映画「愛がなんだ(2019)」感想|成田凌のダメなところが愛おしい。ていうかみんな愛おしい。
今泉力哉監督の映画『愛がなんだ』を観ました。朝ドラ『おちょやん』で成田凌さんのひょうひょうとしたキャラクターと塩顔に惚れ込んでしまい、成田凌成分摂取してえ〜〜〜と思ったことが鑑賞動機その1。
その2は、ラジオ番組『アフター6ジャンクション』で2020年5月26日に放送された「映画の『音声ガイド』の世界」という特集にて、音声ガイドの面から本作が取り上げられており印象的だったこと。
この特集の時点で本作はウォッチリストに入れていたのですが、キャストは意識していなかったので、このたび成田凌さんに惹かれたタイミングで「あ、これそうだったんだ」と気付いた次第です。
加えて、先日『花束みたいな恋をした(2021)』を観たことで青春映画・恋愛映画とおもわしき作品の鑑賞ハードルが一時的に下がっているというのもあり、観るなら今しかねえ、となった感じですね。
とりあえず、めちゃくちゃ好き
『花束みたいな恋をした』は自分の経験と映画を重ね合わせることで完成するオーダーメイドのような作品でしたが、本作はわりと客観的に見ることができて、しかし非常に近しく愛おしい気持ちにもなれる作品でした。端的に、好き!!です。
意中の男性マモちゃん(成田凌)に電話でおつかいを頼まれて意気揚々と彼の家に向かうテルちゃん(岸井ゆきの)、というシーンから映画は始まります。ここがもう、いきなり最高で。
「え〜、今まさに会社ですけど。しかもちょうど帰ろうとしてたとこ。しょうがないなあ〜、じゃあ頼まれてやっか!」
この時のシチュエーションと、迷いのないフットワーク。「この子、ダメだ!」「で、多分この男もダメだ!」って感じが一発で全て説明し尽くされている、ファーストシーンにして完全に引き込んでくる超秀逸なシーンだと思いました。
その期待を裏切ることなく、その後もひたすら最高は更新されていきます。いちいち挙げていたらきりがないほど好きなシーン愛おしいシーンの連続で、ああもうこれ感想なんて書けないよおと困り果てながら観ていました。
成田凌成分は摂取できたか
まだ『おちょやん』と本作しか意識して観た作品はないのであれですけど、少なくとも本作の〈マモちゃん〉に関しては『おちょやん』で杉咲花さん演じるヒロインの腐れ縁として登場する彼に惚れてしまったわたしが求める「成田凌成分」と完全に合致していましたね。120%供給されました。
わたしが好きになった成田凌っていうのは、ひょうひょうとしてて自然体で、だらしのないダメ男に見えるけど憎めなくてむしろ格好良く見えるときもあって、みたいな。こんな男好きになっちゃダメなんだけど、ちくしょう好き!みたいな。
ひょうひょうと自然体な人って、わたしずっと憧れなんですよね。「なりたい」ベクトルでの憧れ。わたしは男ですので、実人生でもそういう自然体な同性に対してはついつい嫉妬してしまうわけです。ああなりたい、って。
それがまあ映画であれば女性視点で見ることもできるので、ただ単純に「好き!」というベクトルで揺さぶられることも可能なわけですよ。そういう意味では今いちばん好きな男かもしれませんね、成田凌。だからそんな彼にゾッコンなヒロインの気持ちもすごい分かってしまう。
愛すべきダメ人間、テルちゃん
岸井ゆきのさん演じるヒロイン〈テルちゃん〉もめちゃくちゃいいんです。あの、笑顔だけが取り柄、みたいな。社交性はあるけど社会不適合者、みたいな。ビジュアルが知り合いの子に似てたってのもあって、いるよねこういう子、って身近に感じて仕方なかったです。
彼女のいいところは、例えば、付き合いの浅い人にもタメ口で話せてしまうところ。これも、敬語が抜けないことで定評のあるわたし(むしろ敬語が心地いいタイプなのだけど)にはひとつ憧れポイントですね。
後半の重要キャラ、江口のりこさん演じる〈すみれさん〉との初対面シーンで職業を訊かれた彼女が言う「私いま無職でね。すごくない? 逆に。」のニュアンスとか、最高以外のなにものでもない。ていうかあれは脚本(か原作か)がすごい。普通なら語尾に「でね」は使わないでしょ。
劇中ではマモちゃんが自然体、テルちゃんが重い女ふうに描かれますけど、実際はテルちゃんも相当な自然体の人間で、マモちゃんも重い男な面を見せる相手がいる。ふたりとも似てるんですよね。
まわりの人々
主要登場人物は、マモちゃん、テルちゃん、すみれさん、それから深川麻衣さん演じる〈葉子〉と、若葉竜也さん演じる〈仲原〉の5名。彼ら彼女らの一方通行な愛情を描いた物語です。
葉子は、とにかく深川麻衣さんがよかったなあと。乃木坂時代からなんとなく好きな方でしたけど、すごく味わいのある、深みのある美人さんになられて。悪女なのかなんなのか、という今回の役はふんわりとしつつも存在感がしっかりあって、終盤のシーンは胸が痛かった。
そんな葉子に心身を捧げるも報われない男、仲原。彼もまた味わいがすごくて、年越しシーンでのテルちゃんとの煩悩会話劇とか、別荘でブチ切れるところとか、終盤の「幸せになりたいっすね」とか、全てが愛おしかった。演じる若葉竜也さん、最近どこかで……と思い調べたら『おちょやん』で京都撮影所時代の健気な助監督を演じていた方で驚き! 事前に本作を観ていたらマモちゃんと仲原っちの共演が楽しめたのね……。
それから先ほども出たすみれさん。大変失礼ながらわたしずっと安藤サクラさんだと思って見てたんですが、正しくは江口のりこさんで、いかん、見分けがつかない。もしかしたらこれまでも間違えてたかもしれない。さておきすみれさんのキャラ造形もよかったですねえ。その流れでパスタかよ!ってとことか最高で、マモちゃんがゾッコンなのもわかる。
ついでにちょっと朝ドラ関連の話をすると、テルちゃんの岸井ゆきのさん、はじめ古川琴音さんかなと思ってたんです。『エール』で成長後の華ちゃんを演じてた方で、『花束〜』にも出てましたね。見ていくうちに違うなとは気付けたんですけど、面白い発見があって、テルちゃんの幼少期と『エール』華ちゃんの幼少期、どちらも演じているのは根本真陽さんという同じ子役さんだったのですよ。似た系統の役者さんだと、幼少期のキャストで繋がることもあるのか!という。
リアルと非現実の混在
本作はすごくリアルな演出・演技が堪能できる映画であるのと同時に、不意打ちの映画的非現実にわくわくさせられる映画でもありました。それが最初に現れるのは「ラップ」のシーン。何言ってんのかなと思ったら「ふ、踏んでる!」と度肝を抜かれる強烈なシーンで最高なんですが、ここを境に「イマジナリー私」みたいなのが出てくるようになります。
イマジナリー幼少期の私とやり合うようなシーンの数々もさらりとしていてよいですし、ミニシアター系の小さいスケールの作品でいきなりこういうのが出てくるとやっぱりアガりますよね。クレジットかなと思ったら役名が出ていたことに途中からやっと気付けるような終盤のアレも印象的でした。
音声ガイド体験の答え合わせ
最後に、鑑賞動機その2として挙げた『アトロク』の「映画の『音声ガイド』特集」について。
映画の音声ガイドというのは、視覚に障害を持つ方のために付けられた、聴覚版の「字幕(クローズドキャプション)」のようなもの。視覚障害があると、セリフを音で聴くことはできるけれど視覚から情報を得ることはできないわけです。映像作品は当然ながら視覚情報に頼っている部分も多い、とは頭では分かっていますが実際どれほど視覚頼りなのかと意識したことはありませんでした。
そこでこの特集では、実際に映画本編の音声とガイド音声を抜粋でオンエア。19:00あたりから冒頭シーンを聴くことができるのでぜひ聴いてみてください。
映像上はヒロインが写りっぱなしのシーンですが、音声のみだとじつに1分以上もセリフがないことが分かります。でもそこをガイド音声が説明してくれると、だいぶイメージが湧くんですね。
わたしもこの特集を聴いた時点では映画未見でしたから、まさに視覚情報ゼロでイメージを膨らませながら聴いていました。なので今回遅ればせながら映像として目にし、あのときの答え合わせができたのはおもしろかったです。しかも、思いのほかイメージ通りだったんです。音声ガイド、おそるべし。
エンタメコンテンツのバリアフリー化については、こちらの特集も非常に興味深かったので併せてどうぞ。
ゲームは門外漢なのであれですが、映画のクローズドキャプションや音声ガイドなどバリアフリー化のお仕事というのはとても素晴らしい取り組みだと思うし興味があります。関わってみたいなあ。
(2021年30本目/U-NEXT)
- 発売日: 2019/10/25
- メディア: Blu-ray