ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノの3名が東京をテーマに制作したオムニバス映画『TOKYO!』を観ました。ポン・ジュノ作品で助監督をつとめた片山慎三監督の『岬の兄妹(2018)』を先日観て、途中で止まっていたポン・ジュノ作品履修を再開しようと思ったところ、あれ、こんなのもあるんだ、と知っての鑑賞です。なお本作にも片山慎三さん参加されてます。
多分あんまりこういう映画、食指が動かない方多いと思うんですよね。「外国人監督が撮った日本」って、ほぼほぼ地雷じゃないですか。『アベンジャーズ/エンドゲーム(2019)』ですら“アレ”ですよ。
そんななか! これは逆に異色と言ってもいいぐらい、めちゃくちゃ出来がいいです。出演者が馴染みの日本人俳優ばかりということもあって、普通に日本人監督のちょっとエキセントリックな短編を観ている感覚で観れます。特有の「なぜかカタコト」はありません。内容も非常におもしろいです。だいぶおすすめでございます。では一本ずつ雑感を。
ミシェル・ゴンドリー監督作品『インテリア・デザイン』
自称映画監督の青年とその彼女が上京。彼女の友人宅に寝泊まりさせてもらいながらアパートとアルバイトを探して……みたいなまあほんとありふれた邦画の雰囲気で始まる作品なんですが、どっこい、ギョッとする強烈な展開が待っています。声出ちゃったもん、思わず。しかも『プラネット・テラー in グラインドハウス(2007)』を観た直後だったもんで(分かる人だけ分かってください)。
表現することこそが人として最も志の高いことだと信じて疑わない彼氏と、彼の言う「志」を持つ人を支えることにむしろ生きがいを感じる彼女の、観終わってみればとても寓話的な物語。本作でミシェル・ゴンドリー監督の作品だけはわたし未見でその作風も存じ上げないんですけど、MVを多く撮られてる方ということで、映画としてはかなり奇抜だけど確かにMVだったらああいう世界観わりとありそう、なんて思いました。また、是枝裕和監督がペ・ドゥナを主役に撮った『空気人形(2009)』あたり、ファンタジーの度合い的には近い雰囲気を持っているかもしれません。
出演は、加瀬亮(佇まいが坂口健太郎っぽい)、藤谷文子、伊藤歩(最近よく見る!)、妻夫木聡、大森南朋、ほか。大森さんがいいとこ持ってってます。
レオス・カラックス監督作品『メルド』
溶けてしまいそう(それはメルト)。『ポンヌフの恋人(1991)』しか観たことのないレオス・カラックス監督、どんな短編を撮るのかしら…?と思っていたらこれがとっても変わった、シュールなダークコメディでございました。
舞台は銀座のど真ん中。まさかの伊福部メロディに乗せて、マンホールから超絶不審者出現。「下水道の怪人」と呼ばれたその男は世間を大いに騒がせ、ついには裁判で死刑判決が下されます。…っていうだけの話なんですけど、とにかくナンセンス。3作品のなかではこれが一番トンチキで、勘違いジャパンもちょいちょい登場。でもハイセンスと言えなくもない絶妙さ。
無駄に四画面分割で描かれる法廷シーンからの、これまた無駄にリアリティラインが高い「3年後」の死刑執行シーンはまるで『ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000)』。しかしアッと驚くことが起き、次回「アメリカ編」乞うご期待。『ジュラシック・ワールド/炎の王国(2018)』みたいな後味やめれ。
下水道の怪人ことメルド(フランス語で「糞」)を演じるのは、『ポンヌフの恋人』などにも出演のドニ・ラヴァン。個人的にびっくりしたのは、TWEEDEESの清浦夏実さんが超端役出演してたこと。え、これ清浦さんじゃないの??と反射的にスクショしちゃった。
ポン・ジュノ監督作品『シェイキング東京』
今をときめくポン・ジュノ監督の作品が本作のトリ。そしてこれこそ、わたしが今回最も本作『TOKYO!』をプッシュしたい理由! ずばり、ポン・ジュノの撮る蒼井優めっちゃいい!! ということでございます。
登場人物は主に2名。家から10年間出てない引きこもりのプロ香川照之(「香川照之役」としてポン・ジュノは脚本を書いてきたらしい)が、ピザ配達の蒼井優に一目惚れしちゃって家から出る、っていうだけの物語なんですが、とにかくポン・ジュノのセンスが光りまくった素晴らしい作品でした。
まず映像が綺麗。冒頭で映る「トイレの壁面タイル」からしてもう既に美しい…。ポン・ジュノ…!って感じ。雰囲気としては『パラサイト 半地下の家族(2019)』の豪邸サイドに近い絵作りかなと思いましたが、こちらは決して豪邸ではない、しかし「完璧」なおうち。このへんの美術も見どころです。
で、なんといっても蒼井優です。ポン・ジュノ監督ありがとう。我が国の蒼井優をこんな美しく撮ってくれてありがとう。スクショ貼り始めたら4〜5枚は貼る勢いなんで、こちらはぜひ実際にご覧になってください。
さらには、今とてもタイムリーな「無人のスクランブル交差点」であるとか、寡黙そうに見えてかなり笑えてしまう香川照之のコメディ演出だとか、嵐のように去っていく某豪華ゲストとか、感情が「揺れる」たびにシンクしてしまう東京の断層だとか、見どころ沢山です。そういや『アースクエイクバード(2019)』も外国人監督が撮った「東京と地震」のお話でしたね。
飛行機に乗りたくなってしまう成田行き機内アナウンスから始まり、エンドロールでは駅構内エレベーターの音声がセンスよく使われたミニマルな音楽でクールダウン。この音楽担当、HASYMOというアーティストなんですが、……知らなかった! センスいいわけだ!
そんなわけで『TOKYO!』とってもおすすめです! 「外国人監督が描く東京」の最高峰だと思います。必見です。
(2020年65本目/U-NEXT)
これまでノーマークだったのが不思議なくらい意外とどこにでもあるようで、PrimeVideoにも課金レンタルで入ってます。