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キム・ギドク監督作品「魚と寝る女」「悪い男」雑感|完全アウトな純愛物語たち

キム・ギドク監督が新型コロナウイルスのため59歳で亡くなったというニュースが入りました。『嘆きのピエタ(2012)』くらいしかフィルモグラフィを存じ上げない監督でしたが、スキャンダラスな面も含めて名前はよく目にしていたので驚きました。そんなわけでこの機会に初期の作品『魚と寝る女』『悪い男』を鑑賞。奇しくもU-NEXTでの配信期間が昨日までだった2本です。

※公開順とは逆に観たので『悪い男』から書きます。

「悪い男(2001)」

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街中でひとりの女子大生に目をつけた、坊主頭のチンピラ男。彼は彼女を罠にはめて多額の借金を負わせ、夜の街で返済金を稼ぐよう仕向ける。憔悴しきった姿で風俗店に身を置くようになった女子大生が、いつしかその世界に馴染んでいってしまう物語。

1本目にして、なかなか理解に苦しむ映画でした。例を挙げるまでもなく、もういろいろとアウトなの。映像的にも『ポンヌフの恋人(1991)』みたいな質感で、あんま好きじゃないタイプの映画だったわけです*1。黙りこくって目力だけ強い坊主頭の男、とかいう主人公もはっきり嫌いなキャラ造形ですしね(思えば『スウィング・キッズ』もそうだった)。

で、これはよくない「1本目」を引いてしまったなあと思いながら観ていたのですが、不思議といつしか入り込んでしまいまして。ほんとね、ひどい話なんですよ。いい話では100%ないの。でも倫理観とかを超えたところで響いてしまう何かがあって。矛盾に満ちたこの解せない何かが、キム・ギドク作品の魅力だったのかなあと1本目にして思いました。

また、地味な作品ではありながら振り返ってみると映画的な魔法も多くて。「鏡」を使った印象的なシーンの数々を筆頭に、思わず「え?」となる終盤とある人物の「発する声」、いきなりファンタジーの様相を帯びてくる「写真」絡みのあれこれなど。実質「失踪」した女子大生に対する世間からのアクションが一切ないのも不思議といえば不思議です。

好き嫌いは別にして、決してするりさらりと通り抜けてはいかない、ささくれ立った作品でした。

「魚と寝る女(2000)」

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一転、こちらは好きなタイプの「変な映画」でした。順当にこっちから観ていれば「うわーー好きーー」ってなっていたでしょうね(で、『悪い男』で「うわーー…… 」ってなる)。

まず舞台がおもしろい。各種あらすじ等で「釣り堀」と表現されているので実際ああいう「釣り堀」が韓国にはあるのかもしれませんが、絵面的には、大きな湖?がありまして、ぽつんぽつんと釣り小屋のフロートが浮いている。日帰りではなく、しばらく湖上の小屋に滞在して釣りを楽しむような場所みたいなんですけども。

で、そこの女主人というか、熟女手前くらいの女性がひとりで切り盛りしているわけです。客が来ればボートでフロートまで送る。釣り具や軽食なども随時売り歩く(ボートだけど)。デリヘル嬢を呼ぶ客も多いらしく、その仲介なんかもする。ときには自身も売女となる。そんな彼女が、長期滞在しているひとりの男性客に惚れたのかなんなのか執拗な熱視線を送り続け、最終的には愛の逃避行にまで発展するのがこの映画の筋。

先に観た『悪い男』と共通して「いろいろとアウト」な作品なのですが、前述の通りこの「釣り堀」というクローズドなワンシチュエーションのみで繰り広げられる劇なのがすごく面白くてですね。真面目な人なら「あれはどういうことなの??」と困り果ててしまいそうな人魚的設定であるとか、とにかく全編シュールでたまらんのです。ラストの逃げ方も大好きだし、いきなり抽象的にドヤ顔でエンドロールへ突入する様も爆笑してしまう。あーー好きだわ変な映画。

ただ、明確に「嫌」な描写も数点出てきます。悪趣味極まりない「痛さ」。悪趣味極まりない「倫理観すれすれの残酷さ」。前者はベルイマン叫びとささやき(1973)』的なやつだと思っていただければよくて、後者はあれです魚です。あれは悪趣味っていうか複雑極まりないですよね。行為自体は人間の倫理観としてはアウトじゃないのかもしれないけど、それをそう映すのはアウトじゃろ、的な。

というわけでとりあえずこの初期2本を観た感想としては、「完全アウトな純愛表現」みたいなのがキム・ギドク監督の作風なんだろうなと思いました。倫理観を超えて訴えかけてくる、矛盾に満ちた解せない魅力。ううむ。人に勧めるのははばかられるけど人の感想は聞きたい。

(2020年206・207本目/U-NEXT)

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なんかポルノ映画みたいだな。まあ実質そうですけど。

なお、このタイミングでU-NEXTが配信を終了してしまったため手軽に観れる手段が現状ないんですよね(PrimeVideoもお住いの地域ではご利用いただけないらしい)。Blu-rayを貼っておきます。

*1:追記:書いたあとに知ってびっくりしたのですが、キム・ギドク監督、『ポンヌフの恋人』に衝撃を受けて映画作家の道へと進んだという……。であれば逆にむしろ、すごい。何も知らず『悪い男』を観て最初に受けた印象が「ポンヌフの恋人っぽい」だったわけですから。(韓国の映画監督、キム・ギドクさん死去 新型コロナ感染:朝日新聞デジタル