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主に映画の感想文を書いています

音声ガイド付きで映画「音響ハウス」「ようこそ映画音響の世界へ」 を鑑賞 〜バリアフリー映画館シネマ・チュプキさんの取り組みについて〜

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※ひとつ前の記事をもとに大幅加筆、再投稿しました。

JR田端駅近くのバリアフリー映画館シネマ・チュプキ・タバタ(CINEMA Chupki TABATA)さんにて、『音響ハウス(2020)『ようこそ映画音響の世界へ(2019)ドキュメンタリー映画2本を音声ガイド付きで観てきました。

先日『愛がなんだ(2019)』を観た際に映画のバリアフリー化に興味を持ち(詳しくは『愛がなんだ』の感想記事に書いています)、シネマ・チュプキさんはその流れで辿り着いた映画館。鉄は熱いうちに、と早速伺った次第です。

鑑賞前に、ご好意で音声ガイド制作の作業を少し見せていただきました。『音響ハウス』は日本語作品なのでまだいいのですが、『ようこそ〜』は外国語作品であり、そのうえ膨大な量の映画作品や関係者インタビューで構成されています。その全てに適切な日本語吹き替えをおこない、さらに音声ガイドも入れる。これはちょっと途方もない作業の産物です。

以下、『音響ハウス』の簡単な作品紹介に続いて、『ようこそ映画音響の世界へ』の音声ガイドについて詳しく書いていきたいと思います。

  1. 『音響ハウス』の簡単な作品紹介
  2. 『ようこそ映画音響の世界へ』の音声ガイドについて

映画「音響ハウス」

「音響ハウス」とは、1974年の創業以来多くのミュージシャン達に愛され続けるレコーディングスタジオの名前。

坂本龍一矢野顕子松任谷由実佐野元春大貫妙子などなど錚々たる面々の歴史的名演・名盤がここで生まれたのだそうです。葉加瀬太郎さん曰く「僕にとってはアビー・ロードのBスタより音響ハウスの2スタ」だとか。

本作は、ギタリスト&音楽プロデューサー佐橋佳幸さん主導のもとひとつの楽曲を作り上げる過程を追いながら「音響ハウス」のドキュメンタリーとしても成立させているおもしろい作品。名だたるミュージシャン達が次々と音を重ねていき、最終的に出来上がったその曲は主題歌として映画の最後を飾ります。

上に挙げたようなアーティストをお好きな方はもちろん、レコーディングドキュメントみたいなのがお好きな方は間違いなく楽しめるはずですので是非どうぞ。個人的には向谷実さんと中西圭三さん主導で豪華なレコーディング風景をライブ配信していた2010年の企画を思い出しました。


シネマ・チュプキさんでは本作に「日本語字幕」と「音声ガイド」を追加制作して上映(音声ガイドは任意でイヤホンから聴けます)。多くの業界人や専門用語が出てくる作品なので字幕は誰にとってもお役立ちだと思いますし、音声ガイドも同様に理解を助けてくれる嬉しいオプションでした。

映画「ようこそ映画音響の世界へ」

こちらは以前観ているので作品の感想自体はそちらをお読みいただくとして(すごーく面白いドキュメンタリーです)、ここでは音声ガイドのことを書きます。シネマ・チュプキさんにて「音声ガイド付き」で本作をかけていると知ったときすごく驚いたのですよね。だって、ですよ? こういうことですよ?

  • 日本配給時のオリジナル仕様は外国語音声+日本語字幕
  • 劇中には膨大な映画作品が引用されている
  • 関係者インタビューの数もやはり膨大
  • 全ての外国語音声に吹き替えが必要
  • その隙間隙間に音声ガイドも挟み込まないといけない
  • 以上を踏まえた上で、音響効果が主役の作品なのでそれを聴かせる時間も確保せねばならない(音声ガイドで埋め尽すのはNG)

想像するだけで気が遠くなります。

音声ガイド(誰々が何々をしている、といった視覚情報を言語化し音声で吹き込んだもの)の内容はいちから考えないといけないわけですし、吹き替えもただ字幕を読み上げているわけじゃないんです。声優さんたちがしっかりそのキャラクターになりきって、極端な話『スターウォーズ』でC-3POが喋っているシーンが引用されているなら声優さんはC-3POのあの声を真似て吹き込んでいるのです。

また、観る(聴く)人が劇中で引用される作品を知っていた場合に「ああ、あの作品のあのシーンか」と想像することもできるように、「誰々が〜」の部分には俳優の名前ではなく固有のキャラクター名を使い、世界観をあらわすアイテムに関しては「黒い板」ではなく「モノリス」と言ったりもする。そのへんの綿密な調査とバランス感覚にも感服するばかりでした。

とにかくこれ何が言いたいかというと、おそらくは基本ボランティアで作られたと思われるこのとてつもないクオリティの音声ガイドが、今シネマ・チュプキさんという都内一館でしか観る(聴く)ことができない、しかもこれを書いている時点でもう明日の一回しか上映がないという(書くのが遅すぎた!)。ソフト化に際して収録、なんて予定もないという。

ちょっとこれはあまりにも文化的損失ではありませんか。何らかのかたちでもっと広くこの音声ガイドが使われてほしいと切に思いました。

同じようなことをTwitterに書いたらこのようなお返事もいただきました。そういった関係者の方、もしも見ておられましたらシネマ・チュプキさんにお問い合わせいただければきっと何かいい動きがあるんじゃないかなあ……と。微力でもお役に立てるといいのですが。(逆に何か不都合がありましたらすぐ訂正しますのでご連絡ください……!!)

なおシネマ・チュプキさんは視覚や聴覚に障害のない方にも純粋におすすめできる素敵な映画館でしたのでお近くの方はぜひ行かれてみてくださいね。小ぶりで可愛いミニシアターと見せかけて思わず仰け反ってしまうほどの極音仕様にも痺れました。あと、なんとなく田端いい街だなって思いました。

(2021年34・35本目/劇場鑑賞)