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ポン・ジュノ監督作品「母なる証明(2009)」雑感

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途中になっていたポン・ジュノ履修を再開しようということで、前回のオムニバス『TOKYO!(2008)』に引き続いてこちらは有名タイトルの母なる証明を観ました。息子があらぬ殺人容疑をかけられてしまった母親の物語。

パラサイト 半地下の家族(2019)』以前のポン・ジュノ監督の代表作というとまず『殺人の追憶(2003)』、そして本作!みたいなイメージがありますが、母子ものはあんま興味ないからな〜と後回しにしており、ようやくの鑑賞です。

なお、物語の核心に触れるネタバレを含みます(大前提として、ネタバレを知っている状態で観たため)。





ネタバレ雑感

上に述べたとおりで本作、そのかなり重要なネタバレを知った状態で観ました。というのも、なんならポン・ジュノ監督が『パラサイト』時のインタビュー等でさらりと言ってしまったりしているんですね。まあずばり「息子、犯人だったんだけどね」っていうことです。冤罪だと思ってたのに冤罪じゃなかった。テッド・バンディ案件です。

果たしてそのどんでん返しを知ってしまった上で楽しめるのか。不安を感じながらの鑑賞となりましたが、結論としては楽しめました。むしろネタバレはそんなに問題じゃなくて、それ以前にだいぶ変な映画でした。

冒頭、美しい草原を向こう側から歩いてくる「母親」。立ち止まったかと思うと、やおら妙ちきりんなダンスを踊り出します。なにこれ。監督によれば、この冒頭シーンは観客への宣戦布告なのだとか。「変な映画、始まるよ」。ある意味親切なアナウンス。まさか、あそこへ繋がるとは。

場面が切り替わると、今度は屋内でシャクッ、シャクッ、とやたらいい音をさせながら薬草か何かを裁断機で切っている同じ母親の姿。しかしその目は手元ではなく10数メートル先の息子トジュンを心配そうに見つめていて、不注意な手元は案の定……。自分のことよりも息子のことが大事だ、心配だ、というこの母親の基本スタンスが示されます。

10数メートル先の息子はというと、当て逃げしてきたベンツを悪友と追跡。腹いせに悪友が高級ドアミラーを蹴り飛ばし警察沙汰になりますが、なんと悪友さん、トジュンにその罪をなすりつけ。おまけにトジュンは、やってないのにやった気がしてきました。ここでは彼が知的障害を持っているらしいことが分かります。

そんな軽犯罪のプロローグを経て、重犯罪の本編へ。ある朝、街全体を見渡せる屋上の欄干から頭を垂れた女子高生の死体が発見されます。というか誰にでも見えます。貞子のように長い黒髪を垂らして上半身だらーんと欄干にもたれかかる、ほぼ外傷なしの死体。この死体の在り方が、なんとも怖い! いきなりくるから怖い!

で、前の晩に彼女を尾けていたことが目撃されているトジュンは容疑者としてしょっぴかれてしまいます。よりによってなにしてんのよ! あの子が殺しなんてするわけないけど、でもどうやって証明したらいいの……。ここから母の決死な日々が始まります。

肝っ玉母ちゃんが捜査まがいのことをしていくこのくだり、すごく面白いかというと全体的にわりと地味なのですが(ただ必ずしもシリアスではなくて、むしろコメディタッチが強い。「変な映画」たらしめている要素のひとつ)、かと思えば時には眠気も覚める予想外の展開をしていったり、最終的には『パラサイト』でも見られたような「グレーゾーンの犯罪から決定的な犯罪へ」のようなことがあったりと目が離せません。

そんな母親の尽力の先にあるのが、前述のネタバレ。あんなに庇おうとしていた我が子が、まさか本当に犯人だなんて。さて、このネタバレはどれくらい重要か。多分そんなに重要ではないです。「犯人だった」とされる証言も信憑性の高いものではないように思うし、なんたって警察もトジュンを釈放。今は無事ステイホームしちゃってる。

でも怖いのは、ここまで多くを調べ、トジュンとも向き合ってきた母親だからこそ、今だからこそ疑いの余地が見当たらない「この子がやったんだわ」という確信の気持ち。そして「この子はともかく自分は確実に人を殺しちゃった」という事実。さらにはそれを数年越し、数十年越しに気付いてしまうかもしれない不発弾トジュンの存在。

……とりあえず今は、忘れておこう。何度も人に勧めてきた「嫌な記憶を消すツボ」に自ら鍼を打ち、観光バスの踊りに加わるのでした。(※韓国では観光バスの車内で踊る習慣があるそうで、あれはごく一般的な車内レクの描写だったようです。欧米の文化よりも馴染みが薄い韓国の文化)

母であることの証明。それは我が子を案じ、信じ、護り、ときに黙認すること。正真正銘、母の生き様を見よ。そんな作品という解釈でいいでしょうか。

(2020年66本目/U-NEXT)

母なる証明(字幕版)

母なる証明(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
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