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主に映画の感想文を書いています

映画「TENET テネット(2020)」雑感|時間の逆行は身体的負担が大きい(体調のいい日に観ましょう)

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クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』IMAX鑑賞しました。かなり前から予告を見ていたので、ついに公開されたのかという感じの作品ですね。ネタバレらしいネタバレはありません(ネタバレできるほど理解してないし)。

出演は『ブラック・クランズマン(2018)』のジョン・デヴィッド・ワシントン他。「時間の逆行」をキーワードとしたSFです。所謂タイムトラベルのように過去へ飛べるわけではなく、あくまでリアルタイムに時間軸を順行もしくは逆行できる技術のある世界が舞台(例えば船で1日かけて1日後へやって来たのなら、また1日かけて逆行しなければ1日前には戻れない)。なんでもこの「逆行」を地球上で一斉に発動させると全ての生物が消滅してしまうらしく、そしてその鍵は一人の男が握っているらしい。どうにか食い止めなければ、というお話。

劇中でも「理解しようと思わないで 感じて」と言われるように、初見の感想としてはご多分にもれず「何をやっているのか分からんが面白い」でした。時間を操れる作品って理解度と関係なく面白いんですよね。最も身近に感じられるSFなのかもしれませんね。

さてそんなわけで1回観ただけではまとまった感想など書けるはずもなく、今回は箇条書きでお茶を濁します(でも箇条書きのほうがいきいきと書けてしまうジレンマ)。

  • 強烈な出オチのオープニング。このシーンでクリストファー・ノーランはとても挑戦的な演出をしている。そう、楽器破壊。忌むべき、楽器破壊。一定数の観客が開始早々、心を引き剥がされたことであろう。立て直すのは大変ですぞ。

  • お高いスーツでパリッと決めたジョン・デヴィッド・ワシントンが超かっこいい。いかにもボンドガール的なエリザベス・デビッキもよい。赤い服が印象的だったせいか、個人的には『イングロリアス・バスターズ(2009)』のメラニー・ロランを連想したりもした。

  • ロバート・パティンソン演じる、やたら話の早いバディ(そりゃそうなのだ)も好い。出会って早々に逆バンジー付き合ってくれる男、惚れちゃう。おかしなネクタイの結び方は『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2(1989)』オマージュなのだろうか。

  • セーリングが思ってたのと違った。富豪のアクティビティって感じだった。「何をやっているのか分からんが面白(そう)」という意味ではじつに本作らしい。

  • 予告で何度も見てきた最高にキャッチーな「飛行機」のシーンは、やはり満足度マックスだった。飛行機って、でかい。ただそれだけをIMAXのパワーで魅せてくれる、映画の原点みたいなシーンである。

  • あんな豪快な手段使っておきながらこっちでは「息止め」とかいう小ワザで乗っかるのもいいよね。

  • ノーランといえば巨大トレーラー、みたいなイメージがある。ハイウェイのシーンはもはやサービスだろう。とはいえおバカな意味でわけわかんなくて一番好きです。どんな発想でああなるんだよ。

  • ここから「逆行」が本格的にスタートし、最初は楽しく観ていたのだが気付くと酔ってしまっていた。「逆行酔い」である。これ結構しんどくて、そんなわたしをよそに映画は猛烈な「動」のパートに突入していく。IMAXの凶悪な重低音が五臓六腑に響き渡る。映像はシュルシュルと逆再生され、船上のコンテナで非人道的に揺さぶられる。洋画だから目を瞑ったら話が追えない。酔いを覚ます隙がない。

  • というわけであわやリバース(うまい)な危機一髪でした。みなさま、どうぞこの作品は体調を万全に整えてご鑑賞ください。わたくし、この日に限って4:30起きの早朝勤務だったのでだめでした。映画館を出た直後の感想ツイートは「内臓が疲れた」

  • 内臓が疲れたといえば、かつて立川シネマシティの極爆上映で『マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)』を観た直後もこんなコンディションだったな……。マスクとか、似てるし……。

  • まさに回文的に戻ってくる後半の倉庫アクションなどは確実にわくわくポイントなのだけど、なにせ胸がむかむかしているため「おっ、なるほどね〜(薄目)」くらいの距離感でしか観ることができず悔やまれる。

  • 全く理解できない終盤の順行・逆行戦はしかし、砂埃を上げながら建ち直っていくビルなど単純に逆再生のおもしろみもあってなんだかんだ楽しんだ。ただ、胸は依然むかむかしている。

  • 雰囲気的にはNetflixの『DARK/ダーク』シリーズに似ているかなと思う。ただ、あっちのほうがまだ断然理解できる。

  • エンドロール、上から流れてくるんじゃないかな、でもそんなベタなことされたらちょっとがっかりするかな、とか考えつつ、実際下から流れてきたのを見て「普通やな」とちょっとがっかりした。人間とはわがままなものである。


以上、後半は体調の芳しくなかった『TENET』鑑賞記でした。繰り返しのアナウンスとなりますがぜひ万全のコンディションでお臨みください。時間の逆行は思いのほか身体的負担が大きいです。

(2020年163本目/劇場鑑賞)

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: Prime Video
町山さんのわかりやすい解説貼っておきます。

AppleTV+オリジナル「ザ・モーニングショー」雑感|セクハラ報道でキャスターが降板となった人気番組の裏側を描くドラマ

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Appleの動画配信サービスAppleTV+で配信されている海外ドラマ『ザ・モーニングショー』を観ました。アトロクこと「アフター6ジャンクション」にて6月ごろから猛プッシュされておりまして、#MeToo運動に端を発した内容の作品ということで脳内ウォッチリスト上位ではあったのですがやっと観ることができました。

結論から書いておくと本当にすごい作品、よくできた作品です。個人的には『チェルノブイリ』級の衝撃がありました。まだまだマイナーなAppleTV+での配信ですが、幸い一週間の無料お試し期間がありますので少しでもご興味持たれた方はぜひ!

あらすじとその魅力

長年続く朝の情報番組「ザ・モーニングショー」。その顔として親しまれてきた男性キャスターがセクシャルハラスメント報道を受けて突然解雇されたところから始まる怒涛の数週間を描いたドラマ。シチュエーションとしては我々の知る芸能界においても悲しいかな思い当たるところがあるはず。映画では『スキャンダル(2019)』を連想される方が多いかもしれません。大筋としては『スキャンダル』と近い作品ですが、本作はドラマシリーズのかたちを取ることで映画よりもさらに複雑・緻密な描写を実現しています。

本作における登場人物たちの考え方は男女・立場問わず様々です。わかりやすい巨悪が存在するわけではなくむしろ誰もが白黒つきにくく、セクハラ報道で解雇されたキャスターにすら感情移入の余地があるように作られています。ただし結論まで「考え方は人それぞれ」というわけではなく、そこには明確な「不正解」があります。自分の考え方と近いキャラクターに感情移入して物語を進めてみよう、さてどこへ行き着くか。男性にとっては特に、決して実地で学んではいけないことをシミュレーションさせてくれる極めて有益な作品と言えるでしょう。

センシティブな題材を扱いつつ単純に面白いドラマであるところも魅力です。既存の作品に(乏しい知識で)例えるなら、急な主役降板がもたらす「空いたイスに座るのは誰だ」という陰謀渦巻く熾烈な王座争いはさながらメディア版『ハウス・オブ・カード』のよう。実在のニュースに沿って進んでいく中盤での重厚さは『ザ・クラウン』を連想させますし、ニューヨークを舞台としたショウビズ界の裏側というところでは『SMASH』を鮮明に思い出すようなシーンも。そのほかお仕事ドラマ、恋愛ドラマ、ヒューマンドラマ、ときにはミュージカルと、各60分の全10話、ものすごい濃度とバリエーションで魅せてくれます。キャラクターも全員が魅力的と言って過言ではない!

そんなわけで面白い! 面白い!! 面白い!!! と夢中で観進めることになるのですが、しかし最後で「面白かった!」とは言い切れなくなってしまうのも大事な点です。だって面白い話ではないから。ドラマの演出・構成としては最終話でとてつもない「面白さ」に達するのだけど、でも実際そこで起こっているのは全く面白くないことなので、というこの塩梅。とにもかくにも実際に観て、体験していただくのがいちばんです。ぜひご覧ください。

出演:ジェニファー・アニストンリース・ウィザースプーンスティーヴ・カレルビリー・クラダップ/マーク・デュプラス/ググ・バサ=ロー 他