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主に映画の感想文を書いています

映画「夢半ば」「にわのすなば」—「春原さんのうた」を観た人にもおすすめの新作2本+「道草」の感想

さあて!(いろいろ溜めててどうしよう、の意)

こんにちは、さんごです。今回は、12月前半に劇場鑑賞した2本+先週に劇場鑑賞した1本のお話。1本目は、安楽涼監督の最新作『夢半ば』です。


映画「夢半ば」ポスター
映画「夢半ば」ポスター


安楽さんは『まっぱだか(2021)』でも共同監督の片山享さんと共に監督・出演をされており、この一年でとても馴染み深い存在に。ポスタービジュアルからしてなんとなく雰囲気良さげな『夢半ば』、楽しみにしておりました。が、行けたのはポレポレ東中野最終日。あぶなかった……。

こちら、先日鑑賞した片山享監督の『わかりません(2022)』などと同様、キャストのほとんどが「本人役」で出演をしているタイプの業界内幕フィクション作品となっています。安楽さんも監督兼主演を務め、主人公「あんぼー」として出演。このへんの作品群を観ている人には「知ってる顔だらけ」です。なにせ最初のシーンが「シネマ・ロサで『わかりません』を観た安楽さんが外で柳谷一成さんとばったり遭遇」ですからね。たのしい。

……という内輪感も心地よいのですが、文脈なく観ても当然ながら大丈夫。

安楽さん演じる映画監督「あんぼー」と、大須みづほさん演じるパートナー「みちこ」。二人の日常が丁寧に丁寧に映し出される、静かな映画。だけれども、どうも少しずつ「不在の何か」が見えてくる。気付けばちょびっとだけファンタジーな方向に映画は進み、ちょびっとだけ何か分かったような気持ちになって、気持ちのいいため息が出る。

白眉は、まだあまり読めない段階で出てくる「お花屋さん」のシーン。唐突に大写しされる切り花たちが、ぞくっとするほど美しくて。なんだ、なんだこの、得体の知れない、世界一きれいな花のショットは、と呆然。でもこれ、のちの展開を見ていくと、すごく大切な場面だったということがわかる。なるほどそれは、きれいなわけです。

ちなみにパンフレットに寄稿された片山享監督(本作では監督補・共同脚本)のプロダクションノートによれば、撮影・深谷祐次さんの「スイッチのようなもの」がこのシーンで明確に「押された」と感じたそう。観て読んで納得の、「何かある」シーン。必見。

もういっちょちなみに、本作主演の安楽さんと大須さんは、杉田協士監督作品『春原さんのうた(2021)』にも少し出演されています(なお本作ポスタービジュアルは杉田監督の撮影によるもの)。キノコヤ、書道、喪服。観た方ならこれでお分かりでしょう。前日譚か後日譚か、そういう見方も、できるかも。

前述のとおりポレポレ東中野では終わってしまいましたが、年明けすぐから神戸・本町映画館ほか名阪で上映予定あり。『春原さんのうた』的な、静かで行間の多い作品がお好きな方にはぜひ観ていただきたい一本です。


続きまして、黒川幸則監督作品『にわのすなば GARDEN SANDBOX』。こちらは現在ポレポレ東中野にて公開中。初日に行ってまいりました。


映画「にわのすなば GARDEN SANDBOX」ポスター
映画「にわのすなば GARDEN SANDBOX」ポスター


なぜそこまで気合いが入っているか、というと、こちら「キノコヤ映画」の第一回作品だからです。説明しよう、キノコヤとは聖蹟桜ヶ丘にあるカフェバーで、わかりやすく言えば『春原さんのうた』で主人公がバイトをしているあの店である。

映画『春原さんのうた』のファンになって、何度も訪れたキノコヤさん。なんでも、店主の黒川由美子さんがプロデューサーとなって、パートナー黒川幸則監督の作品を製作していると言うではありませんか。そんなの絶対楽しみ〜〜と指折り待っていたのですよね。

いろいろ割愛しつつ感想にまいりますが、これ、好き! 思いのほかオフビートコメディな幕開けから、どう発展していくんだろうとゾクゾクさせられるミステリアスでスリリングな空気感もあり、SFの香りもちょっとだけあって。同じくポレポレで上映されていた『距ててて(2021)』などがお好きな方はツボなタイプの作品じゃないかと思います。

物語としては、架空の町「十函(とばこ)」を訪れた主人公(カワシママリノさん)が、流れ流されふらふら散歩し続けて全然帰れなくなっちゃうような、白昼夢みたいな、変な話です。キャストがみなさん魅力的で、小さな町での小さな群像劇は『街の上で(2021)』のようでもあるし(本作出演の村上由規乃さんは『街の上で』にも出演)、地味そのものだった「十函」の町が「なんかいい町かも」と思えてくるのはきっとこの「人」たちの力。

そしてキノコヤさんも登場します。おそらくは店内の物をだいぶどかして、結構雰囲気の違う装いに。あのキノコヤさんが、こんなに新しい見え方になるんだなあ。すごいなあ。と思っておりましたが、最大の「違い」はコロナ禍仕様の飛沫防止ビニールが外されていることですね。『春原さんのうた』ではそこも含めた「キノコヤ」だったので、あれがないとこんなに雰囲気変わるんですね。パラレルキノコヤ、キノコヤユニバース、楽しい。

というわけで、『春原さんのうた』の「あの二人」が主役の『夢半ば』『春原さんのうた』の「あのキノコヤ」が製作した『にわのすなば』。どちらもぜひ、ご覧ください!


で、さらに! 一緒に書いてしまいたい作品がございます。シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』にて現在公開中、片山享監督の最新作『道草』です。『まっぱだか』以降すっかりファンになってしまっている片山監督、先日『わかりません』を観たばかりですが、早くも新作です。しかもおそろしく質が高いです。おそろしいです。


映画「道草」ポスター
映画「道草」ポスター


ざっくり言えば「売れない画家」のお話である本作。とはいえ青野竜平さん演じる主人公は売れないことをさほど苦にしている感じでもありません。いいすよこれくらいで、ってなスタンスでにこにこ暮らして、喫茶店にプチ個展を出させてもらってそれで満足、くらいの、ゆるさ。でもまあ、成功したくないわけでは、もちろんない。年齢ゆえの焦りとかも出てくるし。というところに「魔」が差して——、なお話。

まず特筆したいのは、本作、前半、めっちゃくちゃ至福の、胸キュン映画です。田中真琴さん演じる「サチ」が、とにかく、とにかく魅力的。と同じくらい、青野竜平さん演じる「道雄」も、かわいい!!! これ掛け値なしに『花束みたいな恋をした(2021)』と同じ破壊力でキュン死しますんで、覚悟してください。が、しかし、ふわふわ見惚れているといきなりギュッと心臓締め付けられますんで、覚悟してください。片山監督、なんという映画を。

漠然とした感想を言うと、道雄には「けじめ」をつけてほしかった気持ちがあります(私生活ではなくアート面の一件について)。道雄本人の自己満に過ぎないとしても、何らかの「けじめ」を映画の中で映像として見たかった。ラストシーンが晴れやかに見えてしまったので、そこに違和感が残りました。ただ、言い直すと、自己満に過ぎないんだよな。けじめをつけてほしいのはこっちがすっきりしたいからだし、この違和感、もやもやこそが、背負うことなのかもしれない。

もやもやヒリヒリも含めて、とても上質の作品でした。下北沢K2、駅から徒歩0分の距離(ただしおしゃれすぎて5分くらい迷う可能性あり)ですのでぜひ上映期間内にご覧ください。

以上、同じくらいの規模の新作映画3本、一気に感想放出でした。今年はこの規模の作品の魅力を知る年でした。来年はもっとそうかもしれません。ミニシアターも巡っていこうと思います。そのことで書いてない大きめのネタがあるのだけど年内に書けるかしら……。また近いうちに、きっと書きます。

(2022年215・219・222本目/劇場鑑賞)