年間ランキング記事も書いた後ですが駆け込みで観てきました。2019年155本目、劇場鑑賞は57本目、新作では44本目。これで映画納めの予定です。
概要
30人以上の女性を惨殺したと言われる殺人鬼テッド・バンディ(ザック・エフロン)の末路を、長年の恋人であったリズ(リリー・コリンズ)の目線から描いていく。
原題は『Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile』、訳すと『極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣』。死刑宣告の判決文に含まれていた、彼を形容する文言である。
このテッド・バンディは「やってない」
テッド・バンディ。猟奇殺人系の作品で必ずと言っていいほど登場する名前です。「シリアルキラー」という言葉が生まれるきっかけになった人物と言われており、Netflixドラマ『マインドハンター』ではその言葉を生んだFBI行動科学課のことが描かれています(紹介記事)。
猟奇殺人ものがどうにも好きなのでこれは絶対観ないと!と思っていたものの、公開規模も小さくなかなか観れずにいまして、でもなんとか観れてよかったです。そして映画納めにふさわしい、重厚な作品でした。
テッド・バンディは非常にルックスが良く、彼を追い詰める司法とは裏腹に、こんな好青年が猟奇殺人を犯すはずがないと一般市民(特に女性)に思わせる魅力があったといいます。そんなテッドを演じるのは、その条件を完璧に満たしたグッドルッキングガイ、ザック・エフロン。
この映画は、リズという女性がテッドに出会うところから始まります。後光が差すほどの好青年テッドが可愛らしいエプロンをつけて朝のキッチンに立つ姿には男女問わずとろけてしまいそうになることでしょう。とはいえ彼が凶悪犯であることをこちらは知っているわけですから、次第に本性が見えてくる展開だろうと当然思って観ているわけです。
しかし何かおかしい。確かにメディアは騒ぎ、彼は逮捕されたりするのですが、どうにも彼が犯罪者だとは思えない。刑務所をたらい回しにされ、裁判がテレビ中継され、過剰な報道が連日なされようとも、この世界線のテッド・バンディは「やってない」としか思えない。そういう映画なのではないか?
まあ結論から言うと、ネタバレでもなんでもなく史実として彼は「やっていた」のですが。映画的にそれがはっきりするのはせいぜいラスト5分。それまでは、死刑が宣告された後ですらも冤罪なのではないかと思わせるテッド・バンディの「人間性の無駄遣い」を見ることができます。ザック・エフロンすごい。
猟奇殺人犯を描いた映画ではありますが、この映画に出てくるテッド・バンディは人を殺しません。暴力すらふるいません。凄惨なシーンなど出てくるはずもなく、可能性を信じ続けてひたむきに闘う『ショーシャンクの空に』的主人公として魅力的に映り続けます。でもその実は、カメラのいないところで30人以上を殺しているのです。
“殺人者は長い牙を持ち、アゴから唾液を滴らせ、暗闇から現れたりしない。人々は自分たちの中に殺人者が潜んでいることに気づいていない。好きになり、愛し、一緒に暮らし、慕っている人物が、次の日には想像し得る限りの最も悪魔のような人間にならないとも限らない”
映画『テッド・バンディ』公式サイト | 大ヒット公開中!
過激な描写なしでここまでガツンとくる映画を作れるんだ、ここまで複雑な後味の悪さを出せるんだ、と深い溜息が出ました。「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」な本性を知った後でもなお、彼の魅力的な笑顔が頭から離れません。テッドに翻弄された当時の世間を追体験できる、凄い映画でした。
極めて可憐、衝撃的に美麗で云々
恋人リズを演じるリリー・コリンズさんがとにかく初登場時から最後まで魅力的。ザック・エフロンだけでも十分眼福なのにお相手までこうも美女では、視力回復上限なしです。
ただの「騙された女」ではなく彼女の目線で物語は進んでいくため、大きく揺れ動く感情も見どころ。今後が楽しみな女優さんの一人になりました。
(2019年155本目/劇場鑑賞)
マインドハンター──FBI連続殺人プロファイリング班 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者:ジョン ダグラス,マーク オルシェイカー
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/09/07
- メディア: 文庫