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映画「反撥(1965)」「赤い影(1973)」感想|「ラストナイト・イン・ソーホー」に影響を与えた作品2本(ネタバレあり)

エドガー・ライト監督が新作『ラストナイト・イン・ソーホー(2021)』を制作するにあたりインスパイアされた*1という2作品、1965年公開のロマン・ポランスキー監督作品『反撥』と1973年公開のニコラス・ローグ監督作品『赤い影』を観ました。

なるほどここが共通点!みたいな話をする都合上どうしても『ラストナイト・イン・ソーホー』のネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。ネタバレ控えめな感想はこちら。



反撥(1965)

カトリーヌ・ドヌーヴ主演のポランスキー作品があったことを知らなくてまずそこでちょっと驚き。こちら白黒の、かなり静かな映画です。ドヌーヴが寝落ちるシーンで一緒に寝落ちるくらい静かな映画です。

観始めてしばらくはそんなに「インスパイア元」という感じのしない内容ですが、ある一線を超えたところで明確に「なるほど!」となりました。『ラストナイト〜』のモロなネタバレしますけど、サンディの滅多刺しシーンは完全にこれですね。サンディの「バレちゃったパターン」がこの映画なわけですね。

そのほか、壁から灰色の手がガッ!ガッ!ガッ!と出てきて全身捕らえられる演出も全く同じものが出てきますし、謎の男たちが部屋に突然現れてヒロインを襲う演出も、本作の場合は夢かうつつか判別しかねるものではありますが同じです。『ラストナイト〜』は「『反撥』のカトリーヌ・ドヌーヴを救う」映画なのかも。とか言うとポランスキーだから余計ますます『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)』に近くなっちゃいますが。

あとはまあ鏡要素も少しあり、天井のランプも多分同じだったはず。昔の写真が執拗に出てくるのもそうですね。これは本作にしかない演出だと思いますが「広くなる部屋」すごい面白かった。しいて言えばエロイーズのベッドが無限に広がる演出と近いかな。

赤い影(1973)

『ラストナイト〜』がロンドンの、ソーホーの闇だとすれば、こちらは「ベニスの闇」な映画。華やかなはずの「水の都」も、本作の中では禍々しいムードに満ちています。ときには「路地に迷い込む」ことも。このあたりがまず明確な「なるほど」ですね。それから、テレンス・スタンプやダイアナ・リグあたりの役どころに重なる「ミスリード」ですかね。「視えてしまう」ところも広義では共通してます。

ただこの映画に関しては元ネタ云々よりも、純粋に不思議な映画だな切ない映画だなと見入ってました。事故により子供を亡くした夫婦の話で、途中でやけに長くねっとりしたベッドシーンがあるんですけど、しかしなぜか沁みるんです。悲しみを分かち合う行為というふうにしっかり見える。なんでも「映画に出てくる名セックスシーンベスト10」とかで1位に選ばれたりすることもあるそうで、まあ納得かもしれません。

あともうひとつ気になったのが、キーになる人物で「盲目の霊能者」が出てくるんですけども。この人の、視覚障害者であることの演出が非常に細やかなんですよね。劇中ずっと「誘導」が丁寧に描かれてるんです。最近『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール』というドラマが放送されていますが、あの主人公カップルがやってるやつですね。腕を掴ませてもらって並んで歩く、っていう。誘導する人は「曲がります」とか「止まります」とか「どこそこに何があります」とか言うんですけどそれもちゃんと描かれてますね。

『恋です!』の場合は作者の方のお父様が視覚障害を持っていることから生まれた作品のようですが、本作は果たして、原作にそう細かく書いてあるのか、もしくはニコラス・ローグ監督がそういう演出をつけたのか。後者だとすれば家族に視覚障害の方がいるとか、そうでもなければなかなかあの演出は出てこないんじゃないかと思ったりして。気になっています。

だいぶ脱線しつつも以上、『ラストナイト・イン・ソーホー』の監督インタビューで必ずと言っていいほど出てくる「インスパイア元」2作の感想でした。もっとカルチャー面でのインスパイア元も観てみたいところです。

(2021年113, 114本目/U-NEXT, PrimeVideo)