パク・チャヌク監督作品「オールド・ボーイ(2003)」雑感|15年間わけもわからず監禁されていた男の物語
『JSA(2000)』『お嬢さん(2016)』と観てきたパク・チャヌク監督作品、今回は2003年公開の『オールド・ボーイ』を鑑賞しました。日本の同名コミックが原作となっており(なんでもポン・ジュノ監督からおすすめされたんだそうです*1)、非英語映画としての世界的な興行成績は『パラサイト』に抜かれるまでトップだったとか*2。
ざっくりのストーリーは「謎の部屋に15年間も監禁されていた男が、真相究明に奔走する話」。チェ・ミンシク演じる主人公オ・デスは映画が始まるやいきなり刑務所のようなところに放り込まれてしまいますが、心当たりがありません。ここはどこ? お前は誰? 俺はなぜ? そして15年もの歳月が経過し、今度はいきなり外の世界へ放り出されます。毎日食べさせられていた餃子の味くらいしか手がかりがないところから、さあどうやって真相に辿り着く? 一応そんなお話です。
突拍子のないクライマックスから始まる本作。状況把握がしにくくて、やたらと「時間」を意識させる要素が見えている。映像の質感的にもクリストファー・ノーラン監督の『メメント(2000)』みたいなやつかな? と思いながら観ていたのですが、意外にも韓国エンタメの王道に落とし込んでくる展開! いやあ、すこぶる面白かった。
ネタバレNG系作品なのでとりあえず最初に、ネタバレなしで語れるおもしろポイント
「アクション」をピックアップ。続けてネタバレありの「展開」に触れていきます。
こういうアクションなら好き
わたしは基本アクションに興味がないのですが(という話を最近よくしている)、とはいえ「アクション楽しかった〜!」と特筆したくなるような作品ともたまに出会います。『ジョン・ウィック』シリーズなんかはまさにそうですね。優れたアクションとは、興味のない人をも惹きつけるものである。今考えた定義です。
さてそういう意味では本作のアクション、とても楽しいアクションでした。なんといっても、なぜか延々見てられる横スクロール金槌バトル! 背中にナイフ刺さりっぱなのも可笑しくてたまらないし、爆発ヘアにスーツという出で立ちがどうも葉加瀬太郎に見えてしまってもう最後までずっと葉加瀬太郎の冒険活劇ですよ。さらには折ったペンとか割ったCDとか、身近なプラ製品の凶器化テクがすごい。あれ絶対痛い。
形勢不利なときでもちゃんと見せ場はあって、たとえば強化ガラスに鈍く叩きつけられるシーン。時間差でピシッときて、割れるか割れないのかというちょっとした緊張感。または、自ら頭を撃ち抜いた人間が反動でどんな吹っ飛びかたをするのか、とか。とにかく工夫が多くて楽しい。こういうアクションなら大歓迎なのであります。
※このあとはネタバレ領域です。
【含ネタバレ】ミスリードだらけの展開
観る前になんかチラッと「どんでん返し」とかいうワードが目に入ったせいで、うわ〜どんでん返されるのか〜と常時懐疑的な目線で観ちゃったのですが、いや、それでもあの展開は全くの予想外でした。アルバムのところと「15年の意味」のところで「マジか!」「マジか!!」って声出ちゃいました。鈍くてよかった〜。
思い返せばこの作品、ミスリードがうまいのです。冒頭でやたらと「時計」的なモチーフが登場し、まず「時間」を意識させる。「左回り」を見せることで「逆行」も視野に入れさせる(2020年秋、逆行は旬ですしね*3)。「オールド・ボーイ」という語感から、なんとなく主人公の年齢がミソなのかな、などと雑念を抱かせる。確かに時間も年齢も、遡ることも関係はしているけれど、しかし実際トリッキーなのはそこではない。
個人的に効果てきめんだったのは「催眠術」。よりによって放り出されるところで術を使われるものだから、これは全て夢なのではないか、まだずっと監禁中なのではないかという疑念に付きまとわれていました。しかしやはり、術のかけどころもそこではなかった。
真相を知ってしまえば最初っから、なんならタイトルから伏線ばりばりじゃん!(どころか犯人言ってるも同然)って感じなのですが、その伏線を即座に断ち切るようなミスリードの畳み掛けはお見事としか言いようがございません。劇中でオ・デスが目玉ひん剥くタイミングでこっちも一緒にひん剥いちゃいましたからね、いい観客ですね。
ラストは倫理規範を超えた純愛とも言えるでしょうし、難解な映画と見せかけて結局この作品は「復讐」と「純愛」のザ・韓国エンタメなのだと思います。広く評価されたのも大いに納得です。パク・チャヌク監督にも韓国映画にも「やられた〜〜〜」という完全降伏の一本でございました。なお同名のハリウッドリメイク版があるので鑑賞の際はご注意を。
(2020年186本目/PrimeVideo)
そういえば、監禁中にテレビのニュース映像から時代の流れを見せていくシーンで、最初がソンス大橋の崩落でした。『はちどり(2018)』を観ていなかったら全く知らなかったであろう事故。観ていたおかげで「94年か!」と意味を持つ。映画って勉強になりますね。*2:ユリイカ「韓国映画の最前線」特集号p72より。『パラサイト』が抜いた話なので、解釈間違ってるかもしれませんが。
*3:とかいうことを書いても後から読むとなんのことやらなのである。時間の逆行を題材にしたクリストファー・ノーラン監督の映画『TENET』がヒットしておりました。