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AppleTV+オリジナル「ザ・モーニングショー」雑感|セクハラ報道でキャスターが降板となった人気番組の裏側を描くドラマ

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Appleの動画配信サービスAppleTV+で配信されている海外ドラマ『ザ・モーニングショー』を観ました。アトロクこと「アフター6ジャンクション」にて6月ごろから猛プッシュされておりまして、#MeToo運動に端を発した内容の作品ということで脳内ウォッチリスト上位ではあったのですがやっと観ることができました。

結論から書いておくと本当にすごい作品、よくできた作品です。個人的には『チェルノブイリ』級の衝撃がありました。まだまだマイナーなAppleTV+での配信ですが、幸い一週間の無料お試し期間がありますので少しでもご興味持たれた方はぜひ!

あらすじとその魅力

長年続く朝の情報番組「ザ・モーニングショー」。その顔として親しまれてきた男性キャスターがセクシャルハラスメント報道を受けて突然解雇されたところから始まる怒涛の数週間を描いたドラマ。シチュエーションとしては我々の知る芸能界においても悲しいかな思い当たるところがあるはず。映画では『スキャンダル(2019)』を連想される方が多いかもしれません。大筋としては『スキャンダル』と近い作品ですが、本作はドラマシリーズのかたちを取ることで映画よりもさらに複雑・緻密な描写を実現しています。

本作における登場人物たちの考え方は男女・立場問わず様々です。わかりやすい巨悪が存在するわけではなくむしろ誰もが白黒つきにくく、セクハラ報道で解雇されたキャスターにすら感情移入の余地があるように作られています。ただし結論まで「考え方は人それぞれ」というわけではなく、そこには明確な「不正解」があります。自分の考え方と近いキャラクターに感情移入して物語を進めてみよう、さてどこへ行き着くか。男性にとっては特に、決して実地で学んではいけないことをシミュレーションさせてくれる極めて有益な作品と言えるでしょう。

センシティブな題材を扱いつつ単純に面白いドラマであるところも魅力です。既存の作品に(乏しい知識で)例えるなら、急な主役降板がもたらす「空いたイスに座るのは誰だ」という陰謀渦巻く熾烈な王座争いはさながらメディア版『ハウス・オブ・カード』のよう。実在のニュースに沿って進んでいく中盤での重厚さは『ザ・クラウン』を連想させますし、ニューヨークを舞台としたショウビズ界の裏側というところでは『SMASH』を鮮明に思い出すようなシーンも。そのほかお仕事ドラマ、恋愛ドラマ、ヒューマンドラマ、ときにはミュージカルと、各60分の全10話、ものすごい濃度とバリエーションで魅せてくれます。キャラクターも全員が魅力的と言って過言ではない!

そんなわけで面白い! 面白い!! 面白い!!! と夢中で観進めることになるのですが、しかし最後で「面白かった!」とは言い切れなくなってしまうのも大事な点です。だって面白い話ではないから。ドラマの演出・構成としては最終話でとてつもない「面白さ」に達するのだけど、でも実際そこで起こっているのは全く面白くないことなので、というこの塩梅。とにもかくにも実際に観て、体験していただくのがいちばんです。ぜひご覧ください。

出演:ジェニファー・アニストンリース・ウィザースプーンスティーヴ・カレルビリー・クラダップ/マーク・デュプラス/ググ・バサ=ロー 他