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映画「さがす(2022)」感想|ちょっと尋常でなく面白い映画

衝撃の前作『岬の兄妹(2018)』が記憶に残り続ける片山慎三監督の最新作かつ商業映画デビュー作『さがす』を立川シネマシティにて観てきました。出演は佐藤二朗さん、伊東蒼さん、清水尋也さんほか。

「あの」片山監督が今度は佐藤二朗さんを主演に撮るらしいぞ、と早い段階から気にはなりまくっていた作品だったのですが、なかなかタイミングが合わず(先週も早起き失敗して間に合わず)、ようやく、本当にようやっと観れました。そして、めちゃくちゃ面白かった……。もうしばらく新作観なくてもいっか、くらいには思っちゃいました。すっごい映画です。


映画「さがす」ポスター
映画「さがす」ポスター


前作『岬の兄妹』は「問題作」の色が強く、単純に「面白い」とは言えない作品でした。対する本作は、前作を思わせる要素もあるにはありながら、しかし単純に面白い!すごい!と鼻息を荒くしてしまえるような映画に。監督の才能と「商業映画」のバランス取りがうまくいったのだろうなと思います。

岬の兄妹

岬の兄妹

  • 松浦祐也
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さあどうしよう、書きたいことが多すぎて。順に書いていくとしましょう。まず冒頭! 物語の力はまだ働いていないぶん映像やキャラクターで魅せていくのですが、これがもう掴み最高。息を切らして夜の街を駆ける制服姿の少女と、彼女を追うカメラワークの格好良さ(防犯カメラをシームレスに混ぜ込むの痺れる!)。そして行き着いた先に待っているのは20円も払えない万引きオヤジ。もともと困り眉の伊東蒼さんが早速活かされまくるシーンです。

そんな呆れ事件もありつつ、なんだかんだ仲は良さそうな父娘ふたり。伊東蒼さんって『空白(2021)』で全ての発端となる、あまりにショッキングなあの少女なのですけど。あの映画を観た後だと、本作においてはとにもかくにも伊東蒼さんと父親の関係が悪くはなさそうで、なにより生きてる。それだけですごく幸せになります。そんでまた『空白』では出番が短すぎて分からなかったのですけど、伊東蒼さんってものすごく魅力的なのですね。ちょっと個性派なお顔立ちではありながら、いや単純に可愛い。ほんの数分で完全に魅了されてしまいました。

とまあそんなアバンから、佐藤二朗さん演じる父親が突如消えてしまい、学校の先生(サンドラ・オー似)や片想われ男子に協力してもらいながら探しまくることに。優等生なのかと思っていた少女・楓がじつはそんな「いい子」でもなさそう?と見え隠れしてくるこのあたりのシーンもまた楽しい!(ぐるぐる歩き回りながら怒り散らすの超可愛い) ここいらまでは普通に万人向けのエンタメ映画となっておりまして、「あの」片山慎三監督作品であることをちょっと忘れながら観ていました。が、そうは問屋が卸さないわけです。

調べていくうち、どうやらこれは単なる「甲斐性なし親父の蒸発」ではないらしいと分かってきます。思いのほかミステリーな展開にたまらなくわくわくします。さらには時系列が入り乱れ、あれよあれよとフィンチャーばりの猟奇スリラーに。あの可愛い少年少女探偵団たちとこの世界観が交わってしまうのか? どこへ連れて行かれるのか? どこまで最悪の事態を覚悟すればいいのか? 「あの」片山監督は一体どんな球を投げてくるのか? 片山監督そのものが何よりのサスペンス要素になってきます。

一方で、違うベクトルに感情が揺れ動かされる場面も。正直なところ、佐藤二朗さんに泣かされる日が来るとは思っていませんでした。それも2回。1回目はまだ分かります、展開として当然の部分ですから。佐藤二朗さんのお芝居も、演出も素晴らしいです。ただ2回目。これ絵面としては公衆トイレのちょっとしたシーンなんですけど、ものすごい胸を打つ場面で。

ボタンを止めてあげる、それだけのことなんですけどね。彼女もきっと「あれ、このオッサン上手いな」と思ったのでしょう、多目的トイレの使い方もやけに手慣れてるなと思ったかもしれない。そして瞬時にいろいろなことを察した、かもしれない。筆舌に尽くし難いシーンでした。泣かされついでに、佐藤二朗さんの印象が結構変わるこちらのインタビューもおすすめです。


その後も語りたい部分は山盛りですが(いっちばん冒頭の部分はここだったのか!とか。なんとなくパク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』を連想しました。片山監督の、ポン・ジュノ組の助監督という経歴も非常に納得な「韓国ノワール感」が全体的に強く漂う作品でしたが、ここで完全に完成?したというか。そう思って観ると、佐藤二朗さんもまた韓国のおっさん俳優っぽいのですよね。意外と日本にはいないタイプ。どこまで括弧内で喋る気か)筆舌に尽くし難いシーンということで言うと、極め付けはラストの「卓球」ですね! あれは本当に、すごい…。うわーーー映画だ映画だよーーーと、恍惚としちゃいました。

インタビュー等チェックしきれていなくて分からないのですけど、あれって本当にラリーし続けてるんでしょうか。いやこれもしかして球と音だけ合成してるのでは……と途中から思いながら観てて、そしたらまるで種明かしとも取れるような「2回目」があるので「やっぱり!!」と思ったのですけど、でも伊東蒼さんのインタビューによれば本当にやってるっぽくて。

Q.卓球のラリーをしながら、佐藤さんと会話するシーンもとても印象的でした。卓球の練習はどれぐらいされましたか?

伊東:撮影が始まる3週間前から練習が始まりました。本当に最初は全然できなくて、相手のコートにも届かなかったのですが、頑張りました。

映画『さがす』伊東蒼 インタビュー 詳細記事 | SGS109

なんなんだよあの2回目!意地悪だな!という気持ちです。それにしても卓球のラリーがあれほどサスペンスになるなんて。打音の対話と、やがて聞こえてくるあの音。映画館で観てよかったと心底思いました。

あとはなんだろう、そうだ、清水尋也さんについては触れておかないといけませんね。わたし、あの顔にピンときてて。ずーっとピンときてて。でも110番できなかったんですけど、観終わってから調べてやっとわかった。おまわりさんこの人『おかえりモネ』のマモちゃんです。マジかよ。人間不信になりそう。

そんなところで終わりとしておきます。気に入った映画イコールおすすめしたい映画というわけでは必ずしもありませんが、本作に関してはドンピシャでツボにハマり、かつみんな観て!!すごいから!!と遅まきながら猛プッシュしたくなる映画でございました。それこそポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族(2019)』級にヒットしてもおかしくない映画だと思います。ぜひ劇場で!

(2022年35本目/劇場鑑賞)

「キミは一体、誰を探してンの?」ゾクッ。ちなみにこれはわたくし353以外たいそうどうでもいい話ですが、35歳の3月5日に観たこの映画、今年の鑑賞35本目でした。偶然。