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映画「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道(2020)」感想と余談|秩父の消えゆく集落を18年間取材したドキュメンタリー

映画「花のあとさき」ポスタードキュメンタリー映画花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』を観ました。

埼玉県秩父の消えゆく集落を2001年から18年間(!)にわたり取材したNHKドキュメンタリー番組7本の再編集版で、このシリーズの存在は今回初めて知ったのですが、じゃあなぜ観たのか?というあたりは後ほど。

舞台となる「太田部楢尾(おおたぶ ならお)」は、こんなところに人が??と思ってしまうような山腹にぽつんと張り付いている小さな集落です。取材開始当時77歳のとても可愛らしいおばあちゃん小林ムツさんを中心に、ドキュメンタリーは進んでいきます。

太田部楢尾とは?

埼玉県秩父山地の北の端。
かつては養蚕や炭焼きが盛んで、100人以上が住んでいた。
取材を始めた平成13年には、
戸数5戸・住人9人・平均年齢73歳となっていた。
作品情報 - 映画『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』公式サイト

楢尾の人たちが使う「〜だいね」「来(き)ない」といった方言は今年の大河ドラマ青天を衝け』が同じく埼玉県の深谷を舞台にしているので身近に感じましたが、ムツさんたちはそんな大河ドラマの時代、江戸時代から受け継いできた畑を自分たちの代で畳もうと、終わり支度を日々進めています。役目を終えた土地には花々を植え、自然の美しさ愛らしさを後世に残そうとしてくれています。

観ていくなかでまず印象的なのは、山で生きていくことの、自然と共生していくことの大変さ。自然は暴力的な面も持ち合わせており、定期的にメンテナンスをしていかないと人間が自然に飲み込まれてしまう。またそこには国がかつて政策として植えさせた杉林の管理なども含まれていて、思った以上に複雑な事情がありました。

と同時に、そんな生活をそれなりに楽しんでもいるムツさんたちの姿はとても格好良く見えます。山の管理と、生きることのプロフェッショナル。とてつもない生活力。もはや現代人はここまで「自然」を使いこなせないでしょう。環境問題ってこういうことか、と腑に落ちたりもしました。

ところでじつはこのドキュメンタリー、「住人のいなくなった楢尾」から始まります。平均年齢73歳の集落を18年間取材するということはつまりそういうことでもあるわけです。よって後半では一人また一人と住人が減っていきます。当然ムツさんも例外ではありません。これが何とも言いがたい苦味でありながら、この作品の最も美しく忘れがたいところです。

83歳になったムツさんは「人生なんてあっけない、あっという間に過ぎたよ」と言いました。人生とは何か。人は一体何のため生きるのか。そんなあまりにもベタな問いの答えとまではいかずとも、これからは折にふれムツさんたちの顔を思い浮かべるだろうなと思います。つまるところ毎日懸命に生き、時が来れば死んでいく、そういうもんだ。当たり前の、しかし抗いたくなる摂理を少し受け入れることができた気がする作品でした。

なぜ観たのか、という話

余談すぎるかなあ。と迷いつつ、書く。これ今回、以前にもご紹介したバリアフリー映画館「シネマ・チュプキ・タバタ(CINEMA Chupki TABATA)」さんにて鑑賞してきたのですけども。じつはどういうわけか、音声ガイドの録音作業に関わらせていただいております。その、わたくしが。僭越ながら……。

備忘録的にここまでの経緯をおさらいしておきますと、愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション」にて昨年の5月に「映画の音声ガイド特集」というのが放送され、まずそれを聴きました。この特集では『愛がなんだ(2019)』の音声ガイドを実例として実際に流しており、当時わたしは『愛がなんだ』未見でしたが、ガイドだけが妙に印象に残っていたんですね。

時は経ち、今年の2月。ついに『愛がなんだ』を観ます。音声ガイドを先に聴いていた作品でしたから、初見なのに脳内イメージが先にあるという不思議な体験をすることになるわけです。そしてそれが結構合致していた。こりゃ音声ガイドやっぱすごいなと再燃し、こんなことを書きます。

映画のクローズドキャプションや音声ガイドなどバリアフリー化のお仕事というのはとても素晴らしい取り組みだと思うし興味があります。関わってみたいなあ。映画「愛がなんだ(2019)」感想|成田凌のダメなところが愛おしい。ていうかみんな愛おしい。 - 353log

これを書いたことが自分を追い込んだのか、その翌週くらいにはいろいろ調べてバリアフリー映画館のシネマ・チュプキさんに辿り着き、お話を伺ったり実際にバリアフリー仕様の映画を観たり、そんなこんなで今月からは見習い修行させていただいていて、右も左もわからぬなか音声ガイド収録のお手伝いをどうにかこうにかしたものが今チュプキさんでかかっている。──というスピード展開です。

録音作業中は内容に浸る余裕などなかったのですが(ひとつの作品にここまで手間をかけるのか、と携わってみて改めて驚きました)、でもきっとこれは真正面から観たらやばいやつ、と思っていて。いざ真正面からしっかり観てみるとやっぱりやばいやつでした。泣いた。とても泣いた。マスクがあってよかった。

さらには、音声ガイド版のエンドロール(抜粋した本編クレジットとガイド制作のクレジットが読み上げられる)をしみじみ聴いていたらなんと、わたしの名前が入っていまして。入れていただいていまして。そんなこと思いもしなかったので頭が真っ白になりました。少し追加で涙しました。

だってね、映画のクレジットに名前が載るなんて、映画好きなら夢というか憧れなわけですけど。こんなかたちで突然叶ったりするのですね。人生わからぬものだと思いました。たまーーーにあるこういうことが嬉しくて生きているのかもしれない。

といった、経緯ありすぎな花のあとさき』。4/30(金)まで上映されております。お近くの方はぜひどうぞよろしくお願いいたします。併映の『北の果ての小さな村で』という作品もちょっとだけお手伝いしているはずですが、こちらは冒頭数十分くらいしか観れていないので内容をよく知りません(笑)



(2021年66本目/劇場鑑賞) 余談が邪魔しているかもしれませんが本当にいいドキュメンタリーでした。