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パク・チャヌク監督作品「渇き(2009)」雑感|ぶっちぎりの変態映画! 意外性だらけな吸血鬼ラブストーリー

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これはまずいです。パク・チャヌク監督、わたし見事にハマりました。『お嬢さん(2016)』よかった、『オールド・ボーイ(2003)』よかった、そしてこの2009年公開作『渇き』。んーーー、どうしようもなく刺さる!! フェチなところに!!

邦題の『渇き』は、なんかいかにも暗め重めの日本映画にありそうなタイトル(ていうか実際ありますね)。今回U-NEXTで視聴したのですが、その説明文にはこうあります。「ヴァンパイアに変貌したカトリック神父の苦悩。カンヌ国際映画祭審査員賞受賞!」。むう、ヴァンパイアというワードは引っかかるものの、神父の苦悩ですよ、地味そう。正直あまり食指の動かない作品。と思ったそこの貴方、ちょっと待っていただきたい。ここで引き返すのは大きな損失です。

とは言ったものの万人におすすめの映画ではありません。なんだよこれ、って半笑いで観続けるような変態映画が好き、という自覚がある方。ぜひご覧ください。わたしが観てきたなかでもぶっちぎりの変態映画だと思います。

一応ざっくりどんな内容か紹介しておきますと、ソン・ガンホ演じる敬虔な神父がひょんなことからヴァンパイアになってしまい、人妻と恋に落ちる話」です。いろいろ意味わかんないしアウトなんですけど、これはいいものですよ……。とてもいいものです……。めぐり逢ってしまった……。映画好きでよかった……。

どうしよう、なに書こうかな……。とりあえず物語の順を追ってみようかな……(ってんで書き進めていった結果、「意外性」というキーワードが浮かび上がってきましたので以下では本作が持つ3つの「意外性」について語ってゆきます)。

とりあえず物語の順を追ってみる

冒頭、まあ予想の範疇でソン・ガンホが神父です。何度か書いてると思うんですがわたし「神父」というキャラクターが苦手です。詰襟んとこの白い部分が、生理的にだめなんです。

さて、思いつめたソン・ガンホが何やら致死率100%の治験(やばい)に参加するようです。ここでご挨拶代わりのダイナミック吐血! クポァ、って感じでしたね。これは強烈です! はい主人公死んだ!

はい主人公生き返った! なんとソン・ガンホは致死率100%のウイルスに打ち勝ってしまったのでした。より一層ありがたがられる神父様。しかしある時、いや祈りとかいうレベルじゃねえだろっていう危篤患者の祈祷をしていた流れで彼はなんか衝動的に患者の血をペロッと舐めてしまいます。するとみるみるパワーがみなぎってくるソン・ガンホ! もしかして俺、なってしまったのでは、ヴァンパイアというやつに。

本能には抗えません。かつて懇意にしていた植物状態の患者から点滴の管を抜き取り、寝そべってダイレクト飲血を嗜むソン・ガンホ。そう、彼はヴァンパイアである以前に敬虔なるキリスト教徒。生き血は飲みたいが殺人は犯せないのです。神よ赦したまえ。願わくば毎日適量の生き血を吸わせたまえ。

映画の面白さとは意外性であるとも言えます。その意味ではまず掴みとして、ソン・ガンホ演じる神父が「敬虔なヴァンパイア」になってしまう「あらすじには書いてあるんだけどなんか思ってたのと違う」感、めっちゃ面白いです。比較的かっこいい、おじさんじゃないソン・ガンホが見れるのもポイント高いですね。

ソン・ガンホ、女と出会う

かくかくしかじか魅力的な人妻と知り合ったソン・ガンホ。あれよあれよと恋に落ち、身体を重ね、極め付けに──と倫理的にも宗教的にも法律的にも完全アウトな状況に(ヴァンパイアに適用されるのかは分からないけど)。でもそんな状態でこそ燃えるってなもんですよ、ふたりの愛は。

キム・オクビンさん演じる人妻テジュさんはかなり早い段階でソン・ガンホ、もといサンヒョンさんがヴァンパイアなことを知ります。最初こそ抵抗を覚えるものの、「生活リズムと食の嗜好が異なるくらいでさほど問題はないのではなかろうか!」などと説得されてあっさり覚悟を決めてくれるテジュさん。いい人ですね。

そんなテジュさんも、サンヒョンから「おいでよ、ひとりではさびしすぎる」と誘われてヴァンパイアの仲間入りを果たします。しかし、人を殺めないよう頑張っているサンヒョンに対し、おてんばテジュさんは「素直にくれた血はおいしくない!」とか言って一般人を襲い始める始末(ソン・ガンホ似のおっさんばっか襲ってるのがうける)。わたしの数少ないヴァンパイア知識源『ポーの一族』でエドガーがアランのおてんばっぷりに頭を悩ませていたのはこんな感じだったのかしら。と想像してしまいます。あ、ちなみに段落冒頭、誘いの台詞はエドガーのです。

ポーの一族 (1) (小学館文庫)

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▲わたしの血肉! 全人類よポーを読もう。

本作の面白さ=意外性その2。このへんからリアリティラインが一気に崩壊していきます。えっ飛んだ? えっ浮いた? 原題の『박쥐』は訳すとコウモリで、なるほど確かにバットマン的な真夜中のファンタジーが突然巻き起こるのです。地に足のつかないハグ。痴話喧嘩だってひらりはらりと夜空を跳びながら。こんな映画だとは誰も思うまい。意外性最高。

キム・オクビンさんの話

f:id:threefivethree:20201107100850p:plain ヴァンパイア・ウーマンのテジュを演じるキム・オクビンさん。このかた全く存じ上げなかったのですが、たとえるなら『愛の不時着』のダン(扮するのはソ・ジヘさん)みたいな冷徹キュート系美女で、わたしの好み猛烈ストライクでございました。魅力的な女性が出てくるかどうか、これは映画の満足度を高める要素として個人的に最も重視するポイント。わたしの場合、キム・オクビンさんのおかげで本作の満足度は掛け値無しに満点もしくはそれ以上です。刺さりまくってしょうがない。

ただこのキム・オクビンさん、もといテジュさん。最初は野暮ったい無愛想なねーちゃんとして登場します。まさかこのねーちゃんが夜空を舞うヒロインになるとは思いもしません。ですが、なるのです。ろくに笑いもしなかった彼女が、サンヒョン神父との出会いで自然な笑みを取り戻し、しまいには狂気をはらんだサイコパスへと変貌していってしまう。出ました、意外性その3。カメレオン女優キム・オクビンさんの振り幅!

特に、突然のディストピアみに驚かされる終盤での、女性としての魅力を最大限に放ちつつもはや人間ではない佇まいなどは「なんだよこれ、なんだよこれ」と薄ら笑いの止まらない映画体験ですし、そこからのあまりにロマンチックでエモーショナルでファンタスティックなビターエンドなんて恍惚とするほかありません。パク・チャヌク作品の代名詞であろう大胆かつ美麗な濡れ場なども特筆したいのですがこの終盤展開を前にしてはエロスすら霞みます。

といった具合で、どうにか本作の魅力がまとまりました。ソン・ガンホ演じる神父がヴァンパイアになってしまう」というあらすじからは想像し得ない、リアリティラインをゆうに飛び越えた愛の奇天烈ファンタジー(エロスもあるよ!)。未見の方がここまで読んでらっしゃるか分かりませんが、フェティッシュで変態的な映画がお好きな方は何卒マストでご覧いただきたいと思います。よろしくお願いします。

(2020年187本目/U-NEXT)

渇き [DVD]

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はてなブログの編集画面に「今週のお題『最近見た映画』」ってのが見えたので乗じておきましょう。最近見た映画でダントツぶっちぎりはこれだ。いや、『お嬢さん』も捨てがたいけど……(いい映画がいっぱいありますね!)。