメリカからアダムが西ベルリンへ到着
    • 早朝、ドノヴァンとアダムらはグリーニッケ橋の西ベルリン側で待機
    • ホフマン以外のCIAはチェックポイント・チャーリーの西ベルリン側で待機
    • チェックポイント・チャーリーは、壁の切れ目に作られた検問
    • 橋の向こうの東ドイツ側にパワーズを目視
    • チェックポイント・チャーリーの東ベルリン側にプライヤーを目視したとの電話確認
    • パワーズとプライヤーは西ベルリン側へ送られる
    • アダムを橋で東ドイツ側へ送る
    • パワーズを連れて西ベルリンのテンペルホーフ空港からアメリカへ帰る
    • ミッションコンプリート

推測の部分も少々あるので間違ってるかもしれません! でも多分こんな感じの動きです。ちなみに、グリーニッケ橋とチェックポイント・チャーリーの位置関係がピンとこない方向けに地図をひとつ貼っておきます。

左側の星印がグリーニッケ橋、右側の星印がチェックポイント・チャーリーです(残りは空港と駅)。グリーニッケ橋は西ベルリンと東ドイツ(東ベルリンではない)の境目にあり、チェックポイント・チャーリーは西ベルリンと東ベルリンの境目です。GoogleMapの定規機能によればこの二点は23kmくらい離れているようです。

地図も世界史も苦手〜〜〜〜!!!というわたしのような方のお役に立てれば幸いでございます。

ディスティニー・オブ・トライボロー

終わりと見せかけて、ネタはまだあるのです。この映画、じつは個人的にかなりミラクルで運命的な「掴み」がありました。つい先日書いたばかりの『マザーレス・ブルックリン』の記事が文脈となります。

サムネイル画像からも見えると思いますが、大都市ニューヨークのマスタービルダーことロバート・モーゼスという人の代表作に「トライボロー橋」がありまして、ブルックリン橋やマンハッタン橋などと比べると知名度は落ちるし映画で印象的に使われるような橋でもない、しかし今のわたし的にはかなりホットな橋となっていたわけです。

話は『ブリッジ・オブ・スパイ』に戻りまして、映画冒頭、まだ数分しか経っていないころ。ん???

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走る車から撮られた、流れまくりの光景。でも川沿いに橋の絵を描いている人、というシチュエーションであることは分かります。そしてこれはあまり見慣れない光景。舞台設定的にニューヨークなのは確定しているとして、ブルックリン橋やマンハッタン橋ではない。これはもしや???

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トライボローやんけ!!!

やー、トライボローやんけ。お前、またなんで、そんな。やはり「観る順番」の運命ってあるんですよつくづく、はい。

初登場時のアングルはこのへんですね。2枚目のはもしかしたら合成かも。なお史実的にも映画の設定的にも、絵を描いている人=ソ連の諜報員アダムは所謂ブルックリンのあたり、もしくはロウワーマンハッタンあたりにいることになってるので、全く辻褄の合わないクイーンズのほうに行かせたのはなんでやねんと不思議だったのですが、ふと、気付きました。

トライボロー橋は、「トライ」と付くその名の通り、3つの区を繋ぐ橋です。んでもって本作は、3人の捕虜をそれぞれ解放するお話です。さらには、アメリカ、ソ連、(独立国家になりたがっている)東ドイツ、という3つの国のお話でもあります。結構、そういう含み、あるんじゃないでしょうか。わりかし当たってるんじゃないでしょうか。

プロジェクト・ブルーブック

長くなったついでに、書くタイミングを逃していた海外ドラマ『プロジェクト・ブルーブック』の話を。1952年から1969年にかけてアメリカ政府と空軍で極秘裏に行われていた実在のUFO調査プロジェクトを題材にしたSFドラマで、ロバート・ゼメキスが総指揮、主演は『ゲーム・オブ・スローンズ』のリトルフィンガーことエイダン・ギレンです。日本ではU-NEXTでシーズン1が配信されています。

とにかく時代設定がどんぴしゃ同じなんですね。『ブリッジ〜』のほうで、ドノヴァンの幼い息子が学校で核実験のビデオを見せられて超ビビる、なんてシーンがありましたが、あれはおそらく1955年にネバダの核実験場で行われた実験の映像で、『プロジェクト・ブルーブック』にも登場しました(マネキンが配置されたモックアップの街、怖かった)。エイダン・ギレン演じる民間人の天文学者が、国の超機密事項と密接に関わることになってしまう展開も、『ブリッジ〜』に通じるところがあります。

無類のリトルフィンガー好きとして気になっていた作品だったのでU-NEXT契約のタイミングでシーズン1を観たのですが、シーズン1時点では思ったほどハマれなかったなという感想でした。1950〜60年代なんて大好きな時代だし、『未知との遭遇(1977)』とか大好きなんですけどね。どハマりすると思っていただけに意外でした。

お勉強本ほか

そうだったのか! 現代史 (集英社文庫)

そうだったのか! 現代史 (集英社文庫)

  • 作者:池上 彰
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: 文庫
そうだったのか! アメリカ」から読み始めて、非常にわかりやすかったので他のシリーズ(現代史/現代史パート2/日本現代史)も買い揃えました。まだ現代史の途中までしか読んでませんが、現代史を避けまくってきた弱い脳味噌にはこれでも結構難しいです(笑) がんばります。東西冷戦についての解説はこの「現代史」に収録されています。

本で解説されているのとほぼ同じ内容を講義のかたちで解説している、テレビ番組の動画。内容は同じでも、こちらのほうが分かりやすく感じました。いつしか眠気も吹っ飛ぶ池上さんの講義、さすがです! 今こんな授業受けてみたいなあと思う、高卒のわたしなのでした。

わたしは音声で聴きましたが(YouTubeにあります)、町山さんの解説がとてもよかったです。手っ取り早く解説聴きたいならこれ一本でばっちりだと思います。町山さんのトークって荒削りなイメージもあるので、脱線せずこんな超的確にまとまってるのちょっと珍しい!とか思いながら聴いてました(失礼)。

(2020年76本目/U-NEXT)

ブリッジ・オブ・スパイ (字幕版)

ブリッジ・オブ・スパイ (字幕版)

  • 発売日: 2016/04/06
  • メディア: Prime Video
Blu-rayが安い。映画の感想をほとんど書きませんでしたが、やや地味ながら、普通にいい映画でございます。スピルバーグだもの。