映画「CLIMAX クライマックス(2018)」雑感|二日酔いの朝みたいな気持ちになれる作品
ギャスパー・ノエ監督の『CLIMAX クライマックス』を観ました。これはですね、ふと「ライムスター宇多丸のシネマランキング2019」のトップ10で未見なの『CLIMAX』だけじゃん、と気付いての鑑賞でございます。ちなみにそのトップ10はこちら。リンク先はわたしの感想です。もはや懐かしい作品も多いですね。
1位 「アイリッシュマン」
2位 「アベンジャーズ / エンドゲーム」
3位 「バーニング 劇場版」
4位 「ブラッククランズマン」
5位 「ROMA/ローマ」
6位 「CLIMAX クライマックス」
7位 「ジョーカー」
8位 「よこがお」
9位 「蜜蜂と遠雷」
10位「岬の兄妹」
さて、では最後の一本『CLIMAX クライマックス』まいりましょう。
あらすじ
ダンスの練習後に催された打ち上げパーティー。飲んで踊って、楽しいひととき。っていうかこのサングリア強いな。なんかヤバいもんでも入ってんじゃねーの。
──じつはLSDが入っていたのである(ここで記憶は途切れている)。
雑感
U-NEXTの紹介文には「ドラッグ中毒に陥った若者たちが過ごす狂乱とカオスの一夜を描いたトランスムービー」とあります。うむ、その通り。的確。
この「トランスムービー」というワードに惹かれてですね、買ったばかりのVRゴーグル「Oculus Quest 2」で目の前に巨大なスクリーンを出現させて没入度ばっちりで鑑賞したわけですが、没入度高すぎて気持ち悪くなってきちゃってVR途中退出と相成りました。映画館で観ていなくてよかった。“未来”ことOculus Quest 2についてはまた改めて。
Oculus Quest 2—完全ワイヤレスのオールインワンVRヘッドセット—64GB
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とにかく後半の「地獄絵図」があまりにもカオスなので、没入度ほどほどな環境で視聴されるのが吉と思います。なんて言うと一体どんなヤバい映画なのかという感じですが(実際ヤバい映画ではあるのですが)、監督曰く本作で伝えたいのは「アルコールは怖い」ってことらしく、うん、確かにそれは間違いなく伝わってます。二日酔いの朝の、もう絶対酒なんて飲まねぇ……っていう感情がそのままパッケージされた映画です。
“この映画でどんなメッセージを伝えたいのか”といったことをよく聞かれるのですが、答えは簡単、“ダンスは楽しい、アルコールは怖い”この二つだけですよ(笑)。これは“アルコールを飲まないキャンペーン用”の映画と言ってもいいかもしれない(笑)。(鬼才ギャスパー・ノエ監督 刺激的な新作『CLIMAX クライマックス』 来日インタビュー! - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン))
アルコールは怖い
程度の差こそあれど、ましてドラッグなどとは無縁にしろ、しかしある意味「普遍的」と言いますか、多くの人が「この感じ」、つまり「楽しいはずの打ち上げがなぜこんなことに」的なことは経験しているんじゃないでしょうか。
ちょいと自分の話をすると、わたしは律儀に20歳までお酒を飲まずにいた人なんですが、まだ未成年の頃に、初めて本番後の打ち上げというやつに参加したんですね。当然シラフで過ごしたその2時間かそこらはかなりトラウマ体験で、なにせ普段あんなに「良識ある大人」だったはずの人が豹変して狂ってる。トイレは吐く場所になっている。おまけに救急車沙汰かなんかになって翌日誰かが誰かの家に謝罪に行ったとかなんとか。自分もお酒が入っていたらその多くは気にも留めなかったんでしょうが、周りが異様な高揚状態にあるなか冷静な目線を持ってしまうとそこは地獄絵図でしかないわけです。
この映画が怖いのは、その状況をただ俯瞰的にカメラが見つめているというだけでなく、「冷静な目線を持ってしまった人」がそこに無力に存在しているところだと思うのですよね。「ねえみんなどうしたのおかしいよ、しっかりしてよ」と涙ながらに訴えてもみんなは夢の中。うーん、ここまでじゃないにしろ、こういう経験は若気の至りな年頃に結構あるなあ。
といった具合で、いろんな痛い記憶がよみがえって気持ち悪くなっちゃう映画でした。なおわたしも成人後はすっかりお酒の席が好きになり、酔った勢いでバリカン持ち出して丸坊主にしたりとかそんな黒歴史もございますが(その直後に免許更新したのでしばらく囚人証明書だった)、今はすこぶる弱くなりオールフリー箱買いな日々です。
清々しいほど無作法な映画
内容は地獄絵図でしたけど、映画作品として客観的に見たときにかなり面白い作りとなっていたので最後にそこを追いかけておきます。冒頭まずアバンっぽいのがあって、誰々に捧げる云々、実話を基にしています云々、そしていきなりのエンドロール。あれはタイトルクレジットじゃないです、エンドロールです。
んでやけに長いインタビュー映像があって、フランス目線でアメリカを見下してきたと思ったらいきなりばーんと「誇りを持って世に出すフランス映画」とかいう、なんやねんな特大テロップ。…からまたしばらく延々とダンスを見せられ、中身のない会話を見せられ(マジで中身がない)、バークレーショットのダンスバトルをそれなりに楽しんでいたら、まさかの満を持してのタイトル! え、なに、ここまでアバンだったの?! ちなみにこれ開始から約45分、じつに折り返し地点です。ふざけてる〜〜けど、悔しいけど、なんかアガる〜〜。
でもう、「本編」はひたすらカオスが極まり(なんといっても“立ちション”の衝撃よね)、カメラがひっくり返れば字幕も天地が逆転し(あんなの初めて見た!!)、『1917』『異端の鳥』ばりの地獄めぐりライドが展開された挙句、夜が明けて生々しい地獄がむき出しになり、恍惚として、スパッと終了。そう、エンドロール先に済ませちゃってるから、昔の映画みたいにスパッと。いやあこれは、でも映画館で観てみたかった気もしてきた。どんな空気になるんだろう。
宇多丸さんのシネマランキング上位作品でいうと『岬の兄妹』と同じかそれ以上に観る人を選ぶ、積極的におすすめはできない作品ですが、凄まじい映画体験をしてみたい方はぜひお試しください。
(2020年201本目/U-NEXT)