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HBOドラマ「チェルノブイリ」各話の感想とその他諸々

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ソ連原発事故を扱ったHBO製作のドラマチェルノブイリ。昨年『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章(同じくHBO製作)が終わった頃からスターチャンネルEXで配信され大変話題になっていましたが、GOTで消耗しきった当時は観る気になれず、ちょうど一年ほど遅れてようやく観ました。昼間に観るもんじゃないと思いつつも、休みの日の午前中から一気に観ました。

本作で描かれているのは、1986年4月26日未明に発生した「チェルノブイリ原子力発電所事故」。冷戦下の“機能不全”により引き起こされ、世界中に脅威をもたらす未曾有の大事故であったにも関わらず全てが後手後手となったこの出来事は、数年後のソ連崩壊に大きく繋がっているといいます。

じつはこのドラマ、たった5話しかありません。1話の尺は平均70分ほどと長めですが、でも観る前の印象としては「なんだそんなに短いんだ」という感じ。それだけに、観終わった後の「たった5話とは思えない……」感は異常です。以下、1話ずつの区切りで感想を書いてみようかなと思います。

Ep.1「1時23分45秒」

1988年4月、誰かが何かを遺して自殺した。誰だろう。何のことを言っていたんだろう。よくわからないまま丸々2年前に時は戻る。窓の向こうで原発が爆発し、光の柱が空に伸びている。さらに時間は遡り、原発内。福島第一原発の事故で知っているような状況が描かれるが、それと比べて職員たちの対応があまりにずさんではないか。それに職員も消防士もマスクすらしていない。何もかも、何故こんなことに?

画面から目を離せないまま60分が終わる。毎話毎話、終わり方がすごい。エンタテインメント的クリフハンガーではなく、ただ呆然と見入っているうちにエンドクレジットが始まりはっと我に返るような。

Ep.2「現場検証」

政府が動き出す。しかし冷戦のさなか秘密主義で凝り固まったソ連の政府は、事実から目を背けようとする。このエピソードでは、ここから先ともに力を合わせていく3名の人物が登場。原発の専門家レガソフ博士、政府のエネルギー担当シチェルビナ、風に乗ってきた放射能からいち早く事態を察した外部の研究者ホミュック博士。

当初あからさまにステレオタイプなお役人キャラとして描かれていたシチェルビナが、現地へ赴くことで「他人ごと」から「自分ごと」へと徐々に態度を変えていく様はとてもよい。レガソフとのバディものとしても楽しめる。しかしレガソフはどうやら冒頭で自殺していた彼のようだ。

このエピソードからようやく防護マスクが登場する。また、ベラルーシソ連時代に「白ロシア」と呼ばれていたことを知る。そもそもチェルノブイリの場所がそんなに西側だとは思わなかった。

Ep.3「KGB

心身ともに疲れてしまう超現場レベルでの話は前話で一区切りとなり、残りの3エピソードは事後対応の話がメインとなる。精神衛生上よく考えられたバランスだ。

このエピソードで印象的に映し出されているのは、原発敷地内で対応に当たった技師や消防士たちの、致死量の被曝による顛末。原発内で血だるまになりながら生き絶えた人々の描写も凄惨だったが、面会のたびに人のかたちを成さなくなっていく入院患者たちの姿はさらに強烈だった。土葬ならぬセメント葬のシーンは劇中最も悲しいのではと思う。一般市民代表として消防士の妻を演じるのは、『ジュディ 虹の彼方に』で好演を見せていたジェシー・バックリー。

Ep.4「掃討作戦」

タイトルの通り、汚染されたものを処理していくエピソード。例えば、多量の放射線を発しながら屋根にばらまかれたままの黒鉛をどうにかしないと作業が進まないため、あの手この手で撤去を試みる。強力な放射線は機械をも壊すということで、過酷な環境下でも無人運転が可能な「月面車」を流用していたのには驚いた。実話だった。また冷戦下ならではの「こんな時に、そんなことかよ」なエピソードには思わず失笑。試行錯誤の末に頼ったものが「人間」だというのもなんとも残酷だ。長い90秒だった。

または、避難区域に取り残された動物、主にペットを「処分」していくエピソード。ここでは1話のみの出演ながらバリー・コーガン(『聖なる鹿殺し』『ダンケルク』etc)が、ほぼ台詞を発さずに印象的な役柄を演じている。そしてやはりセメント葬、どうしてなのか土より圧倒的に悲しい。

Ep.5「真実」

冒頭が秀逸、というか強烈だ。町に活気が戻り、てっきり「数年後」だと思った。しかし、談笑する人々をよく見ると知った顔だった。彼らはもういない。ここにきて、事故当日の朝を見せられていたのだ。

たった5話ながら、じつに構成が考えられている。このエピソードでは法廷が主な舞台となり、シチェルビナ率いる3人のチームがリレー形式で事故の解説をしていく。これが本当に丁寧な、専門家ではない人へ向けた説明で、まさか今更そんなことをしてくれるとは思ってもみなかったので嬉しかった。同時に事故当日の原発内部が回想され、冒頭で見せられた「何故こんなにずさんなのか」という疑問が解消する。多くの人々と同様に「事態が掴めぬまま翻弄されていたが、次第に見えてくる」流れでこの作品は作られていた。

最後はノンフィクション劇のセオリーに則り、現実世界のその後が紹介されていく。劇中から予想されるのとは違う意外な顛末を見せた事案もあり、何度か「よかった!」と素直に喜んだ。

鑑賞を終えて

11時頃から観始めて、小休憩を挟みながら(散歩までしながら)観終えたのは18時。なかなか消耗する作品ではありましたが、「たった5話」のおかげで挫折せずに済んだかなという感じです。70分×5話だから観れたけど、50分×7話だったら心折れてたかもしれない。そんな点もよく考えられているなと思いました。

最近少しずつ読んでいる池上彰さんの「そうだったのか! 現代史パート2」に収録されているチェルノブイリの章を休憩がてら読んだり、観終えてからはやはり池上さんの現代史講義動画「チェルノブイリからフクシマへ」を観たりしました。チェルノブイリ編の内容は本とほぼ同じですが、福島第一原発についてのことは2011年以前に発行された本のほうでは扱われていないため、とても勉強になりました。

そうだったのか! 現代史パート2 (集英社文庫)

そうだったのか! 現代史パート2 (集英社文庫)

  • 作者:池上 彰
  • 発売日: 2008/06/26
  • メディア: 文庫

チェルノブイリは国家としての慢心、福島第一原発も自然に対する言わば慢心、どちらも「そんなことはあり得ない」という思考から被害を拡大させた事故で、あまり同列に語りたくはないものの、多かれ少なかれ似たようなことが繰り返されてしまったのですね。

わたしがチェルノブイリのことを知ったのは、子供の頃に読んだ「美味しんぼ」でした。文脈は覚えていませんが、チェルノブイリという言葉と、大きな煙突のイラストがやけに記憶に残っていたのです。調べてみると、1990年の25巻に収録されたエピソードのよう。

ちなみにわたしは1986年、事故から2ヶ月後の生まれです。凄惨な状況を見ながら「これは生まれた時代のことだ。昔のことではない」という気持ちが常に働き、なんとも言えない気持ちでした。

最近観た作品だと、Netflixドラマの『DARK/ダーク』は1986年のドイツを舞台に、チェルノブイリの影響を受けた原発廃炉が物語の中心に組み込まれています。フィクションですが、全体的にとても『チェルノブイリ』と通じる雰囲気があるのであわせて観るとより楽しめるかもしれません。

『DARK/ダーク』は全編ドイツ語なのが雰囲気を引き立てていましたが、『チェルノブイリ』は基本的にロシア語ではなく英語。そこだけちょっと惜しいなと感じました。

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