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主に映画の感想文を書いています

ポン・ジュノ監督作品「パラサイト 半地下の家族(2019)」雑感

ポン・ジュノ監督の最新作、そしてすっかり話題作。全国公開はもう今週末からですが、ここにきて待ちきれずTOHOシネマズ日比谷での先行公開を観てきました。ちょうどゴールデングローブ賞外国語映画賞も獲った日で、連休明けの平日日中でありながらなかなかの客入りでした。

少なくとも先行公開段階ではネタバレ禁止のアナウンスがかなり強調されていた本作ですが、直接的な言及こそ避けつつある程度のネタバレ要素は含めた感想記事にするつもりですので未見の方は自己責任でお願いします。

代わりに(?)あらすじは割愛。というのも今回はあらすじや予告編に出てくる程度の導入部分で結構わくわくしてしまったので、書かないほうがいいなと。代わりにポスター画像貼っておきます。このポスターを見て「好きかも」と思った方はきっと好きです。ぜひ劇場へ。

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いきなり後味の話

わたしが唯一観たことのあるポン・ジュノ作品『スノーピアサー(2013)』で描かれていたのと同じく、これも富裕層と貧困層の格差を題材にした話です。ちなみに『スノーピアサー』は地球が凍りついてしまった近未来を舞台に、永久機関を持った列車に富裕層から貧困層までが区画分けされて暮らしているというディストピアもの。

本作の中では、最低の暮らしと言わざるを得ない主人公一家の「半地下の」住居と、対照的に最高の住まいとしか言いようのないもう一家庭の邸宅が登場します。主人公一家の生活ぶりを見て是枝監督の『万引き家族(2018)』を連想する方は多いでしょう。実際『万引き家族』の翌年にパルムドールを受賞したのが本作ということで、カンヌではこういう外国映画のウケがいいんですかね。

で、まあ、『万引き家族』なのかなと思って観ていると今度はジョーダン・ピール監督の『アス(2019)』みたいになってくるわけです。そして最終的に感情の辿り着いたところはなんと、泣く子も黙る『ジョーカー(2019)』なのでした。まじか、これジョーカーだったのか。

先述のとおりTOHOシネマズ日比谷で鑑賞したのですけど、この映画を日比谷で先行上映するということの皮肉さよ。これはですね、あくまで庶民のみなさまに向けて言うことですが、知る限りのハイソな映画館で観るのがある意味おすすめですよ。観終わってロビーに出るとそこはまだ日比谷のセレブな高層ビルで、清潔なトイレに寄ってから外へ出てもまだ上品な街並みが続いていて。なるべくこの街に相応しい雰囲気で堂々と歩いて、淀んだ空気の地下鉄に降り、生活感溢れたアパートへ帰る。晩飯は駅前の松屋。このリアルさ! 皮肉さ! なんのこっちゃと思われるかも、でも観ればきっと分かる!

内容的には『ジョーカー』のほうがよほど強烈なはずなんですが、アジア圏ということもあってか本作のほうがよりリアルに突き刺さってくるものがありました。わたし日比谷好きなんですよ。半地下の人間が背伸びしてあの街を歩くという行為をわりと好んでいたんですよ。それが、この日の鑑賞後には虚しく思えてしまったのです。こんなに日比谷が似合わないと思ったことはない。この映画を観てから「半地下」に帰っていくのは鮮烈に虚しかった…。

ラストで「地上」を目標に定める主人公。でもきっと韓国の階級問題の現実として(よく知りませんが)それは夢でしかないんだろうな、そういうバッドエンドなんだろうなという気がしますね。わたしも、いまさら日比谷徒歩圏内の億ションに住めるような人生を歩めるのかといったら無理だと思いますね。正月早々落ちる〜! ぜひ多くの半地下メイトなみなさまにこの虚しい体験をしていただけたらと思います(笑)

というのが感想の極端なダークサイド。楽しいほうもありますよ。

とても楽しい映画です

説得力のない見出しです。でも本当に、めちゃくちゃ面白いです。ひょんなことから舞い込んだ家庭教師の依頼、それがこんなことになってしまうとは。ソン・ガンホを大黒柱に据えた薄汚い半地下家族もとい、スキル高すぎな万引き家族の暗躍はただただ痛快!

それからですね、こりゃすげえもんを見たな…とお口あんぐりな箇所がございまして、それはずばり、いややめておこう、とある「攻めすぎなギャグ」があります。ありましたよね。笑いましたか。わたしは笑わないように頑張りつつ、あまりに強引なもんでついには笑ってしまいました。攻めてるわあ…。あそこだけでももう一度観たい気持ちが、怖いもの見たさな気持ちが、悔しいがある…。

ただ、めちゃくちゃ面白いとは言いましたが、アナウンスに見合うほどネタバレ厳禁のどんでん返し映画かというとそれほどでもなく、一寸先も予測できないような映画というわけでもなく、あの「ネタバレ厳禁!」は人によっては期待外れのほうに作用してしまうかもしれません。後半の展開、個人的にはあんまり好きじゃないほうのやつです。それこそ『アス』で◯◯空間が出てきてしまった時のやや興醒め感、みたいなのがあるといえばありました。まあこれは好みの問題、各々の「ツボ」の問題ですね。

奥様にゾッコン

韓国といえば綺麗な女優さんだらけの国でございます。本作では、金持ち一家の方の「奥様」を演じるチョ・ヨジョンさんがまず最高です。うわ〜期待してたとおりの奥様きた〜!ってとこから、うわ〜ド天然〜!ってのですぐ骨抜きです。松嶋菜々子さんとか木村佳乃さんあたりが演じてそうなタイプのセレブな奥様ですね。官能的なシーンは本当にありがとうございました。

その娘を演じるチョン・ジソさんも、だいぶ犯罪的な可愛さがあってよろしくないです。設定上は高校二年らしいですがあの感じはどちらかというと中学生くらい。けしからん。

そして万引き家族側の娘、パク・ソダムさんもいい感じにスレてて好きです。なかなかショッキングな絵面の喫煙シーンが、…彼女あれ脚本で読んでどう思ったでしょうね。「◯◯が噴き出る蓋の上にやおら座り込み…」。水回りの汚い映画は苦手なんですが、あのシーンはどちらかというと好きです。

【ネタバレ強め】下々のことなど見えていない

後半からスリラー映画になってくる本作ですが、さすがにそれバレなすぎでしょ、っていうヌルさが目立ってくると思うんです。そんな片付け方じゃ絶対ダメでしょ、そこに隠れてんのアウトでしょ。

でもこれ、格差社会を描いた映画としては最高に風刺が効いているんですよね。「上」の皆様は「下」など見えていないのです。机の上が綺麗なら、足元にあるあんなものやこんなものは目に入らない。食洗機に何かぶっ込もうとも気付かない。普通に考えて「ここまでか!」となりそうなラーメンのくだりとかも、下々の不安なんて彼らは知る由もないのである、っていう。全てにおいてそういうことなんだと気付いたら、嫌〜〜な映画だな!!と感動いたしました。

ちなみに半地下のスリラーということではオードリー・ヘプバーン主演の『暗くなるまで待って(1967)』をことあるごとにわたしは推しております(笑)

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盲目のヘプバーンが半地下のアパートで強盗に立ち向かうっていう、『ドント・ブリーズ(2016)』の元祖みたいなやつです。めっちゃ面白いし怖いです。「半地下」と聞いて真っ先に思い浮かべたのがこれでした。

閑話休題、と言いたいところですがもうだいぶ長々書いてしまったのでこのへんで。今週末、1/10(金)から全国公開されます。ぜひ劇場でお楽しみください。

(2020年4本目/劇場鑑賞)

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