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映画「嘆きのピエタ(2012)」感想|残念ながら、こういう映画は好きです。

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キム・ギドク監督の作品『嘆きのピエタを観ました。前の日には『トガニ 幼き瞳の告発(2011)』で心を痛めていたというのに、翌日観るのがよりによってこれかよ、と後悔しました(時間がなくて、短尺の作品しか選べなかったんや……)。

新型コロナウイルスのため先月急逝したキム・ギドク監督。全くノータッチな監督だったので、訃報を受けてまず初期の代表作と言われる『魚と寝る女(2000)』『悪い男(2001)』を鑑賞。アクの強さに唖然としつつ、「倫理観を超えて訴えかけてくる解せない魅力」「完全アウトな純愛表現」みたいなのが持ち味だったのかなという感想を持ちました。

からの本作、10年ぐらいキャリアを重ねて多少はソフトになっているかと思いきやむしろオープニングから勢いを増していて驚き(ドン引き)です。一応、簡単に物語を追っていきましょう。

主人公は、血も涙もない取り立て屋。返済が遅れようものなら腕を切り落としてでも保険金を搾り取っていくため、悪魔か死神のように恐れられています。しかしそんな彼にも弱みがありました。生まれてこのかた天涯孤独に生きてきた彼の前に、ある日突然「あなたを捨てた母親です」と名乗る女性が現れたのです。最初こそ拒絶しますが、初めて「母の愛」に触れた彼は容易く骨抜きにされ、母と二人つつましい暮らしをしていこうと取り立て業からも足を洗います。とはいえ、カタギになった悪魔をかつての被害者たちが放っておくはずはありません。彼が家を空けた隙に、今や命より大切な母親がさらわれてしまい──。といった、かいつまめば「ヤクザ者のマザーコンプレックスが開花」するお話です。

まるでコメディみたいですが、序盤の血も涙もないっぷりは尋常じゃありません。拳を叩きつけられるシャッターの音、強引に開けられるシャッターの音、「障害者にはしないでくれえ!!」という懇願の声、鈍い機械音と裂くような叫び声、引き戸ぴしゃーん、シャッターがらがらどしゃーん、奥さんの絶叫エトセトラエトセトラ、………地獄!! ギャスパー・ノエ監督の『CLIMAX クライマックス(2018)』が「お酒はこわい!」っていう映画だとすれば本作は「借金はこわい!」っていう話ですね間違いなく。

さて当然「お母さん」が現れたとてこんな悪魔の性根は変わるはずがないだろうと思うわけですが、ところがどっこい彼は一転「ママのお口にパフェあ〜〜ん」な超ド級ザコン男へと変貌してしまうのでした。愛を知った獣はこうもとろけてしまうのか。そう、この主人公、人間の男だと思って見ていると「は?!」でしかないんですけど、この辺から「なんだ獣だったのか」と気付いて、そう思えば全体的にすごい納得です。

で、すっかり優しい心を持ってしまった彼はこれまでのような無慈悲な取り立てができなくなってしまいます。ここで出てくる坂口健太郎似のピュア青年、好きです。腕を切り落とされたとて損失はないと思われるギターの腕前とかまで含めて好きです。あんな肝の据わった奴いるのかしら。もっと他の局面で肝を据わらせるべきだと思う。さておき、もうカタギに戻るよってんで最後に母親の依頼を受けることにする。母ちゃんを傷つけるやつはこの俺が許さねえ。ということで物語は佳境に突入していきます。

こっからがなかなか驚きでした。あ、そういう展開をしていくのか。そういう話だったのか。気の散ることが多すぎて全然気づかなかった。よくできた面白いお話じゃないか。先に観た初期の作品は人物描写という面では狙ってか薄いところがありましたが本作は「主人公」「母親」の2名がしっかり魅力的なキャラクターに描かれていて、そこも面白さに繋がっています。

なんとなく似た空気感だな、と観ながら連想していたのが『復讐者に憐れみを(2002)』や『親切なクムジャさん(2005)』だったので、パク・チャヌク監督の作品みたいなのがお好きな方には刺さる映画かもしれません。わたしの場合は正直、序盤でドン引きしていただけに「うわあ…残念ながら…こういうの…好きだわあ…」と非常に複雑な思いを抱える羽目になりました。

(2021年5本目/TSUTAYA DISCAS

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あ、でもちなみにこれ、なんと第69回ヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞なんですよ。一番の衝撃。あ、あと、怖くて見直せなかったんですけど、食わせたあの部位はどこですか。まさかアレではないですよね。