353log

主に映画の感想文を書いています

イ・チャンドン監督作品「バーニング 劇場版(2018)」雑感|原作は村上春樹。何が起きるか読めない地味サスペンス、最高。

f:id:threefivethree:20201128164850p:plain

『バーニング 劇場版』を観ました。昨年あたりライムスター宇多丸さんがよく挙げていたタイトルというイメージがあって、韓国映画に疎い頃からなんとなく馴染みのある作品でしたが、なるほど去年のシネマランキング3位でしたか(このトップ10中だと『CLIMAX クライマックス』だけ観れてないので近いうちに観ましょう→観ました)。

イ・チャンドン監督による本作、じつは村上春樹の短編小説が原作となっており、もともとNHKの企画でテレビ用に作られた作品なのだそう。そのバージョンに1時間くらい足して劇場用映画にしたのがこの「劇場版」なんですね。これ、非常にわたし好みの映画でした。嬉しい!

あらすじ

主人公イ・ジョンス(ユ・アイン)は小説家志望のフリーター。彼はあるとき幼馴染のヘミ(チョン・ジョンソ)と街で偶然再会する。旅行でしばらく家を空けるので猫の世話をしてくれないかと、出会ったばかりの彼に頼んでくるヘミ。自宅へ案内したジョンスを彼女はベッドに誘う。

自閉症だとかいう猫はいくら呼んでも姿を見せなかったが、ジョンスはヘミの部屋に通っては水と餌を替えてやった。

アフリカ旅行から帰国したヘミ。旅行中に知り合ったらしいベン(スティーヴン・ユァン)という男を連れていた。若くして裕福な暮らしぶりのベンにヘミはすっかり気に入られ、ジョンスも共に交流を持つようになる。静かな三角関係が続き、ジョンスの嫉妬が抑えられなくなってきた頃、ベンはふいに打ち明ける。

「僕は時々、ビニールハウスを燃やしています」

2ヶ月に1度くらいのペースでそれをすると落ち着くのだという。犯罪行為なのはわかっている、そしてもうすぐその周期が来る、燃やすビニールハウスは決めてある、と言う。

ほどなくして、ジョンスはヘミと連絡が取れなくなった。

雑感

いやあこれは、語り合いたくなる映画です。もしも映画館で誰かと一緒に観ていたら(わたしの場合そんなことは99%ないですが)、終わった直後「……っていうかさあ?!」と顔を見合わせてしまうことでしょう。こういう「一体どういう話なのか?? 一体これから何が起こるのか?? もしくはすでに起きているのか??」みたいな映画、大好きなんですよね……。

約2時間半と長尺の本作、前半部はシンプルな恋愛ものとして見ることもできます。パッとしない主人公と、彼の前に突如現れた幼馴染の女子。このチョン・ジョンソさん演じるヒロインのヘミがたいへん魅力的で、ときに水川あさみさん、ときに蓮佛美沙子さん、ときに山崎紘菜さん的な感じの、健康的なエロさと言いましょうか、出てくるたびに惚れ込んでしまうキャラ造形になっておりまして、物語を進めていく上で非常に説得力があります。

そんな彼女と幼馴染というだけで約束された関係だと思い込みかけた主人公の前に、到底かなわぬライバルが登場。ポルシェに乗った、よくおごってくれる親切なお兄さん。ヘミよ、そんな奴になびいてしまうのか、いや、でも、いい人だし金持ちだし勝ち目はないんだよな、でもしかしヘミよ。観ている側としても甘じょっぱ切ない展開です。

このままこの方向性で続いていくのかと思いきや、映画中盤で穏やかにぶっ込まれる「ビニールハウス燃やしてます」発言。本作の原作小説は『納屋を焼く』というタイトルですし、あらすじにも大体このワードが含まれてるんです。なので誰かがこの発言をすることはうっすら知っている。でもですよ、この映画見てると、普通に考えてビニールハウス燃やしそうなのは間違いなく主人公のほうなんですよね。だからびっくりしちゃって、ベンお兄さんのほうなの?!と。

そして尺を半分残した状態で、ヒロインは画面上から退場します。ここからがもう、薄ら怖いし面白い。デヴィッド・フィンチャー作品ばりのサスペンスを期待させるビニールハウス巡り、何度となくポルシェを尾行する主人公の薄汚れたトラック、はたまたヘミの虚言症疑惑、もしくはヘミ自体の実在の危うさ、猫はいたのかいないのか。なんなの何がどうなっているの!!

で、一応まあ、具体的なビジュアルは提示して映画は終わるわけですけど、それも虚実が定かでない。というかあれが「実」だったらある意味平凡すぎるから「虚」であってほしいとわたしは思います。ということは主人公は金も才能も……おっと、それもそれで悲しすぎるな。けどビターエンドがわたしは好き。願わくば、ヘミがかろうじて生きていてくれれば。

対南放送が聞こえるほど軍事境界線に近い片田舎で暮らす主人公と、洗練された高級マンションに住まう恋敵の対比、細かいところでは「気楽なパーティー」描写など、のちの『パラサイト 半地下の家族(2019)』と通じる部分の多い作品でしたが、個人的にはこちらのほうがより好みストライクです。最後のちょっと余計な結末を「虚」と取らせてくれる余白がありがたい。薄ら怖い地味映画が好きな方に超おすすめです!

(2020年200本目/PrimeVideo)

バーニング 劇場版(字幕版)

バーニング 劇場版(字幕版)

  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: Prime Video
バーニング 劇場版 [Blu-ray]

バーニング 劇場版 [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/08/07
  • メディア: Blu-ray
おかげさまで今年は200本達成。記念?にすごくどうでもいい駄文も書きました(本当にすごくどうでもいい)。