353log

主に映画の感想文を書いています

映画「浜の朝日の嘘つきどもと(2021)」感想|ドラマ版から観るのがおすすめ。あって当然ではない、映画館へのラブレター。

3月11日、何を観ようかと悩んだ末に『浜の朝日の嘘つきどもと』を選びました。「東日本大震災 映画」で検索したら出てきて、あ、これ観そびれてたけどそうだったんだ、って感じでした。福島県南相馬市に実在する映画館「朝日座」を舞台にしたフィクションです。


映画「浜の朝日の嘘つきどもと」ポスター
映画「浜の朝日の嘘つきどもと」ポスター


今感想を書こうとしているのは長編映画版『浜の朝日の嘘つきどもと』ですが、元々は福島中央テレビ開局50周年記念作品として前年に製作された1時間弱の同名テレビドラマ版が存在します。そしてそれは映画版の後日譚にあたります。ということを今知ったので、感想書きをストップして観てきました。

映画版は「朝日座」を立て直す話で、ドラマ版は「朝日座」存続の危機を救った後の話。映画版のラスト、竹原ピストルさん演じる今にも死にそうな男が朝日座を訪れるシーンからドラマ版は始まります。ドラマ版を先に撮ってるらしいのですけど、整合性も概ねしっかりとれててすごく良かったです。「嘘つきども」というワードの意味はドラマ版を観ないとピンとこないかもしれないですね(ってことは映画版でも言ってたアレは嘘だったんかーい!みたいなショックもあり)。

今回「映画版→ドラマ版」の順番で観た感想としては、時系列こそ逆ではあるもののやはり「公開順」で観るほうがおすすめかと思います。どういうことかと言うと、「朝日座は存続する」ことを大前提としておいたほうがノイズなく楽しめると思うんです。映画版は一見そこをクライマックスとしているようでいて、実際のところは「先生」との交流のほうがおそらく物語的にはメインなんですよね。ドラマ版から観ていれば「先生」の現在についても明かされていますし、全てにおいてノイズが軽減されるはず。

何を言っているかわからないかもしれませんが、ぜひそうしてください。


さて(さて?)、映画版のほうの感想としましては、とにかくひたすら純粋な映画館賛歌、映画館へのラブレターといった印象を受けました。個人的にポイント高かったのは序盤で大久保佳代子さん演じる先生が映画の「残像現象」について解説するくだり。映画って半分は暗闇を見てんのよ、というのはわたしの敬愛する大林宣彦監督がことあるごとに語っておられた映画論で、それがベースになっているのかは分かりませんが何にせよそれを最初に言ってくれる映画ってのはそりゃ嬉しいわけです。

映画というのは、どこかで個人的な感性のメディアなんです。ぼくが映画をやっているおもしろさとは、あくまで見たと信じた映像によってものを描くことなんです。だから本当は、一秒に二四回の極めて客観的な情報を映し出しながら、二四回の極めて主観的な暗闇の情緒にそれがどう変わるのかを表現してるのが映画だと思うのです。(「文藝別冊 大林宣彦」p124「闇──ひとりぼっちの空間」より)

またなかなか興味深いのが、度重なる自然災害に加えてコロナ禍で大打撃を受けた老舗映画館をクラウドファンディングで立て直そうとする展開。台詞からはミニシアター・エイドなどの存在も垣間見えます。山田洋次監督の『キネマの神様(2021)』でも終盤そんな展開がありましたが、コロナ禍のミニシアター事情を描いた作品って案外ありそうでない気がするので貴重です。

ただ、努力不足の性善説頼りにも見えるご都合展開が否めず最後にはちょっと冷めてしまう部分も。前述のとおりドラマ版から観ていれば「映画館の存続」は確定事項なのでそんなに気にならなかったのでしょうけどね。なので再度申し上げます、ぜひドラマ版から観てください。


最後に、本作最大の魅力である素晴らしいキャストたちについて。まず主演の高畑充希さん。うんまい。うんまいわ。知ってたけどほんとうんまい。高校生はちゃんと高校生に見えるし、社会に出て垢抜けた姿はしっかり垢抜けてるし、ひたすら口の悪い「謎のねーちゃん」は見事にそれだし。観てる間中こんなに「うまいなあ……」と思わされ続ける役者さん、そうそういるもんじゃないです。落語家・柳家喬太郎さん演じる朝日座オーナーとのアンサンブルも最高です(先に撮ってるはずのドラマ版で既に二人の空気感が完成してるの、すごい!)。

そして映画版の助演俳優賞はぶっちぎり大久保佳代子さん。こちらもすごーく良かった。いわゆる芸人キャスティングではあるのですけど、大久保さんこんなにうまいんだと驚きました。理想の大人像ですよ、かっこいい。あんな先生と出会いたかった。高畑充希さんと大久保佳代子さんの関係性がほんとに良くて、やや唐突なメロドラマ展開にも説得力がありました。あとそう、バオくんはベトナム人技能実習生なんですよね。不勉強極まりないわたしが先日『海辺の彼女たち(2021)』で知ったばかりの。『海辺の彼女たち』からの流れで観ると少々軽く見えなくもないですがまあそういうケースもあるのでしょう。

(2022年40・41本目/U-NEXT)

浜の朝日の嘘つきどもと インタビュー: 高畑充希×大久保佳代子が伝えたい、タナダユキ監督へのメッセージ - 映画.com」を読んでいたら「人は、映画を観に映画館へ行く。でも俺は、映画館へ行くために映画を観る。そういう客がいてもいいだろう?」という言葉が出てきて大きく頷きました。一年前くらいまでそういう感覚はなかったけれど、東京・田端のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」と出会ってからは完全にその感覚で(なんなら映画を観なくても)行くようになったので。

小さな映画館は絶対に必要だと思うし、でも「あって当然」ではないから、微力でも日頃からコンスタントに支えていきたいです。