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パク・チャヌク監督作品「復讐者に憐れみを(2002)」雑感|エグい、エグすぎる。

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さあ、ハマったらどんどんいきます。パク・チャヌク監督作品履修、引き続きお付き合いください。今回観たのは2002年公開の復讐者に憐れみを。本作に加え、翌年公開『オールド・ボーイ』、さらに続く2005年公開『親切なクムジャさん』までの3作を、パク・チャヌク監督的「復讐三部作」と呼ぶそうです。

さて本作、一言であらわすならば「エグい」。もう少し具体的に言うと「負の連鎖がエグい」「死に様のバリエーションがエグい」。なかなかの衝撃作でした。では毎度のごとく、それぞれ細かく書いていきましょう。なお、もう既に始まっている感がありますがネタバレしますのでご注意ください。

エグみ①「負の連鎖」

あらすじも兼ねて、序盤の展開を追ってゆきましょう。まず主人公その1、緑髪の青年リュウ(シン・ハギュン)が登場。彼は聴覚に障害を持ち、喋ることもできない聾唖者です。彼には唯一の身寄りである姉がいますが、彼女もまた肝臓病を患っており、臓器移植の必要があります。リュウはラジオのお便りコーナーを介し、自らが姉のために臓器提供の申し出をしたと告白。ラジオを聴き、涙する姉。そんな心温まるシーンから映画は始まります。

しかしリュウと姉は血液型が異なり、移植は叶いませんでした。そこでリュウは臓器斡旋業者に望みを託します。彼は会社から解雇されたばかりだったので、退職金の100万円(くらい。劇中では1,000万ウォン)を業者に先払い。案の定、騙し取られてしまいました。追い討ちをかけるように、正規ルートで臓器提供の申し出があったという病院からの連絡。手術費用は100万円。もはやそんなお金、ありません。

「何やってんのよバカ!!」。苛立ちのあまりリュウをボッコボコにしているのは、女友達のユンミぺ・ドゥナ。過激な活動家のユンミは、お金の工面案として「いい誘拐」を提案します。彼女曰く、いい誘拐とは【金持ちの子供を誘拐し、身代金を要求する。こちらにとっては大金な提示額も、金持ちにとってははした金。穏便に解決できるならと金持ちは警察に通報せず支払ってくれるはず。こちらは助かり、金持ちの家族は絆が深まる。Win-Winの誘拐】のこと。誘拐にいいも悪いもない、とリュウは反対するも、ユンミに押し切られ決行してしまいます。

ターゲットにした「金持ち」は、リュウを解雇した会社の社長ドンジンソン・ガンホ。拝借した社長の愛娘をリュウは自宅に連れ込み、預かるていで姉と一緒に三人暮らしを始めます(ただし姉は誘拐のことなど全く知らない)。じつは社長は離婚しており、娘も幼いながらに預けられることへの抵抗がなかった模様。そのため案外いい感じにこの三人暮らしは成立してしまうのでした。

──と結構長く書いてしまいましたが。ここまで観ている限り、そんなに衝撃的なことは起こりません。この「三人暮らし」が長く続いてしまって情が移って……みたいなホームドラマになるのかな、とか呑気に思う程度です。しかも劇中のテレビでは『ぼのぼの』のアニメが流れていたりして(監督がファンなのだそう)、大変のどかなわけです。ところが『ぼのぼの』から数分と経たないうちに観客はどん底まで突き落とされます。姉、自殺。

久しぶりに、映画を観ていて頭が真っ白になりました。

姉は、弟の留守中に誘拐の事実を知ってしまったのです。それだけではなく、彼女は弟が解雇されていたことも知りませんでした。弟は自分が病気になったせいで美大を諦め、自分の看護のために欠勤が増え解雇につながり、そしてついには犯罪に手を染めてしまった。そんなことを知った上で、もはや生きていることはできない。

リュウは呆然としながら車を走らせます。助手席には姉の亡骸、後部座席には未だ拝借中の「社長の娘」を乗せて。向かった先は故郷の地。死んだらその川辺に葬ってほしい、と姉が生前リュウに頼んでいたのです。毛布でくるんだ姉を川辺に横たえ、丸い石を丁寧に乗せていきます。ゆっくりと、ひとつずつ乗せていきます。待たせている娘が対岸から何度もリュウを呼びますが、耳の聞こえない彼は気付きません。あまりにも苦しく辛い埋葬を終えたリュウがようやく振り返ると、川の真ん中で娘は溺死していました。

そんなこと、ある????

というわけで以上2点の「絶望の連鎖」が本作の入り口であり、あろうことか絶望はここからさらに深まっていくのです。これ以上のストーリーを書くのは精神が削れるのでやりません。

付録:エグみ①「負の連鎖」一覧

この時点で、娘の父親ドンジンが主人公その2となります。つまり「復讐者」が2人になるということです。金を騙し取った臓器斡旋業者へ復讐したいリュウ、娘を殺した誘拐犯へ復讐したいドンジン。それぞれの矛先は異なるのですが、「負のキューピッド」とでも言うべきユンナの介在によりドンジンはリュウへ復讐心を燃やすこととなります。

ではここで、それぞれにどんな負の連鎖が発生していくのかを淡々とリストアップしていきましょう。ネタバレもネタバレな超ネタバレを含みますので鑑賞後にどうぞ。

復讐者①リュウの場合

  • 障害を持って生まれる
  • 唯一の身寄りである姉が病を患う
  • 会社を解雇される
  • 臓器斡旋業者に100万円騙し取られる
  • ---復讐開始---
  • ユンナにそそのかされ誘拐をしてしまう
  • 姉が自殺する
  • 誘拐した子供が事故死する
  • ドンジンの復讐相手にされてしまう
  • 臓器斡旋業者を全員殺してしまう
  • ユンナが拷問で殺される
  • 自分も殺され、切り刻まれる


復讐者②ドンジンの場合

  • 会社が経営不振に陥る
  • 妻と離婚する
  • 解雇した元社員に目の前で自殺未遂をされる
  • 娘を誘拐される
  • 身代金を支払わされる
  • 娘を殺される(結果的に)
  • ---復讐開始---
  • 会社を畳み、家も売る
  • 解雇した元社員の一家心中を目の当たりにする
  • ユンナを拷問にかけ殺してしまう
  • リュウを殺し、切り刻んでしまう
  • かろうじて救出した元社員の子供が死ぬ
  • 自分も残忍に殺される


自業自得で殺された人々

  • 臓器斡旋業者


罪もないのに巻き込まれ、命を失った人々

  • リュウの姉
  • ドンジンの娘
  • 解雇された社員とその家族
  • 出前のお兄さん


なかなかどうして頭の中でフィクションとノンフィクションの区別がつかなくなるというか、書いててしんどいですね。書きすぎてること(障害は負か、とか……)もあるかもしれないし、書き漏らしもあるかも。まあとにかく「エグい」ということは伝わるはず。こんなに救いのない話ってありますか。

エグみ②「死に様のバリエーション」

これがねえ、よくもこう盛り込んでくるなと感心してしまうほどのバリエーションでして。第一犠牲者のお姉さんは死に様こそ生々しくはないものの、よりによって穴も掘らず石を乗せるだけという埋葬方法、さらには数日後に腐敗した状態で発見される(しかもドンジンによって)という……。なんで埋めなかったんだろうと不思議でならなかったんですが、DVD特典でソン・ガンホさんが語っているところによればあの撮影場所は近いうちダムになり沈んでしまう場所であると(つまり今は水の底ですね)。もしかしたら物語上でも裏設定としてはそれがあったのかもしれません。

続けて第二犠牲者の娘ちゃん。彼女がまた愛くるしくてですね。あんな可愛い子供にあんな展開をくっつけるなんて監督あなたはそれでも人間か!と思ってしまうレベルにショックでした。溺死もいろんな見せ方があると思うのですが、目をかっ開いた状態で半身浸かってこっちを見ているあの死に様はあまりに衝撃的で……(彫刻の森美術館にああいうのあるよね……)。加えて父親同伴の司法解剖とか、もう、監督………。

ユンナの拷問もすごかった。耳ペロッからのワニ口クリップ(右)、耳ペロッからのワニ口クリップ(左)、ドンジンの「電気一筋」がこんなかたちで回収されるとは。通電中は布を被せているのも想像を煽るかたちで大変悪趣味(これはよろしい意味で)です。そんな布もエレベーターでは取れちゃうんだから。しっかりして。

そしてラスト、リュウの足首パクパクとまさかのバラバラ。水と血の組み合わせがわたし非常に苦手なので足首パクパクは劇中最も嫌だったシーンかもしれません。バラバラに関しては監督がインタビューでめっちゃサイコパスなことを言っていました。リュウの最期、本当はバラバラじゃなかったんですって。目を見開いた死体が10秒くらい大写しになって、最後にまばたきして終わるつもりだったんですって。でもどうしてもシン・ハギュンさんがまばたきしちゃうもんだから、バラバラにしちゃったんですって。ニコニコ語ってました。

さらなるラスト、何者かに惨殺されるドンジン。これも元々は予定していなかったシーンで、ほぼ完成させたあとに追加で撮ったのだそうです。唐突すぎるし周りからも不評だったけど、好きなシーンだったから入れたんですとやはりニコニコ語ってました。メイキングを見てると、撮影中の監督は常にタバコ吸いながらニコニコしてるんですよ。ホンモノだなって感じで心底こわいですね。

これらの衝撃シーンに比べると、リュウが皆殺しにした斡旋業者のシーンなどはもうオマケみたいなもんです。「そこは頸動脈」「あ、抜かないで」。じつに滑稽。

最後は少々麻痺してしまいましたが、こちらもエグみはお分りいただけるかと思います。以上、エグみ2点のまとめでした。ああ疲れた。

(個人的にも)豪華キャスト!な話

リュウを演じるシン・ハギュンさんは、狙ったわけじゃないんですがここ最近観た作品にほとんど出ています。『JSA』から始まって『渇き』『悪女/AKUJO』『エクストリーム・ジョブ』、多分まだまだお見かけする機会がありそうです。難点はお名前が覚えにくいことです(ハン・シギュン、シン・ハンギュなどかすりまくっております)。

ユンナを演じるぺ・ドゥナさんは、個人的にもしかすると一番多くの作品で観ている韓国女優さんかもしれません。最初に意識したのは是枝裕和監督の『空気人形』ですが(なので脱がれても驚きはない)、それより前に『リンダ リンダ リンダ』でも観てます。あとはやはりポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』『グエムル』。彼女は横顔にすごく特徴がありますね。お名前が覚えやすいのもよいです。

そしてソン・ガンホ先輩。先輩も、男の俳優さんでは一番多く観てるかもしれません。意識せず観た『スノーピアサー』が最初で、『パラサイト』からの、遡って『グエムル』『殺人の追憶』、パク・チャヌク作品では『JSA』『渇き』、『タクシー運転手』も観ました。「かっこわるいおじさん」役専門なのかと思っていましたが、パク・チャヌク作品だと決まって二枚目おじさんなんですよね。同じ人だと思えないくらい。役者さんってのはすごいですな。

ちなみにガンホ先輩は『JSA』の撮影現場で監督から本作の構想を聞いたものの、問題作すぎる……ってんでスルー。同じく『JSA』組のシン・ハギュンさんが出演することになったと知り、これでもうオファーは来ないなと安心していたのにお声がかかって3回断ったとか。一方シン・ハギュンさんとペ・ドゥナさんは二つ返事だったそうです。両極端。

(2020年189本目/TSUTAYA DISCAS

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