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主に映画の感想文を書いています

東日本大震災を題材にした高校演劇「もしイタ」「Final Fantasy for XI.III.MMXI」を配信で観た

TBSラジオアフター6ジャンクションアトロク)」の「震災と高校演劇」特集で紹介されていた演劇作品を2本観ました。どちらも無料の動画配信にて60分ほどで観れる素晴らしい作品でしたので、明るくないジャンルですがご紹介しておきます。

  1. Final Fantasy for XI.III.MMXI
  2. もしイタ ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら

特集はこちらで聴けます。


Final Fantasy for XI.III.MMXI」

タイトル後半のローマ数字は「11.3.2011」。震災と原発事故による文化祭の中止を阻止したい高校生たちが「ふっかつのじゅもん」を探すため立ち入り禁止の校舎へ入っていく、という筋書きです。

菅、枝野、清水、サルコジ、ホアンホアン院、デンコ、ゲンシーロ等々、登場するキャラクター名はメタファーどころかあまりにもダイレクト。しかしこの戯曲を作ったのは原発からほど近い福島県立いわき総合高等学校の演劇部で、初演はなんと2011年7月。当事者中の当事者によるリアルタイムもリアルタイムな風刺劇に誰が文句を言えましょう。

アトロクでの澤田大樹記者&工藤千夏さんの言葉を引用するならば「シュプレヒコールにしないとやっていられないことを、なんとか表現に抑えている」「ゲームに置き換えることによって、かろうじて表現に踏みとどまっている」そんな作品とのことでした。

劇中では本筋に並行して震災で親友を亡くした少女の物語も描かれます。冒頭かなりの長尺で続く彼女の一人芝居には胸を打たれました。誰もが心の底から『ふっかつのじゅもん』を手に入れたい状況下で作られ演じられたこの作品、いわき総合高校演劇部による初演は一体どんな空気感だったのか、観たい気持ちもあり、観るのが怖いような気持ちもあり。

というのも、今回配信されているリーディング動画(動きをつけない読み合わせ)は2021年に香川県観音寺第一高校の演劇部が演じたものなんです。出演している部員たちは東日本から縁遠いだけでなく、震災の記憶もほとんどない世代。しかし観ているうちに「当事者」に見えてくる不思議。きっと演じている側もそうだったのではないかと思います。

序盤はしばらくコミカルで幼いやりとりが続くこともあり肩透かし感もありましたが、結果的にはかなり泣かされてしまいました。約60分と短いのでご興味のある方はぜひどうぞ。無料で視聴できます。2021年4月11日までの配信だそうです。 そうそうちなみに、香川県観音寺第一高校ってなんか見覚えある名前だなと思っていたら、大林宣彦監督作品『青春デンデケデケデケ(1992)』の舞台になった学校でしたよ!

「もしイタ ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら」

「もしイタ」2018年のフライヤータイトルは「もしドラ」のパロディ。懐かしいですね。なおイタコとは霊媒師的なやつですね。

この作品も初演は2011年で、青森県立青森中央高校演劇部の十八番として2021年現在じつに100回以上の公演実績がある(!!)というモンスター演目です。

とりあえず最初に書いておきたい。めっっっちゃくちゃよかった。なるほどロングランも超納得の大名作。高校演劇にここまでの世界があろうとは。カルチャーショックでした。

もともと本作は東日本大震災の被災地で慰問上演するために作られた演目なのだそうですが、当時は自粛ムードも蔓延していましたし何より無駄なエネルギーを使うことははばかられました。そこで生まれたのがずばり「電気を使わない完全マンパワー演劇」というコンセプト!

震災高校演劇アーカイブの配信ページから作演出・畑澤聖悟さんの解説を引用します。

「もしイタ」の舞台には一切の舞台装置や置き道具がなく、役者は一切の小道具を用いず、照明・音響効果も使わない。体育館や集会所など、ある程度の広さのある場所ならば照明設備や音響設備、ステージや暗幕がなくても上演できる。全員が劇中歌を歌い、全員がBGMを口三味線でハミングし、効果音さえも肉声で発する。全てが役者の身体と肉声のみで表現される。躍動する高校生の姿を見せることによって、元気を届けたいと考えたのである。(畑澤聖悟)

かっこいい!! 超かっこいい!!

でもですよ。それとは引き換えにある程度ミニマムな、チープなところも魅力とするような作品なのかなと逆にちょっとハードル下げていたんですよね。ところがどっこいプロにも引けを取らない、とてつもない完成度。たまげました。

百聞は一見にしかずという感じで、観れば一発でそのすごさを理解できると思うので具体的な言語化は省いてしまいますが、とにかく笑いも涙も全力で、舞台上からほとばしるエネルギーが尋常じゃない。配信でこれなんだから生で見たらどれほど元気付けられデトックスできるのだろうと思います。個人的にはラストのとある展開に「そういう…ことかっ…(嗚咽)」って涙ぶわっでした。

こちらも約60分(とは到底思えない密度の演劇体験必至!)。同じく4/11までの配信予定となっております。ぜひ、ぜひご覧ください。

その他の配信作品はこちらから。